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イタリア旅行記 第8回/全10回

イタリア旅行記 第8回
9月21日(土)
ミラノ編 第2部

一度ホテルに戻り、一通りの観戦の準備をして16時半ちょっと前に部屋を出発する。
試合は18時からなので、1時間半も前に出発すれば充分間に合うであろうと計算したのである。
そして今回、初の海外でのサッカー観戦の当日になって、強力な助っ人が現れた。
第1部で今回の観戦ではシーズンチケットを利用すると書いたが、チケットを手配してくれた旅行会社の日本人スタッフが、座席の下見を兼ねて今回は特別に私たちに無料でガイドとして同行してくれることになったのだ。
この旅行会社では今年シーズンチケットを4枚確保したそうなのだが、今後も私たちと同様にACミラン戦の観戦希望者がいるであろうから、その方々に配る座席案内図を作るという目的があるとのことだった。
偶然にも第1節が延期された影響で今日がサン・シーロでのホームゲーム開幕戦となったため、その下見をする日にぶつかったという訳である。
イタリア語も海外でのサッカー観戦のイロハも知らない私たちにとって、本当にありがたい助っ人の登場である。
ホテルのロビーで、その日本人ガイドさんと待ち合わせ、地下鉄にてサン・シーロへと向かった。

地下鉄内ではそのガイドさんとサッカー談義に花を咲かせる。
本場のみなさんのサッカー観や、最近の話題などを色々質問しているうちに、あっという間に最寄り駅の Lotto 駅に到着した。
駅は明らかにスタジアムに向かう人たちでごった返していた。
階段を登り地上に出ると、サン・シーロへのシャトルバス乗り場が目の前にあった。
まわりにはシャトルバスが大量に横付けされており、日韓ワールドカップで宮城スタジアムに観戦に行った時のことをちょっと思い出した。
乗れるまでにかなり待つかと思ったのだが、意外にすんなりと人がさばけてほとんど待つことはなかった。
しかし、乗り込もうとした時、パラパラと雨が降りつつあった。

シャトルバスに揺られること約5分でサン・シーロの駐車場に到着。
人の流れに従いながら歩きつつ、前方を見るとそこには超巨大な建物が見える。
これが、あの、憧れの、スタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ!!
収容人数85,700人という、とんでもない規模のサッカー専用スタジアムに、これから私達は入場するのだ。
さらに、まだ試合開始まで1時間近くあるというのに、場外までミラニスタたちの歌が聴こえて来る、そんな雰囲気にもの凄く感動。
格好から入る私は、他のミラニスタたちのように途中の売店でパニーニとドリンクを購入し、入場門に向かった。

入場門ではドリンクの缶の持ち込みを注意され、中身を飲み干して缶をここで捨てるように言われたが、日本と違って再チェックがないので従ったフリをしてそのまま持ち込む。
このあたりのチェックはだいぶいい加減のようである。
もっとも、これはあくまで同行してくれたガイドさんが通訳してくれて、その対応策まで伝授してもらえたから何事もなく入場できたのである。
おそらく私たち夫婦2人で来ていたら何を言われていたかわからなかっただろうし、オロオロして入場にも相当てこずっていたかもしれない。
本当にガイドさんが同行してくれていることをありがたく思った。
(脚注:この記事を書くにあたってあらためて読んで驚き、反省しました。自分を戒めるためにそのまま掲載します。瓶・缶類のスタジアムへの持ち込みは厳禁です。20年前の出来事ということでご容赦ください。)

まだ試合まで時間があったのでスタジアムツアーを申し込もうと思い、ガイドさんに通訳をお願いする。
スタジアムの警備の方にツアーの申し込み場所を聞いてもらったところ、かなり現在地から遠いとのこと。
さらに実施している時間が17時までで、あと10分ぐらいしかないからおそらく無理であろうということを告げられた。
しょうがないのでスタジアムツアーは諦め、座席に向かうことにした。

2階席ということで、かなり階段を登らされるはめになった。
とにかく階段を登る、ひたすら登る。
考えてみれば、上の方でも見易いということは、それだけ傾斜があるということであり、当然その分高さもあるわけで・・・。
さすがに妻は途中で息を切らせつつ、なんとか2階席に到着した。
ガイドさんがスタッフに座席を問い合わせ、大体の場所を教わる。
教えられた近辺で座席番号を見ながら探すがなかなか見つけられず、しばらくかかったのち、やっとのことで探し当てることが出来た。
これを本来は私たち2人で探すことになっていたかと思うとゾッとするぐらいわかりづらい座席番号だ。
座席に着いた後、午前中に買ったユニフォームを着ながら周辺を見渡す。
まだ試合開始まで時間があるせいか結構席は空いているが、熱狂的ミラニスタが陣取る2階のゴール裏だけは別次元だった。
応援旗、横断幕そして大合唱・・・。
これが本場のファンなんだと思いながらしばらくのあいだ見入っていた。

