10回に1回は10回本気でやった者が掴む

ドイツを撃破した、しかもワールドカップ本大会の場で。その上これまで一度も達成したことのない「ワールドカップでの逆転勝利」までセットで達成。
これはもう私のみならず日本サッカー界にかかわる多くの人々にとって、記憶の中に長く長く輝かしい記憶として刻み込まれる出来事だ。

この戦いについては個人的にも今の気持ちや考えていることを書き残しておきたい、後々のサッカー観戦の時にこの試合から学んだことは必ず活用できると思うから。
そういう意味で、だいぶ乱雑で文字数過多な書き方になるのが今から予想できるが、この試合について思うことをざざっと書いていこうと思う。

勝利の要素は多数、だが全てが重なった


この試合の勝敗を分けたものは何か、という話題は既に活発な議論になっているが、私個人の意見としては、
1つに絞ることはできない、複数の要素が絡み合った結果全てが日本の逆転を形作る流れを作った。
と考えている、逆を言えば
複数の要素の内1つでもドイツが妨害に成功していれば、1-3ぐらいで力の差の通りの負け方をしていたはずだ。
とも考えている。

試合前に始まる駆け引きから最終盤に至るまでの心理的要素まで、挙げ始めたら10以上は要素があるはず。それらの内1つも欠かすことができない。
それらの要素と駆け引きの内容を、試合の時間を追って私のめにどう映ったか書いていく。


先に仕掛けたのは日本


試合開始直後には日本が前からプレスをかけて比較的まともな勝負を繰り広げていた。
8分の前田のオフサイドは質の低さが目立ってしまったが、少なくともああいう形に持ち込めるくらいには日本が善戦していた時間帯だった。
この後は知っての通り、ドイツが日本の嫌な所を突く形を取り、質と戦術の両面で攻勢を始め、日本の一番やられたくない形である「自陣内に押し込み続けられる時間」を作られてしまった。

これを避けるための積極果敢な前プレの必要性は、この試合より前に行われたアジア勢の試合で一目瞭然。
やらなかったorやれなかった国は惨敗、やれたサウジは勝利、オーストラリアも負けはしたが戦えてた時間は前からプレスできてた時間と重なる。

失点は必然的、だがここでブレなかったポイチ


苦しい時間が続く中PKで失点した日本だが、ハーフタイムまでそれ以上の失点は全員の努力でなんとか防ぎきれた。そしてハーフタイムに入ってすぐのインタビューでポイチは「プラン通りだ」と発言。
この発言に私は納得した。納得できるだけの内容だった。Twitter上では不愉快に感じた人達がごちゃごちゃ言ってたが、彼らの言う通りに試合を進めていたら、100%逆転勝利は無かったと断言する。

失点を防げれば最高ではあったが、まぁ相手は天下のドイツ様、難しい要求だ。だがこの失点も相手からすれば理想的な形ではなくPKなのが重要。
バスケで言うシュートモーション中のファウルでフリースローみたいな物で、貰ったけど得点確定ではない。権田はイエローを貰っていないので止めてしまえば文字通り最高なファウルということ。
なのでドイツからしてみれば入れないと損失の大きいPKなため、気分はそこまでよろしくない。

上手さを見せてきっちり決めきったものの、結局この試合を通して日本のゴールネットが揺れたのはこの後のオフサイドのみ。
言ってしまえばドイツは崩しきって綺麗な得点は奪えてない。何なら試合通じて宇宙開発の多さが目立ったように、この試合でドイツは攻め込みこそするものの、効果的で理想的な攻撃ができたと納得できる時間帯はこの前半の時間しかなかった。

ここまで含めると、ポイチからすれば「守備ある程度通用してる、形の問題をクリアすれば全然行ける、前半修正せず1失点なら考えうる限り最高」と思える理由は十分に揃っているのだ。

ポイチはなぜ前半に動かなかったのか


おそらくこの試合を考察する上で一番注目されるのはポイチがあえて苦戦の中不動を貫いた点だろう。
これにはちゃんとした一般人にでもわかる理由がある、だが一般人なら理由がわかってても同じ状況で不動になれるかと言ったらほぼ無理なのだが。

結論から書くと
前半で追っかけの修正をかけた場合、ハーフタイム後にドイツが再修正をかけてきて後半の大部分を後手に回らされるから。
がポイチの不動を選んだ理由だ。

どういうことか詳しく書いていこう

ポイチからすればあのフォーメーション変更に前半中に対応することは完璧でないにしても可能、なぜなら後半開始とともに冨安を投入して完全に状況打開を完了させることができているため、状況の把握と解決策くらいは頭の中にある。
だがその解決を急ぎたくなる心理状況こそがドイツの本当の狙い。

