初めて人間は"当事者"になった / 『ジュラシック・ワールド 炎の王国』
『ジュラシック・ワールド 炎の王国』を観てきた。(7月中旬には観てた)
全体的にダークな雰囲気の予告、新しいハイブリッド恐竜の登場、期待値高めで望んだところ、大きく超えてきた。スティーブン・スピルバーグの一作目『ジュラシック・パーク』の遺伝子が隔世遺伝で濃く伝わったような作品。
今回の作品では『初めて人間は当事者になった』ということがこの映画のポイントだろう。
理不尽だが揺るぐことがなく、正義や悪などは存在しないい弱肉強食の世界の当事者として。
その要因は主に3つ(映画のラストも含めると4つ)
①火山噴火、災害という種族関係なく命を失う可能性の高い出来事があること
②終盤まで人間が圧倒的に強者として存在し、恐竜はその兵器、商売道具として扱われていること
③人間によって生み出されたインドラプトルは被害者として描かれており、生み出した人間自身がそれを鎮める役割を担っていたこと
今までの流れとしては
高い壁と電流が流れる柵を立てれば出られないからOKとか、発信機をつけておけば追えるからOKというような人間の過信が原因で、旧支配者である恐竜が、現支配者である人間に牙を向く。
『ジュラシック・パーク』ではヴェロキラプトル、『ジュラシック・ワールド』ではインドミナスレックス、彼らは映画の中の"悪役"として配置されている。特にインドミナスは悪役としての役割を十分に果たす外見、頭脳、凶暴さを併せ持っていたのでわかりやすい。(本当に怖い)
彼らが生物として異常な残虐性と予想をはるかに超える知能レベルを発揮して人間をもてあそび、観客を十分に震え上がらせたら、我らがヒーロー、T-レックスやブルーたちラプトル隊の登場だ。人間が襲われている最中にタイミングよく現れる彼らは、苦戦しながら人間にとって都合の良い"正義"として"悪"と戦ってくれる。人間はなすすべもなく見守るしかない。最後に悪は倒れ、ヒーローは人間を襲わずに去っていく。
恐竜という旧支配者の実力に打ちのめされた人間たちは自らの過ちを省みて、"命"というコントロール不可能なものに対する認識を改める。
という流れがジュラシックシリーズの定石だった。
つまり、今まで、人間は自ら新たな"命"を生み出し問題を起こす当事者ではありながら、恐竜が暴れたら、恐竜に解決してもらっていた。
弱肉強食の本当の"命"の世界ではただただ呆然と立ち尽くすことしかできない"弱者"であり"第三者"でしかなかった。
しかし、『ジュラシック・ワールド/炎の王国』では、人間は"弱者"ではなく"第三者"でもなかった。
イスラ・ヌブラル島の火山災害という恐竜より大きな脅威に対して、人間は恐竜と同じ立場である。イスラヌブラル島での出来事は恐竜が支配する空間がなくなり、時代の終わりを意味しており、ここから人間が支配する世界の中に恐竜が放り込まれることを表す。
恐竜の競売では、人間が支配者であり、恐竜はコントロールができる兵器としての主従関係にある。ここで正義と悪の構図を考えると純粋に恐竜の命を守ろうとするオーウェンたちが"正義"であり、恐竜を兵器として各国に売りさばこうとするミルズが"悪"という完全に人間と人間同士の争いになっている。恐竜は人間の欲にまみれた行動の被害者として描かれる。
恐竜兵器の中でもひときわ異彩を放つインドラプトルは、高い知能、凶暴さ、狡猾さを併せ持つ前作のインドミナスと同様の悪役配置をされてはいるものの、レーザーと音波信号による人為的コントロールができるという決定的な違いがある。適切な手段と知識さえ持っていれば容易に支配できる状態なのだ。インドラプトルはサムネイルのおじさんと謎のこだわりによって逃げ出す。
その恐ろしい形相と高い知能と戦闘能力で人間を翻弄していくインドラプトル。しかし、僕にはインドラプトルは悲しい被害者にしか見えなかった。
単純に自分にひどい仕打ちをしてきた人間への報復にも見えるが、もしかしたら、力の加減を知らないいたずらっ子なだけかもしれない。
ブルーが加勢に現れるが、前回のようにはいかない。人間は遠くから眺めることはできず、自らが生み出したこの災厄をどうにかして鎮静しなければならない。そしてラスト、インドラプトルはその唯一の弱点を突かれ、倒される。そこに喜びや安心感はない。
倒された後、いつもの流れなら、今回の場合はブルーが見栄をきる場面につながりそうだがそんな場面はなく、ブルーはただただ悲しい顔で走り抜けていった。
全てを正当化して丸く納めてくれるTレックスのような都合の良い"正義"は存在しない。だからこそ、人間は当事者であり続ければならなかった。
そしてラスト、
人間が築き、支配してきた"王国"は崩壊し、新しい世界"ジュラシック・ワールド"が始まる。
人間はこの世界に対して常に当事者であり続けなければならないということがよく伝わった。弱肉強食の世界では傍観者になることは許されず、自らの命を失うことになる。
都合の良い"正義"はもう現れない。
(この子めちゃかわだったなー。)
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