試合開始が近づくと、かなり座席が埋まってきた。
ホームゲーム開幕戦ということで、チケットもかなり売れていたようだ。
しかし、私にはちょっと意外に思うことがあった。
思っていたよりもスタジアムが赤一色に染まっていないのだ。
言い方を変えれば、ユニフォームを着ているサポーターが私の予想よりも大幅に少ないのだ。
この試合でのミラニスタたちに、浦和レッズのサポーターをダブらせてイメージしていた私には、その光景がイマイチ信じられなかった。
特にメインスタンドとバックスタンドは普段着の人が大多数に見えた。
まぁメインスタンドやバックスタンドのような値段の高い席にいる人は、別にチームの応援というよりも純粋にサッカー観戦が目当てなのかもしれないな、などと考えたりしていた。

しかしその考えは選手紹介の時に全然間違っていたことを思い知らされる。
対戦チームのペルージャの選手紹介が始まったが、スタジアム全体から一斉に大音量のブーイング。
そういえば、ペルージャ側のゴール裏にはほとんどサポーターがいなかった。
一方、ACミランの選手紹介が始まると地響きのような大声援と大合唱。
GKのジーダから始まり、ネスタとマルディーニの時には声援が大きくなる。
私はピルロの時に当然大声で声援を送ったが、周りのファンの反応はイマイチのようだった。
そして最後、今までで最大の声援が送られる。
「フィ~リッポ・インザ~ギ!!!」
耳が痛くなるほどの大歓声。
それもそのはず。
先週の開幕戦で2ゴール、水曜日のチャンピオンズリーグで2ゴールをあげて目下絶好調、サポーターのボルテージが高まるのは当然である。

それまでずっと降り続いていた雨がさらに強まる中、試合が開始された。
試合は序盤から完全にACミランのペースになる。
特に圧倒的な存在感を見せていたのだがルイ・コスタ。
目の前でそのプレーを見ると、彼の一つ一つのプレーは周りとは次元が違うのが良くわかった。
テレビでは映ってないような場面でも、一つ一つの動作が素晴らしかった。
そして、私はもちろんピルロの動きをずっと追っていた。
ボランチのポジションがだいぶフィットしてきたようで、中盤で非常に重要な仕事をこなしている姿に見入る。
何度かパスミスなどをしてピンチを招いたこともあったが、後方からのピンポイントパスやスルーパスなどで見せ場も作ってくれたし、FKやコーナーキックも蹴ってくれたので、声援を送っているこちらとしても非常に嬉しかった。

一方的にACミランが試合を進めながら点が奪えず、前半は0-0で終わるかと思われたが、前半40分に試合が動いた。
右コーナーからピルロが蹴ったボールをマルディーニがヘディングで決め先制!
ただ、ヘディングで決めたというよりも、DFと競り合って頭に当たったボールがフワフワと上がってゴールに落ちたといった方が適切かもしれないようなゴールだった。
観客もまさか入ると思っていなかったので反応が出来ず、一瞬の間があったあと一斉に立ち上がって喜びを爆発させる。
ここからスタジアムの空気がガラッと変わる。
いままで溜まっていたミラニスタのエネルギーが解き放たれ、グランドを包み込む、そんな感じだった。

前半が1-0で終了したので、妻とガイドさんはトイレに向かった。
私は特に必要を感じていなかったので座席にそのまま座っていたのだが、雷を伴って急に雨が激しくなった。
まぁ屋根があるのだから濡れることはないだろう、とたかをくくっていたのだが、なぜか上空から雨が降って来た。
まわりの人たちは一斉に避難したが、風向きのせいだろうと思っていた私はすぐに動かなかった。
これがとんだ間違いで、いつまでたっても雨に打たれ続けるはめに。
つまらない意地を張っていてもしょうがないなと思い、席を立とうかと思ったとき、右側2つ隣に傘をさして座っていたイタリア人の男性が手招きしてきた。
最初はよくわからなかったが、どうも一緒に傘に入りなよということらしい。
ご厚意に感謝しつつ、ちゃっかり傘に入れてもらいながら雨をしのいで後半戦の開始を待った。