ドイツには豊富な人材が揃っているため、2の矢が止められたなら3の4のと出すだけの引き出しがある。ましてやハーフタイムを挟むなら監督の力量的にもむしろ楽しくなっちゃえる状況だろう。
だがポイチはあえて黙った。ここでおそらくドイツ側には余裕と慢心が生まれた。そこまでポイチが狙っていたとは考えにくいが、予想以上にこのだんまりはドイツをかき乱すことに成功した。

ポイチが動かなかったことで、ドイツからすれば「いい状況が続いているのだから変える必要はない」という心理状況が1点先制したことも相まってチームを支配した。
なのでこの時点でハーフタイムと後半頭はポイチが手を打てば先手を取れることが確定した。本気のドイツであれば日本の対応に対する対策を練ってくるのだが、今回は心理的な甘さに加え、ポイチが超攻撃的に出るという予想外な動きをしてきたため、どこまで予想してきたかは不透明だが、結果的に後手に回る時間がだいぶ増える形になった。

ポイチの常軌を逸した攻めの姿勢と守る権田


ハーフタイムの時点でポイチの頭の中にこの試合を0-1で終わるという考えは皆無だっただろう。じゃなければあんな交代のカードの切り方は無理だ。
しかもそれを選手に伝えて選手もやる気になってチームが一体となってリスクのある攻撃に打って出た。

このチームの勢いと方向性を決定づけたのが12分の三笘と浅野の投入。
これで完全に日本の矢印が前を向いた。57分で既に3枚替え。これはドイツ側が予想していたよりも鋭く速い反撃開始の狼煙だったはず。

だがやはり1度は大ピンチが来るのがサッカーというもの。70分頃のドイツの猛攻を権田が守りきれていなければこの試合は終わっていた。
だが守ったことでチームの士気は大幅に上がり、その後の堂安投入で完全に日本の攻勢が始まる雰囲気づくりが完了した。

酒井の宇宙開発は残念だったが、それに気落ちせず南野投入で75分にして交代枠5枚を全て使い切る、しかも内4枚を前の選手に投入し後ろの選手は削るという、暴挙と隣合わせの采配。
だがこの選択が直後の同点弾につながったのは偶然か必然か、私には必然に思える。しかも南野のシュートのこぼれに蹴り込んだのが堂安。ポイチが先程から矢継ぎ早に入れた選手で仕留めた同点弾。偶然にしては話が出来すぎている。

この時点で前半効きすぎで魔神かと思ったミュラーやギュンドアンがベンチに引いている、相手はフレッシュな選手を入れているとはいえ、入れた枚数では現時点では日本が上。この状況は引き分け狙いなんて落ち着いた考えをする方が悪手。相手がもう2枚交代をかけて来てもお構いなしに攻めあがる日本。
コーナーキックぐらいは与えるものの、浅野の突然やって来たスーパーゴールでついに逆転。

結局ドイツは定石通りに90分まで交代枠を残していたわけだが、この70分台で使い切る日本と、あくまで定石通りに90分まで1枠残すドイツ。この明確な差が勝敗に大きな影響を及ぼしたのは間違いない。

浅野のゴールは見返すほどヤバいと思う


浅野のゴールはシュート打つ瞬間までドイツの選手はノイアー含めて全員が「こっからシュートは無いやろ」と思っていたとさえ思う。少なくとも浅野と競ってたシュロッターベックは100%の対応とは程遠い手抜きな動きに見えた。
ノイアーもこんだけコース閉じとけば十分すぎるというくらいいい立ち位置に居たので、あのゴールはニア天以外に実際コースはなかったし、あそこに迷いなくブチ込んだ浅野がいい意味で狂っている。

フランスとかが自陣深い位置から一本でゴール前まで行って仕留めきっているシーンは今大会で見ているが、まさか日本が浅野でそれを達成してしまうとは、正直私の中にイメージは一切無かった。
これが場の流れというかサッカーの恐ろしさであり面白さなのだなと。そう勉強させていただいた。

終盤はアルゼンチンvsサウジアラビアのような


あのドイツが慌てて攻めてくるシーンが発生するとは予想していなかったが、実際にスコアが動いてしまうと人間とはこうも脆いのだなと。
逆転されてからのドイツの攻撃に怖さや美しさは見受けられなかった。しかし解せないのはパワープレーに持ち込むでもなく個の能力を全面に出すでもない、なんとも微妙なアーリークロスばかり飛ばしてきたこと。
身長で勝るドイツがゴール前での空中戦に活路を見出しに来るのは理解できるが、それにしても手順が雑なので簡単に跳ね返せて怖さがない。
人数や形をなりふり構わないで突っ込んでくるでもなく、かといって冷静にやってるでもない安易なプレーの連続。どっちつかずが一番悪いというのを改めて再認識した。

