監督に求める能力とは

昨今日本代表監督に対して「戦術関連能力の欠如」を訴える人が目につくようになってきた。私自身その監督に大胆不敵とか不敗の魔術師とかそういうワードは似合わない、どちらかと言えば凡将に近い印象を受けてるのは事実だ。

だがこの話にはまだ先がある。

「戦術的な監督」を求めている人達の中には、監督業は戦術関連能力で優劣が決まると決めつけている人がちらほら居る。こういった意見に対して私は「否」と明言したい。なぜなら私は戦術能力は監督業のせいぜい3割程度しか影響してないと考えるからだ。3割関与しているので無視も軽視もするつもりはさらさら無いが、その3割が主たる大部分を占めるとは思わない。

悪い言い方すれば私は「戦術を軽視している」ということになるが、その理由をこれから書いていきたいと思う。同じ意見の人が読んで共感してくれたらもちろん幸いだし、異なる意見の人がこれを読んで意見してくれるのも楽しみにしている。まず読む人数の分母がアレだが()


戦術は積み木の上の方の話 という考え方


戦術の”単純”な話で言えば「前から行く」「しっかりつなぐ」「ポストプレイヤーや裏の空間に蹴る」「SBを上げてサイドから崩す」とかいう感じだが、これらはサッカーチーム作りの積み木においてだいぶ上の方の話だと私は捉えている。

戦術の単純な話でさえだいぶ上なのだから、相手に合わせたり状況に合わせたりとかいった更に高度で先端化した戦術の話ならより上になっていく。

なら土台の方は何なのかと言うと私は以下のポイント2つを挙げたい

・肉体的コンディション

・メンタル的コンディション

試合で高いパフォーマンスを維持できる肉体と心ができることで、練習で磨いてきた戦術的なサッカーを試合で実現できる。

と私は考えている。なので戦術は積み木の上の方、下の方は肉体と心のコンディション。

それぞれの項目についての私の考えを書いていく


肉体的コンディション


コンディションは超大事だ。選手にその能力を発揮させるだけでなく、シーズンや大会を通して継続して戦える集団を作ることは勝敗を直接左右する要素だ。

サッカーは上手くギアを落とす時間などを作ってやりくりしていく上手さが求められるスポーツなので肉体的コンディションは高いに越したことはない。コンディションの差がある試合がどうなるかなんてのは説明するまでもないだろう。

コンディショニングにはスポーツ医学の観点から得られた様々な技術が活用できるが、カーボローディングや筋力トレーニングなどといった「本人の努力」が求められる部分が多々ある。

ここに対して戦術的思想なんてのは全く関係なく、本人の意欲とそれをサポートできる環境が必要で、そこには出場機会やクラブの設備等様々な要素が絡んでくる。

しかもコンディショニングとは一日なにかすればきっかり100%になるようなものではない。練習だけでなく食べたり寝たりといった24時間365日の事なのだ。サッカー選手の仕事の大部分はこのコンディショニングにあると言っていいだろう。

この過酷なプロ生活を有意義に過ごすためには間違いなくこれから記述するメンタルの充実が必須になる。


メンタル的コンディション


人間はメンタルで150%から0%まで浮き沈みする生き物だ。

普段はどんなに上手い選手でも、弱ったメンタルであればミスを連発するし、実力差のある格上の相手にメンタルで押し勝つ試合なんて天皇杯で毎年実例を見ることができる。

メンタルがトレーニングに与える影響というのは絶大で、筋トレの場合はまるっきり同じ内容のものをやっていてもメンタルの差だけで結果に差が出ることがあるとさえ言われている。

メンタルというのは自発的に上げることが難しいくストイックさは一種の才能だ。ストイックでない選手まで含めてメンタルを高く維持するには環境要因が重要になる。

上がるパターン

・試合メンバーに選ばれる

・試合に勝つ

・点を取る(失点を減らす)

・優勝や昇格といった目標が視界に入る

・試合でいいプレーが出る

・チーム内でいい競争が発生する

下がるパターン

・上がるパターンに挙げたものの逆


いいメンタルで試合に望むためには試合の無い日々の過ごし方から見直さなければいけないし、試合中にも高める瞬間をできるだけ作り、下げないようにする工夫が必要だ。


肉体と心を奮い立たせる監督


試合で高いパフォーマンスを維持できる肉体と心ができることで、練習で磨いてきた戦術的なサッカーを試合で実現できる。

私はそう考えていると先ほども書いたが、練習の時点からコンディションは超大事になる。

高い強度で再現性を生む練習をするには心身共に高い位置にいないといけない。なぁなぁな練習で試合につながる経験値は得れない。肉体のコンディショニングでは、食事制限や筋トレといった苦痛を伴う作業が必須だし、メンタルも苦痛の中では下がりやすい。

世界規模で見ても「プロ意識のみで365日24時間プロを続けられる選手」というのはごく稀な存在と言っていい。

ではチームにおいて最もメンタル面で影響力が大きいのは誰か、私は監督だと考える。

試合メンバーを選考する責任者は監督

チームスタイルや練習メニューの根幹は監督の思想

チームの代表者として成績の責任を請け負うのは監督

監督に共感するかどうかでメンタルは上がりもするし下がりもする、それは目指すサッカーのビジョンや成績だけでなく人となりの部分も含めて。


監督に求めるのはメンタルコンディショニング


端的に言えば人心掌握能力とでも書けばいいのかもしれないが、それを持っている「モチベータータイプ」と呼ばれる監督が日本にも複数いる。有名なのは名波浩氏だろう。その監督が就任しただけでなんとなくチームが明るくなるような。そういった特性まで無くとも、監督には選手のモチベーションを下げないようにする事はどのチームでも求められている。

私はそのメンタルコンディショニングの能力が監督に求められる最大の要素だと思っているが、それだけでチームを常勝にさせることはできない。メンタリティで立っているチームが連敗などで監督への信頼を失ってガタ落ちするパターンもよく見るし、気持ちだけが空回りする試合なんてのも珍しくない。

やはりサッカーで勝つには気持ちだけでなく技術や戦術も必要だ。だからモチベーターであればサッカーの知識経験が薄くても監督として有能だなんて言うつもりは全く無い。だが、技術や戦術を生み出すいい練習やチームの雰囲気を作るには高いモチベーションが必須なので、土台にモチベーター要素は必須だということ。

戦術ばかり傾倒してそれ以外の部分を軽視するなということ。戦術的な美しい勝利は最高の華だが、その高みに到達するにはしっかりとした土台が必須。皆さんも土台に対する意識をもう一度考え直してみてはいかがだろうか。

お気持ちよろしくです。