「クーリエ最高機密の運び屋」を見て(ネタバレあり)
9月25日にTOHOシネマズ緑井で「クーリエ最高機密の運び屋」を見ました。
米ソ冷戦時代を舞台にしたスパイが暗躍する世界を描いた本作
ネタバレありで感想を書いて行きます。
スパイの世界に入ってしまった素人(あらすじ)
本作の主人公はベネティクト・カンバーバッチが演じるグレヴィル・ウィン
作中では接待ゴルフで取引先の御機嫌を取り、契約を貰うセールスマンとして登場する。そんなウィンの前に商務庁だと名乗る男と女が現れる。
ランチをしながら話をするウィルと自称商務庁の二人、商務庁の男が「我々はソ連に興味がある。国に貢献しないか?」とウィルに持ち掛ける。
その発言にウィルが自称商務庁の二人が政府の特殊な機関の人間だと察知します。
ウィルが看破した通りに男はMI6のディッキ―、女はCIAのエミリーと諜報機関の職員です。
ウィルはスパイになるのかと戸惑いますが、「危険だったら頼まない」と任務の危険性が低い事を聞いて引き受けます。
民間のセールスマンとしてモスクワに来たウィルはソ連政府の科学委技術委員会でプレゼンをします。そこで委員会の代表であるオレグ・ペンコフスキーと出会う。
そのペンコフスキーがソ連の機密情報を提供する人物だった。
ウィンはペンコフスキーから渡される情報を中身を知らないままモスクワから運び出す仕事を続けます。しかし、キューバ危機の発生と共に二人へKGBの手が伸びて行く・・・
緊迫感更に緊迫感
ソ連の警戒をすり抜けて、ソ連国内で協力者から機密情報を受け取り、イギリスやアメリカへ運ぶのが本職のスパイでは難しい。だから民間人ならば警戒されずにソ連に入れるのでは?とMI6とCIAの二人が話した事が始まりとなる。
選ばれたのが過去に東欧のチェコやハンガリーでビジネスをした事があるイギリス人ヴィンでした。
ウィンは諜報機関のスパイ活動を手伝う仕事をする訳ですが、「誰もがKGBだと思え」と言う忠告を受けて緊張のモスクワ入りをします。制服の警備兵だけではなく、すれ違うモスクワ市民の誰もが危険に見える緊張感の中でペンコフスキーから機密情報を疑われないような形で受け取るウィン
ペンコフスキーも機密情報を小型のカメラで撮影を続け、使節団で訪れたロンドンでMI6とCIAに接触する危ない橋を渡ります。
このジリジリと来る緊迫感が前半続きます。いつKGBが来るのではないかと。
中盤でペンコフスキーの亡命を実行する時が来ます。
逃亡するルートを決め、車や人員を用意します。展開が一気に進んで盛り上がる。
ペンコフスキーはそれとなく家族へ一緒に出掛ける予定を伝え、職場であるGRUでは怪しまれないように細心の注意を払う。
そしていざ出発と言う段階
ペンコフスキーが住むアパートの部屋ではKGBが待っている。
緊張の日々、希望が見えた瞬間からの絶望、何という場面展開の演出だろう。
もしもこれがフィクションでアクション作品なら主人公か誰かが助けに来るのですが、史実を基にした作品なのでペンコフスキーに助けは来ない。
ウィンも乗っている旅客機で捕まってしまう。
やはりソ連は侮れない。
KGB恐るべし
KGBはソ連の情報機関でスパイの取り締まりも行う機関だ。
米ソ冷戦時代を描いた作品では敵役として登場しているこの組織、本作ではまさに恐ろしさを実感します。
ペンコフスキーが自宅でKGBに捕まる場面
ここでKGBはどうやってペンコフスキーを捕まえるに至ったか語ります。
きっかけは西側のイギリス人ウィンへの疑いからだった。いくらビジネスで来ているとは言っても対立している西側の国から何度も来るウィンにKGBは疑いを持っていた。そのウィンと最も多く会っているペンコフスキーに疑いの目を向ける。
KGBは捜査をする為にペンコフスキーに毒を盛ったと言う。
おそらく、KGBの人がトルコ産の煙草を渡した時だろう。煙草に毒が仕込まれていたのだと思う。
ペンコフスキーが入院している間にKGBは、ペンコフスキー宅にある鍵付きの机から機密書類を撮影していた小型カメラを探し出していた。