だがこの格上側がなんだかよくわからないまま時間を浪費するのはアルゼンチンvsサウジアラビアでも見た景色、サッカーとはこういうものなのかなと思いつつも、こういう事例が少なすぎるので検証が難しい。
が逆に、事例が少ないからこそこういう結末から逃れられないものなのかもしれない。

勝利した後のポイチの目は鋭かった


私はアジア予選の時点から予想していた。ポイチは予選のタイミングから既に本大会を想定した戦い方をしている、しかも超格上相手に引き分けどころか勝利を奪うための「弱者が勝つサッカー」を作ろうとしていると。
実際にそれを達成できた直後にも関わらず、ポイチがインタビューや円陣で発したセリフは次の試合へ向けたメンタリティの事だった。

ドイツに勝てたのでコスタリカに勝てば突破、2引き分けでもOKと世界がガラリと変わるくらいいい状況になったにもかかわらず、ポイチの目線は揺らぎがない、むしろ鋭さを増している。

コスタリカは負ければ敗退、引き分けても最後ドイツ相手に勝てなければ敗退で、得失点差的には勝点4での突破はほぼ無い。という状況から、勝てなければ終わりという姿勢で来ることが確定している。
このチームが意思統一し易い状況というのは怖さもあるが逆に日本もそれを逆手に取りやすいとも言える。
どちらにしても簡単な試合にはならない。1つのミスが命取りになる。だがそこはアジア予選を堅守で耐え抜いた上にドイツからPKでしか失点していないポイチなら期待できる。
しっかり守ってカウンターは誰でも思いつく。ポイチなら攻め込んで押し切るぐらいやりかねない。蓋を開けてのお楽しみだ。

気は早いがこの勝利を4年後につなぐために


日本代表がこっから先ずっこけて敗退しようと、ベスト16の壁に阻まれようと、どんな結末になってもこのドイツに勝利したという事実は変わらない。
この試合から学ぶべきことは

・弱者は弱者としてやるべきサッカーをやるしかない
・失点したり相手に形を変えられたりしても慌てない事の重要性
・戦術も大事だがやるのは人間、人間を動かすのはメンタル
・勝ちに行く姿勢を見せなければ引き分けも手に入れれない
・相手の気持ちを折るにはセオリーから外れる度胸も必要

みたいな事が挙げられると思う。
全てがどの試合にも通用するわけじゃなく、取捨選択する必要がもちろんあるが、こういった試合があったという経験を頭の中に残しておかないと選択肢として浮上してこない。
日本が前回大会の反省を活かして4年間やろうとしてきたように、今回は成功体験を次へ繋いでいく作業をしていこう。そうすれば10回に1回だと言われてたのが3回に1回ぐらいまで行ける道筋が見えてくる。

ポイチの策は言うまでもなく「奇策」


ここまでポイチを称賛する内容を書いてきたが、確かに再現性も低く幸運や相手の怠慢によって成立した奇策であることに間違いはない。
だが日本がドイツにまともな勝負を仕掛けたら負けるのは当然、むしろ正当な戦い方を磨いて勝ちに行こうものなら安定して勝てるようになるのに何十年かかる?
今大会に出て試合するというのに、その試合を捨てて長期的視点だけ持てと。そんな選択は間違えている。

理由はどうであれ勝ったことが一番大事。勝利とはたったの小一時間でカトンボを獅子に変えるという某有名な漫画のセリフが私は好きなのだが、いくらいい戦いをしても負けたら成長は少ない。逆にどんな形であれ勝利すれば膨大な経験値が手に入る。
そういう考え方をしているから、この勝利が持つ意味が少ないとか言ってる人を見ると辟易とする。

確かにこの奇策で勝てるのは10回に1回かそれ以下かもしれない、だがそのわずかな確率を掴み取るには、10回を全力でまっとうする必要がある。
そこに教科書的な考え方は不要、そんな安易な選択をするのが全力の選択ではないからだ。ベターな事をやって得られるものはベターな物だけ。大きい物を欲するなら大きな事をやる必要がある。
これも私が好きな麻雀漫画に影響を受けた考え方だが、これを本番でやるのには度胸が必要。

本番で自分の首を賭けて奇策を全力で信じて打ち込める監督、こんな人材をこれまで馬鹿にし続けてきたと思うと、日本のサッカーに対する教育はまだまだだなと、そう思う。
もちろん将来的には普通にやって普通に勝てる選手と監督のセットにするべきだろうが、今は実力的にダークホース以外の生き残る道がないのだから、それを受け入れて適切な判断を下せる監督を本大会まで持ってこれたのは正解だと思う。

お気持ちよろしくです。