4-3-3のキーワードは「高出力」
某ウイルスのせいで日程が大幅に変更となった今年の人間界。
Jリーグは突然の中断期間に入ったとはいえ、開幕からたったの2~3試合でということもあって、分析屋はデータの元手が少ないのが悩みのタネになってるのではないでしょうか?
今回はフロンターレの4-3-3を見る時に使えそうなキーワードとして
高出力
という単語を軸に話しをしていきますが、話す上での比較対象は先日ツイートしたとおり↓
これらの比較対象を上手く使えば、たった数試合しかない今季のデータ以上に深堀しやすいと思います。
まずはじめに4-3-3と高出力をつなげる話からしていきましょう。
「4-3-3は守備が弱い」は昨年のマリノスが反例
4-3-3というフォーメーションは一般的に
・高い攻撃力
・やや弱い守備力
といったように、攻撃寄りとか前掛かりとかいうイメージを持たれやすいかと思います。
しかし、2019年を制したマリノスの戦績を見てみると
34試合38失点は18チーム中6位となかなか好成績で、1試合1と少しの失点量はだいたい及第点といえるものでしょう。
確かに68得点は2位の神戸に7差、3位の川崎とガンバに11差と大きな差がありますが、得失点差でも1位になれた部分には「守備が難点といわれる4-3-3でもある程度守れたから」という理由が必ずついてくるでしょう。
どうしてマリノスは4-3-3でも34試合38失点に抑えられたのか?
ここにも高出力のキーワードが見え隠れしていますが、次のポイントに移りましょう。
4-3-3でも守備が軸になることもある
今年従来の形を変えて4-3-3にチャレンジをしたチーム同士の試合となった川崎-鳥栖の試合。どちらも攻撃力を高めるために採用したという部分では一致しますが、実は4-3-3は攻撃で流れを作ることしかできないわけではないのです。
3トップが効率よくパスコースを切ってキーパー含めたディフェンスラインにプレスすることで先制点を取ったガンバのように、4-3-3も守備で違いを作ることは可能です。
中盤の選手の脇に穴があり、それを埋めるためにコンパクトにすれば裏に穴ができる。この構造そのものは間違いなく存在します。しかし
と有名な方が言っているように、前に持ってこられる前に3トップで潰してしまえば穴とかどうこう言ってられないわけです。
ビルドアップの中継点や目標点となる穴を抱えていても、土台を崩してしまう前からのプレスで「穴を無効化」どころか「ショートカウンター」という武器にしてしまえる。それが現代の4-3-3の考え方です。
それに加えて前に飛んできたボールを確実にハントする選手がいればなおさら鬼に金棒。
マリノスでいえばチアゴ・マルチンス
フロンターレでいえばジェジエウ
加えてキーパーの守備範囲で広大な空間をカバーしてしまうという考え方も普及したことで、以下のようなワークフローで守備の穴を極力減らすことができるようになり、「守備で圧倒する4-3-3」が現実のものになりました。
3トップが前からプレスをかける
↓
中盤以降も連動してコンパクトに高い位置をとる
↓
中盤脇の穴はサイドの選手がカバーする
↓
ディフェンスラインは実質2CBで守ることもあるが、チアゴやジェジエウのような選手で強引に守る
↓
裏のスペースはキーパーの範囲拡大とCBの能力で上下から消去する
↓
前からのプレスから逃げる場所が無くなりビルドアップが手詰まりになる
↓
4-3-3は守備が弱いが条件付きとはいえ無効化される
この理想的な形を作るにも高出力は欠かせません。次の見出しで高出力に本格的に話を進めていきましょう。
4-3-3は高出力時の火力で押し勝つ形
前からのプレス、個人の能力や守備範囲で強引にカバーする守備、これらは間違いなく「ハードワーク」によって成り立ちます。
川崎-鳥栖の試合も川崎-清水の試合も、フロンターレの守備がハードワークできてた時間帯にはいい形が多かったけれど、足が止まる時間帯には相手がボールを上手く回して攻めたてられました。
清水戦でいえば2得点取ってから少しした前半の30分以降とかは、清水の時間帯と言って間違いないほどの状態でしたし、その流れのまま始まった後半には反撃の失点を喫します。
清水目線で試合を見てみると、2失点するまでは「ボールを奪っても前に運べない」状態が続き、下げたところをフロンターレのプレスに絡まれてボールロスト。という形が続き、それがなくなった時間帯に中村慶太などの攻撃的な選手が投入されて活性化し1点返すことに成功した。
しかし小林の投入に対処しきれず失点を繰り返して1-5での敗戦といったように、川崎のサブメンバーの出力に負けたという見方もできるでしょう。
