【寄席エッセイ】人は見た目が9割って言うからどうにかしたいんだけど、1割だと少ないくない?
せめて8:2ぐらいにできないだろうか。
清潔感が大切なことは痛いほど良くわかる。自身がそうしたほうがいいってのは、てめえが分かっているんです。はい。
おしゃれにね。ちゃんと気を遣えたほうがいいに決まってるんですよ。服を楽しむのは素晴らしいことだ。朝起きて、自分の好きなものを選びそれを身に纏う事。そんな選択ができることがどれだけ楽しくて、心を云々…
などと。
見た目というのは「そもそもの顔面」の話をしているのではないというのも分かってはいるのだが、いかんせんこの狸ボディの私には説得力に欠ける。欠けまくっている。
狸だよ?可愛い動物のたぬきじゃなくて、置物の歯がギッザギザのアレだよ?金玉デケェなオイ!!!
ちがうちがう、そうじゃない(feat.ラッツ&スター)
あれを人間にしたら私が出来上がると思って相違ない。奇怪!狸人間!否!人間狸現る!!!
東スポが火を吹く、日刊ゲンダイがすっぱ抜く、文春砲が鳩尾に穴を開ける。
そんな狸は、ずっと服を買っていない。狸から人間に戻る気配がないから。葉っぱのお金しかないから。溶けない魔法にかかっているから。
12時の鐘が鳴ったタイミングで落としたスニーカーはもうガバガバのガバで誰でも履くことができる。姉二人も王子様が来た時に喜び勇んで履くだろう。そしてシンデレラフィット。靴ずれの心配もなく彼女達は新天地へ旅立つのだった。めでたしめでたし。それがシンのデレラですわって。あと俺姉いない。
スティーブ・ジョブズが同じ服を着てくれたのとミニマリスト達が持たざる生活を肯定してくれたおかげで拍車がかかり基本的に同じものしか着なくなった。
服に清潔感はある。だって白と黒だもん。人間が着たらそりゃおめえ、立派なもんが出来上がるってぇもんじゃあねぇか。
こちとらそれをいっぺん着てみようものなら、ボトム履くでしょ?ずんずんずんと服の形が変わって。尻尾がぽん!
おまえさん?これはなんでぇ?
へぇ、親父さん。…こいつは…ついうっかり昼に食べたもんがうんこになって出ちまって。
このクソバカ狸。なにも隠す気がねぇじゃねぇか!!!何考えてんだコイツ!
そいでてぃーしゃつに頭を通したら、耳がぽん!ぽん!
お前さん。こいつはどうした?
へぇ…これは…あれです。巷で流行りの……カチューシャってもんでしてねぇ…
かーちゅーしゃー、はずしなーがらー(feat akb48)
とまぁこんな具合で、わさわさわさっと毛が生えてきておっさんが狸になっちまった。
…いや、狸?おっさんだな?こりゃ…
オットさんもびっくりってもんヨォ。
なんて、考えてる場合じゃなくってサ。
服はどうってことなく万物の根源ユニクロを着ているんだけどそれ以外に問題があるわけよ。フォルムとか。顔面とかさ。
大将が踏み続けたうどん生地ぐらいに平で目と鼻と口に凹凸が無いし。肌なんて雨季が無い土地ぐらいひび割れてる。そこに生えた不気味な髭。無精髭じゃなくて不気味髭。字面がもうなんていうか、つおい。
妻から「カピバラみてぇ」って言われた髪の毛はバッサバサのバサ。小学校時代みんな教室掃除で箒使ってたと思うのだけど。あんな感じ。あれを頭に刺したやつが私。っていうか狸。放課後ふざけてる狸ですわよ。罠で優しく捕獲してくれ。
おまけに白髪ボーボーなもんだから。例えようがねえぐらい白髪混じってっから、早く全部白髪になって欲しいから「逆にストレス貯めたほうがいいのか?」とまで思うぐらいにマダラ丸だから。自らを極限状態に置こうか思索中だからサァ。
足も短え。空前絶後の短さ。サンシャイン池崎さんも叫び出すぐらいの足の短さ。アタシの足の短さでネタ一本描けるんじゃ無いかしら。ジャースティス。