恐ろしいのは探し出した机を元通りに戻していた事だ。
だからペンコフスキーは亡命を実行する直前まで、そこまで自分の行動が露見していたとは気づいていない。
同じ事はウィンに対しても行われている。
ホテルに置いてある辞書の向きが変わっている。まさに無言の圧力だ。
強引な手段も取り、相手の心理を操る手管にKGBの恐ろしさを感じるのが本作だ。
普通の人が起こした現実
ペンコフスキーが流出させたソ連の機密情報でアメリカはソ連の核兵器の実態やキューバに核ミサイルが配備されている事などを知る。
ソ連にとっては許されない事なのでペンコフスキーもウィンも逮捕される。
囚人となったウィン、カンバーバッチが痩せ衰えて行く姿へ変わる演技が凄い。まさに別人である。
そして捕らえられてから再開するウィンとペンコフスキー
ウィンはもはや机に伏すほど弱っている。そこにペンコフスキーが自分のスパイ行為は全て話したが、ウィンがスパイであるとは言っていないと語る。
ウィンがそれを聞いてペンコフスキーへ「キューバからミサイルが撤去された、君の偉業だよ」と握手をしながら伝えます。
最後となる二人の再会、ここが泣けます。
ペンコフスキーが「全て話した」と言うのを聞いてウィンが自分についても話したのかと訝る様子からウィンをスパイだと言っていないと聞いて喜ぶ顔の展開がたまらない。
この場面の前に尋問で「ペンコフスキーは全部喋った」とウィンへ暗にペンコフスキーが裏切ったと揺さぶられていました。
それでもペンコフスキーが裏切ってはいないと頑張ったウィンが報われた瞬間です。
とはいえ、ペンコフスキーは処刑され、ウィンは米ソ間での交換交渉の成立まで過酷な収容生活を余儀なくされます。
水面下でキューバ危機からの核戦争勃発を防ぐ動きをした二人でしたが、助けは無いかあっても遠いと言う現実を見せられる。
それでもウィルは妻の誤解を解いて溝が無くなり、家庭へ帰る事が出来た。
非情なスパイの世界に入ってしまったウィンでしたが作品としてはハッピーエンドに終われたと言えます。
韓国映画「工作~黒金星と呼ばれた男~」と共通点
(「工作~黒金星と呼ばれた男~」のネタバレを含みます)
作品では共に仕事をするウィルとペンコフスキーとの絆が描かれます。
相手国同士のスパイに絆ができる作品は韓国映画の「工作~黒金星と呼ばれた男」を思い出します。
この作品では韓国のスパイであるパク・ソギョン(ファン・ジョンミン)が韓国のビジネスマンを装い、ビジネスとして北朝鮮国内での活動を出来るようにして北朝鮮の核施設をスパイできるようにするする目的で北朝鮮当局に接触します。
その接触した当局のリ・ミョンウン(イ・ソンミン)の信用を得てソギョンは当時の北朝鮮最高指導者であるキム・ジョンイルとの面会が出来るようになります。
ウィンとペンコフスキーはスパイ活動を知る仲でしたが、ソギョンとミョンウンの場合はミョンウンがソギョンが韓国のスパイだと知らずに信用を深めていました。
それはミョンウンが家族を紹介したり、自宅へソギョンを招きもてなしをしたり、ネクタイピンを贈るほどです。(ソギョンは前の場面でミョンウンへ腕時計を贈っている)
しかし、ソギョンが韓国のスパイだと分かるとミョンウンは一時は銃を向けますが、すぐに国外へ出るように促します。
後の場面でミョンウンはスパイと通じていた事で逮捕されてしまいます。
ウィルとペンコフスキーも、ペンコフスキーは運び屋を辞めるとするウィルを自ら説得し、自分の家族を紹介したりウィルを大事にします。
そんなペンコフスキーだからこそ、ウィンはペンコフスキーの亡命を進んで手助けしようとします。
ソギョンとミョンウン、ウィンとペンコフスキー、危険な国で仕事をする者同士であり心を開ける者同士と言う共通点がある。
非情なスパイの世界で見せる友情の物語としてもお勧めしたい作品ですね。
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