後半戦が始まると、それまでの雷雨がまた一層強まった。
しかし不思議なことに、グランドには大量に雨が降り注ぐものの、スタンドには全く雨が吹き込んで来なくなった。
ハーフタイム中のは一体なんだったんだ、と一瞬思ったが、すぐに試合に集中してしまった。
そして後半が始まってまだ5分ぐらいしか経たない頃、ACミランに追加点が生まれる。
しかも決めたのがインザーギときたものだから、スタジアムの興奮はもの凄いものだった。
雷の音までもかき消してしまうほどの大音量でサポーターたちはゴールを祝った。


ゴールを決めたインザーギを囲んで

後半20分頃にルイ・コスタに代わってセードルフを投入。
すると数分もしないうちに代わって入ったセードルフがキーパーと1対1になったのを落ち着いて決めて3-0、これで勝負あり。
いつでも決められる状態だったのを焦らし、これで入らなかったら流れが変わってしまうとちょっと心配したがしっかり決めてくれたので一安心。
もうサポーターはお祭り騒ぎである。
試合終了直前にはPKももらったのだが、これが決められなかったのはご愛嬌。

外すとは思わなかった

試合は3-0で見事にACミランが勝利し、初めてのセリエA観戦を非常に楽しむことが出来た。
建物の構造の関係もあるだろうが、サポーターの声援が大音量になり反響しながらグランドを包むような感じだった。
そんなにサッカーに興味がなかった妻でさえ、「今まで見に行ったコンフェデレーションズカップやワールドカップに比べても遥かに面白かった!!」と言うぐらい、本当に興奮したし、本場のサッカーを堪能することが出来た。

試合終了後、帰り支度をしながらちょっと頭をよぎったことが事があった。
宮城スタジアムでの日韓ワールドカップの帰りの混雑である。
この広いサン・シーロにあれだけの観客がいたのだから、混雑は半端ではないであろう。
それを思ったとき、あの時の記憶が蘇ったのである。
まぁしょうがない、諦めようと腹をくくって出口に向かった。

帰り道は階段ではなく、ぐるっと坂道を下っていくようになっていた。
道幅も広かったのでとても歩きやすく、妻やガイドさんと試合感想などを話しながらゆっくりと歩く。
話に夢中になっていたせいか、そんなに歩いた感じがしないうちに1階に降りてきていた。
そのままゲートをくぐってスタジアムを後にして、地下鉄の駅に向かって歩いて・・・って、あれ、なんでもうスタジアムの外に出ているのだろう?
あんなに観客がいたのになぜこんなにスムーズに人が流れて全く混雑しないのだろう?
話に夢中になっていたとはいえ、一度も立ち止まっていないのだ。
しかも駅へ向かう道も、トラムの乗り場も、駐車場への道もみんな混雑していないのだ。
本当に不思議な感じがしたが、おかげで帰りの混雑でストレスが溜まるということがなくてすんだ。
こんなに楽しいサッカー観戦は初めてで、これなら毎週でも見に行きたいとつくづく思った。

ちなみに余談だが、試合終了後も雨は多少降り続いており、当然雨でビショビショに濡れることになってしまった。
しかもイタリアは下水道の整備が悪く、水はけが非常に悪い。
そのためスタジアムの周りの道路が冠水し、水がくるぶしまで浸かってしまうような場所があった。
どうしようもないのでしょうがなくそこを歩いたのだが、おかげで2人とも靴が完全に水浸しとなってしまった。
この旅行に靴を1足ずつしか持って来ていない私たちが、ホテルに戻ってドライヤーで必死で乾かしたのは言うまでもない。

翌日のガゼッタ・デロ・スポルトでは、観戦した試合が見開き2ページで載っていた。
正式な観客動員数は50,224人と発表されていた。
もっと観客が入っていた気がしたが、上からではよく見えなかった1階席に結構空席があったのかもしれない。
あるいは記者席や招待席がその数には含まれていないのかもしれない。
観客が8万人ぐらいだったらどんな感じなんだろうと思ってしまった。
採点ではマルディーニとピルロがチーム最高点の7を付けられていた。
ピルロは結構ミスがあったわりに高評価だなぁと感じると同時に、あの動きをしていながらチーム最低の5を付けられたルイ・コスタをちょっと意外に思ったりした。
とにかく、今日は最高に思い出に残る1日となった。

第9回に続く。

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