私は9割の印象の部分で取り返しのつかないことになっている。悪印象のロックインジャパンフェスティバル。豪華。黙っていればそれが私の印象。狸のくせにカピバラの毛を頭に蓄え、マダラで、股下がジャスティス。
妖怪じゃん。
妖怪に失礼か。どこの地方にそんなやつ口伝されてるかわっかんないし。
となると、残りの1割で勝負するしか無い?あとの残り1割は何だろうか。もう私のライフが10%しかない。満タンなはずなのに。1割しか無いの。
目に止まる電車の中吊り。綺麗な肌だこと。男だってエステに行って見た目を整えないと。まだ整えてないの?ヤダ…あなたの肌サハラ砂漠…そんなささやきが車内放送から聞こえてくるようだ。オアシスを誰かここに。蜃気楼でもいいからサァ。
幻聴が聞こえてきているので大変よろしくない。でもまぁどうしたもんかね。マジで。どうしたらこの9割を打破できるのかね。
というわけで、オシャレな雑誌をKindleで眺めてみる。まぁーおっしゃれー、足なっがー、顔ちっさー、うひょー。服たっけえええ!!!!
ダメだ。持って生まれたものが違いすぎて全く参考にならない、こんな人達を私、っていうか狸が眺めること自体が何か大きな過ちのような気がする、誌面からモデルの舌打ちが聞こえてくるようだ。
年をとるとそれ相応にダンディになっていくのが海外側の常なのか、私のような純国産はその気がない。海外の狸はどんななのだろか…今想像している狸はマジのやつ、あ。ラスカルかぁ…
誌面にでているような、ちょいワルな風貌も。なんていうか真似できなさそう。ちょいのエッセンスがあらぬ方向へ面舵をぐるんぐるん切るだろう。船長!そっちいくと底擦っちゃうんだけどぉぉ!?ドカーン、バキィーン、ズリズリィー。難破船と化す。
んー、でもワイルドな感じに寄せていけばいいのか?清潔感と離れないか?こっちは狸だぞ?忘れてもらっちゃ困る。あ、もうワイルドじゃん。野生じゃん。そうじゃねえんだよ!馬鹿狸!!!頭に葉っぱを乗せてドロン?悪ふざけの方に寄ってしまう。ちょい悪ふざけ親父。何だそのクソ野郎は!!!しょっぴけ!!!
そんなアタシは今日、お洋服を見にきた。考えすぎて変身が解けそうだったから仕事帰りに里山に降りてキラキラ輝く街並みに降り立ったんすわ。仕事残ってんのにね。
ここならきっと狸をオシャレにできる魔法があるんだわん。
いらっしゃませー。よかったら試着していってくださいね!
…ええ子や。
おっしゃれな店員さんは挨拶まで素敵だった。こんなおっさんにも挨拶してくれるなんて。ありがとうを通り越して記者会見開きたい。今の挨拶だけで全部買い占めてあげたい。店のもん全部持ってきて欲しい。彼の役に立ちたい。
軽い会釈で人間らしさを装いつつ広い店内を見渡し歩みを進める。最近のお洋服のことはよくわからない、どの辺を見ればいいだろう…か…
ドーン!
「……っっっつつつ!!!」
な、何が起こった!?
と思ってみたら鏡だった。広いと思っていた店内は一部鏡だった。すげえ音した。
もうなんていうか身も心も狸じゃん。ワシ。
野生動物の怯えそのもの。オロオロとあたりを見渡した。よしどこも壊れてないな、俺の心以外は。
私はそそくさと店内を出て行った。恥ずかしくて店員さんの顔が見られなかった。恥ずかしくて私にお金あったらフロアごと買い上げたいぐらいだった。お店買い上げて恥ずかしかったことを無かったことにするスタイル。超富豪。
………ごめんよ青年。アタシほんまもんの狸やったんや。鏡わからなくてバーンて、ワシ、バーンて…!!!
そんなわけで、印象の9割をどうにかするのはしばらく先の話になりそうである。打った肘が超痛い。
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