川崎とすれば旗手、小林、三笘と前の出力を徹底的に上げて3得点ですので、狙い通りといった形。
この試合は両チームの出力の力関係がダイレクトに試合の流れに直結した試合といえるでしょう。
重要なのは「力関係」の部分で、自分達がいくら頑張っても相手に上回られていたら相対的低出力になってしまうという部分。ここは話すと長くなるので一言添える程度にしておきましょう。
90分高出力を続けることは不可能
4-3-3が高出力時に攻守共に押し勝つことでスコアを動かすサッカーだということは少しは伝わったかと思います。
しかし、現実の話として、サッカーで90分間ハードワークし続けることは不可能です。
そりゃあたまにはハードワークが信条の選手もいますが、それだけでチームを作りきることは難しく、Jで言えば湘南スタイルですら年間通して走り続けるサッカーはできず、どこかしらでクールタイムのような時間帯は毎度発生しています。
フロンターレは今年の公式戦だけ見てもわかるように、出力が下がった時間帯にはピンチが連続していて失点も喫しています。
90分高出力が絶対続かないという前提条件がある以上、これから先も「低出力時の試合マネジメント」が必修科目になります。
フィジカルトレーニングなどで高出力の時間を少しでも伸ばす方針も忘れてはいけませんが、同時進行で低出力時の事も考える。そういった90分のゲームプランを作ることこそが、戦術クラスタ界で今話題のゲームモデルってやつの真髄でしょう。
低出力の時間帯を有意義に過ごすためには
90分、もっと言えば前半後半の45分の中でも発生する低出力の時間帯。この時間帯にまずは無失点におさえること。可能であれば出力に頼らずに効率よく点をとること。
これができれば4-3-3の戦いは大きく自分達側に傾いてくるでしょう。
毎回そう上手くいくわけではありませんが、そうなるように仕向けなければまぐれでしか発生しないわけですし、発生しかけた瞬間にガッチリ掴み取るには日頃から意識しておくことが重要でしょう。
昨年のマリノスを中心に、前例を参考にしながら考えてみてでてきた案は
・早い時間の先制点
・失点につながるミスをなくす
・ボール保持の能力を高める
の3つです
早い時間の先制点
まずは昨年のマリノスのデータを集計したものをご覧ください
前半17試合の内9勝は8試合で先制をしています。後半戦は先制した試合全てに勝利しているので、マリノスは先制すれば24試合中21試合に勝利。
逆に勝てなかった試合12試合で先制したのは3試合、無得点も5試合と相手に先制されたり、得点できずにいると一気に勝率が下がる。
後半の先制点での勝利数は4試合であることからも、前半のうちにスコアを動かして後半にアドバンテージを持って試合を進めたいというのが本音かと。
1-2で負けた先日のガンバ戦も同じパターンといえそうで、フロンターレも2試合だけとはいえパターンは今の所同じ。
失点につながるミスをなくす
ポステコ1年目のマリノスや、イマイチな時の神戸などに共通するのは、ビルドアップのミスなどで簡単に失点をして試合を落とした例が多い部分。
特に先制されるとゲームマネジメントが高出力の関係で難しくなりやすいことから、簡単に失点してしまうと厳しい戦いを強いられやすくなりそうです。
今年のエスパルスが絶不調に見えるのも、守備が安定しないからという見方をすれば同じですね。
ボール保持の能力を高める
特に神戸がそうであり、連覇時のフロンターレもそうだったように、自分達がボールを持つ時間を長くして主導権を握るというやり方は、解決策の1つでしょう。
しかし前からのプレスが多くのチームに行き渡ってる今、安易に回してれば失点して首を絞めることになります。可能であれば相手のゴール脇などで持つこと、無理をせずに下げてサイドチェンジなど、高等技術を要求されることは間違いないでしょう。
そのためこの方法でマネジメントが完成されたチームは今の所存在しません。
しかし、フロンターレの伝統や技術体系なら、2の矢3の矢として使うことは視野に入ると思います。
4-3-3の理解が今年のフロンターレを語る第一歩
フロンターレの4-3-3は、従来の4-2-3-1とは異なる部分も多く、守備の鬼木からの脱却も想定されています。
フロンターレらしさは活かすと明言しているように、大きく変えてはいけない部分や継承している部分ももちろんありますが、やはりこの形を語るのであればある程度4-3-3を理解することは重要でしょう。
おそらく出力が下がる時間帯は、夏場やシーズン後半や過密日程の時にくっきりと見えてくるので、その時のマネジメントに注目して見るのもいいと思います。
お気持ちよろしくです。