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いたみ

※友人主催の企画に参加した際に執筆した文章です。 


夕陽が空で揺らめく。息が詰まっても、涙は出なかった。まだどこか嘘のように思えたから。


ひとり分の足跡が砂に残る。錆び付いた両脚では、うまく歩けない。それは何処へでも行ける翼ではない。私を地面につなぐ悔いだ。所詮、人間は飛べやしない。


見せたい写真がたくさんあった。誕生日プレゼントももう決めていた。この黒い服だって、あなたのために着るつもりじゃなかった。


指先が悴む。波が白い花びらを運んでいた。

募るのは悲しさよりもやるせなさだった。これはきっといえない傷だ。傷口が塞がっても、痛みはずっと残るだろう。忘れないようにと悼むのだろう。


後悔を口にする資格はない。踏み込まないのを優しさと履き違えて、ぬるま湯に浸かっていた私には。


果実はとうに傷んでいた。私たちは、オレンジの片割れにはなれなかった。

気付くのが遅すぎた。

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