【寄席エッセイ】美味しいものはこんなにたくさんあるのに
あるけども、あるけども、人。
あるけどもは、「歩く」と「在る」という言葉がかかっている。もしかしてワシ、天才なのかもしれん。
そんな気の毒な思考はさておき、TOKYO。
ジャパンの真ん中。真ん中がどこかの議論はさして興味がないが、たくさんの人が集まり、働き、大きなうねりを作っている。
ビジネス街。無機質でおしゃれなビル群が立ち並び、みんなシュッ!っとしてキリッとしてる。ように見える。してるよね?
そして人がいるところによき飯屋アリ。っていうか人がいるから飯屋もたくさんありけり。外観からして美味しそうなお店がいつまでもどこまでも広がっている。古いのからモダンな外観まで。まぁーTOKYOすごいワン。
せっせと働き、脳をフル回転させたり、めんどくさい人間関係にぶちのめされた腹ぺこ達はこのあたりのお店を使っているのだろう。選択肢は無限大で脳へのご褒美は手を抜いてはいけないのだ。トーキョージャングルで戦うにはランチ2千円なんて普通なんだろう。知らんけど。
本日はちょっとした用事でここ東京駅に降り立ち、時間を持て余すことになったのでトコトコ歩く。まぁそこまで好きな風景ではないが。普段見ない光景ってのは脳が刺激されますな。良くも悪くも。でも今日は午前中で立ち去るからな。飯はここでは食わんのだよ。
そんなふうに思っていたら午後にもっかい来いって言われる。
はぁーん!もぉー!!!メンドゥー!
なんて叫んだら出禁になる為、わかりましたでございます。とか意味わからない返事をする自分。動揺は隠せず、目はドーバー海峡を渡らんとするくらいの泳ぎっぷりであった。外に出る。
となるとここでお昼ご飯を食べなければいけない。うーん。
青々とした空と冷たい空気。一つ裏通りの日陰は寒い。
ランチで検索すると星の数ほど飯屋が出てくる。もうそれだけで頭が痛くなる。選ぶことが苦手というかそこにカロリーを使いたくないというか、二郎ラーメンでも食おうというか、なんというか。どーしよー。
うーん。肉…かな…!
……おぉん?
着くとまぁコレが星の数ほどお店があるにも関わらず、人が並んでおる。星の数と思ったお店はどうやら一つ一つのキャパは大きくないらしく、まぁでけえビル群からはアホみたいに人が出てくる為すぐ埋まるんだ。回転が速い牛丼ですらあのザマよ。群がってやがる。
はぁー!もぉーん!!!だるぅー!!!
これは言葉に出ていたと思う。オフィスの面汚し。今日は休暇だから働いていないけど海外の人が私見たら「オーゥ!クレイジーサムラーイ!」って指差されてたと思う。武士の心は好きだけど、それ偏見だからサ。海外の人見て………いや、やめとこう。
お腹は鳴る。鳴動してハルケンブルグしてるが入る気になれない。値段とかそういう、食べたいものがないとかそういう。そういうのではない、トータルのあれだよ。
そう。ご飯屋さんはトータルなんすよ。
飯、雰囲気、値段も大事だけど、パッとお店を見た時に入れるかどうか!?って結構大事でね!?並んでるってそれだけで食欲無くなるのよ?わかる?私だけなんだけどさぁ。
うっはー、人気店だからワクワク!なんて無垢で真っ白な心になりてえだよアタシは。どこまでも鈍い色が広がり私の心は練りたてのセメントのような色と質感に仕上がる…一体なんだ…何を食えばいいんだ…
井の頭五郎いうところの「俺はただ腹が減っているだけなんだ」をずーっとやり続けること二時間。ついには飯を食わずに戻ってきてしまった。あのお店を探してる時のワウが効いたカッティング。あれを二時間ですよ。「焦るんじゃない」って二時間。焦ろ?五郎。焦ろっ!?
おいしいものはたくさんある。
ご飯を待ってる人もたくさんいる。
何かをして欲しい。何かを変えて欲しいとも思えない。別にどうしてもこのお店に入りたいわけではない。
人の入り組んだ店を横目に通り過ぎていく。
そんなふうに考えていると、自分がご飯に求めているものが何か分かってくる。特に今、今自分が求めているのは………何を食べたいとか、ここに行きたいとかじゃなく、自分のペースで食べたい。んだと思う。
自分が落ち着く所にいたい。そんな感じなんだろう。私も並ぶことは当然あるけど、今はそれじゃないんだなと。それは最優先事項ではない。
そもそものそもそもが、なんか違う。
1人で歩いているからだろうか。
おそらく、今どこかのお店に入って、ひっくり返るほど美味しいものを口にしても、このなんともいえない感情は吹き飛ばないような。そんな気がする。
それを寂しさというのか、めんどくささというのか、言葉にできないものを理解したとても言葉にできなければ伝わらない。
ご飯って本当に難しい。