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劇場で「モスラ」を鑑賞して

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 午前十時の映画祭で上映された映画「モスラ」4Kデジタルリマスター版をⅠ月4日にバルト11(広島県府中町)で鑑賞しました。
 ゴジラなど東宝怪獣作品を見ていたけど、1961年公開の「モスラ」は見ていなかったのでまさに初見での鑑賞になりました。
 モスラと言う怪獣は「モスラ対ゴジラ」や「三大怪獣地球最大の決戦」に平成の「ゴジラVSモスラ」で見ていたけど、モスラが主役となる本作はまだ見ていなかったからです。
 見た感想としては、やはり面白い。
 冒険作品のテイストから小美人を巡るドラマ、そこに怪獣モスラの出現が挟み込み展開は次々に起きて間延びはない。
 主演であるフランキー堺さんが演じる主人公福田善一郎が見ていて楽しい。お調子者のようで情に厚く、ケンカも強いと言う好感が持てる人物なのがまた良い。


 
怪獣モスラと人類の戦い(ミリオタの物好きな視点)

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 ミリオタである自分はまず、インファント島へ出発する調査団が乗る船が旧海軍の「鵜来」型海防艦や「日振」型海防艦を海上保安庁の巡視船として再就役させた船である事に目が行きます。カラーで見られる旧海軍艦艇の名残は貴重です。

ここはそんなミリオタの物好き視点の「モスラ」感想になります。

 ザ・ピーナッツが演じる小美人がネルソンによって連れ去られ、東京でネルソンは小美人を使ってのショーを主催した事からモスラは東京へ向かい、東京で暴れる事になります。
 最初のモスラへの攻撃は太平洋上だ。
 Cー46輸送機がガソリンのような油類の液体を入れたドラム缶を投下し、モスラが進む先の海面に油を撒く。そこへF-86戦闘機が射撃をして火を点けて炎によりモスラを撃退しようとします。
 輸送機を爆撃機のように運用するのは「モスラ」の後に制作される「モスラ対ゴジラ」(1964年公開)でもありましたが、「モスラ」がまず最初なのかもしれない。
 作戦で見ると爆弾や機銃弾をぶつけるのではなく、初手で炎を使うと言うのは珍しさを感じる。とはいえ海面に油を撒いて火を点けると言う作戦の描写は現代では無理な気がする。
 洋上での迎撃を受けてか、モスラは東京近郊のダムから出現し、更にそこから横田基地を地中から現れます。モスラってこんなに地中を潜る能力が凄かったんですね。
 横田からモスラは地上を突き進み東京へ向かう。
 作中では自衛隊ではなく防衛隊がモスラの迎撃に出動します。劇中では戦車隊を特車隊と呼ぶ台詞があり自衛隊が発足して初期の頃だと分かります。
 その特車隊はM4A3E8中戦車で戦います。これは言う第二次世界大戦で使用されたアメリカ軍のM4中戦車の派生型です。映画公開当時は戦後初の国産開発の戦車である61式戦車が採用されたばかりなので登場しません。

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 その特車隊は劇中のオリジナル兵器であるミサイルを三発ランチャーに装備したミサイル戦車なるものが登場する。三発のミサイルを撃ち尽くした車輛が補充を受ける為か移動する描写が個人的に良し。
 個人的に良しと思えたのは戦車の横を白バイらしい警察車輛が併走していた(緊急車輛としての先導をやっていたのかもしれない、実際の出来事では1995年の地下鉄サリン事件で出動する自衛隊車輛が警察車輛の先導を受けて東京を緊急走行した)事だろうか。
 劇中のオリジナル兵器で有名なものが原子熱戦砲だ。
 トレーラー型の車輛にパラボラアンテナ型の発射装置はまさに東宝特撮作品の定番と言える。この原子熱戦砲を運用するのはロリシカ国軍だ。
 このロリシカ国は劇中に登場する架空の国だが、終盤でロリシカ国の都市でニューカーク・シティと言う明らかにニューヨークな街が登場するのでアメリカを想定した国だろうと思われる。

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 と言う事は、「モスラ」の世界では日本とロリシカ国の間に安保条約があって、原子熱戦砲が早く投入できたのもそれが理由かもしれない。
 そもそも、原子熱戦砲は元々何を想定した兵器なのかと思ったけどそれは野暮である。原子熱戦砲のカッコイイのだからそれで良いのだ。

「モスラ」における人の心の描写

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 モスラが東京で暴れる原因が金儲けの為に小美人を連れ去ったネルソンの愚かさかからだ。
 インファント島で最初に小美人を見つけ、ネルソンが連れ去ろうとした時にフランキー堺演じる福田と上原謙演じる原田博士や小泉博演じる中條が反対してその場は阻止する。
 小美人を解放した後で福田は「こういうものは、そっとしてあげた方がいい」と言い、原田や中條は同意する。こうして小美人の存在は秘密になったが、ネルソンは再びインファント島へ行き小美人を連れ去る。

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 ネルソンが小美人を捕まえた事は世界中で報道され、福田は志村喬演じる上司の天野から「何故記事にしなかった」と怒られてしまう。
 福田は「人間だから」と小美人をあえて秘密にしていた事を述べる。天野は福田の言い分が心に響いたか「俺も人間だよ!」と言い返すしか出来なかった。
 核実験の実験場にされた事もあってインファント島を荒らすような事をしたくない、だから何があったかをあえて福田も原田も中條も秘密にしていたのだ。
 そうした心のあり方のやり取りをした次の場面
 ネルソンが主催する小美人のショーを見る為に大勢の人々が押し寄せる場面になる。
 ついさっき、福田が平野へ心に訴えかける場面があって次の場面がこれである。
 小美人を連れ去ったのが人の心に反する間違っていると見せる場面の次に小美人を好奇心から見ようと押し寄せる人々、こんなに皮肉が効いた場面は無い。

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 怪獣映画ではしばしば人の愚かさが描かれているが、「モスラ」におけるこの描写ほど人の心の愚かさを描いた場面は無いと思う。
 だからこそ、モスラは怒りの化身となって東京やニューカーク・シティで暴れる。「モスラ」におけるストーリーはシンプルでありながら深いのである。
 

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