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映画評 「MINAMATA]

 1970年代末期、私が東京で中学生だったころ、交通事故と公害は大きな社会問題だった。町の小さな本屋でも、ユージン・スミス氏の写真集「水俣」が平積みに並べられていた。 初めて見たときは、女性の写真家が撮った写真集だと思った、ロバート・キャパの「死の瞬間の人民戦線兵士」や当時本屋に並んでいたベトナム戦争の戦場写真と比較して、女性的な印象をうけた。世界で有名な写真家が、熊本県の小さな漁村に来ると思えないので、まだ若い才能の有る女性写真家を想像した。後にユージン・スミス氏はライフ誌と専属契約をしている功成り名を遂げた有名な男性写真家だと知った時は、一流の人は才能が桁外れなのだと思った。
 映画の封切前に、「週刊金曜日」9・17日号でユージン・スミス氏の撮影助手を水俣で3年間務めた石川武志氏の映画に関するインタビュー記事掲載があった。とても参考になる記事でした。すぐそばで助手をしていた視点からは、詳細の点で気になる違いがあるようでした、インタビュー最後に「映画にしてもらえてよかった。水俣病やユージンのことを今思い出すことは大切。ーーーーーー」と述べていた。
 水俣病は、公害被害のみでなく、差別・経済成長・官僚主義・貧困・医療・科学等、問題の広がりと根の深さは、私たちの想像を超えているので、1本の映画ですべて描ききれない、しかし映画には映画特有の価値があると思う。
 水俣病のような問題は日本ではフォークロアとして残る方向へ行きがちだ、広く伝わることはないが、その地域社会に真剣に深く考察された重厚な言い伝えとして残って行く。しかし海外では人気俳優ジョニー・デップ主演で、エンターテイメントとしてメジャーシネコンで上映する映画が生まれる、上映されれば不特定多数の人に伝わる何かがある。すべて背負うことはできないが、思い切った割込みを入れ、エンターテイメントを持たせる映画は海外の方が多い。
 日本にも水俣病に関係する映画はある、「水俣 - 患者さんとその世界」土本典昭監督 1971年 「水俣曼荼羅」原一男監督 2020年/372分/日本/ドキュメンタリーなど、「水俣曼荼羅」は上映館が少ないので私はまだ、見ていないが機会あればぜひ見てみたい。

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