「当座貸越」とはどんな融資?
当座貸越をご存じない社長様が意外に多い
銀行から融資を受けると言いますと、圧倒的に多いのが「証書貸付」だと思います。
ただ、銀行の融資には他にも「手形割引」や「手形貸付」、そして本日解説させていただく「当座貸越」の3つの借り方があります。
難易度で言いますと、手形割引<手形貸付<証書貸付<当座貸越、の順番に難易度が高くなっていきます。
銀行にとっては一番リスクの高い融資であることから、原則として、銀行から提案するのは優良企業に限られています。
ただ、優良企業でなければ使えないかと言うと必ずしも最近はそうではないようです。
当社のお客様でも、後任の銀行担当者が担当先企業の資金繰り改善を本気で考えてくださる方だったり、新規開拓一件をどうしても獲得したいという新規営業担当者が融資開始のとっかかりとしていきなり提案してくれたり、また、社長自ら提案をお願いしたらあっさり借りられたり、といったケースがあります。
ただ、あいにく当座貸越のことをよくご存じない社長様がせっかくの銀行からの提案をあっさり断わってしまったり、当座貸越の存在を知らないために当座貸越を利用できるであろうのにこちらから銀行員に話を振らなかったり、という残念なケースもございます。
そこで、当座貸越の仕組みとその活用法について、解説させていただきました。
一般当座貸越と専用当座貸越の2種類があります
当座貸越には、「一般当座貸越」と「専用当座貸越」の2種類がありますが、有名なのは一般当座貸越の方かと思います。
一般当座貸越は、当座預金をもっていることが前提で、当座預金の残高が不足した場合にその不足分を自動的に融資を受けたかたちにしてもらえるのが特徴です。
ただ、現在、小切手や手形を利用する企業の減少に伴い一般当座貸越を利用されている企業はかなり減り、主流は専用当座貸越の方に移っています。
専用当座貸越は、当座預金が無くても利用できます。
専用当座貸越は、貸越極度という融資枠を銀行がつくってくれ、その枠の中であれば、いつでもお金を借りることができ、また、必要が無くなったらいつでも返済することができるという、初めて聞いた方には疑いたくなるような融資の仕組みです。
この融資枠を銀行員の方はよく「当貸枠(とうたいわく)(とうがしわく)」と言ったりします。
利息についても、借りている期間中の利息だけ払えば済みますので、コスト負担も軽くなります。
また、枠内であれば、借りたお金を毎月返済することなく借り続けることも可能ですので、証書貸付のように毎月の返済が無い分、資金繰りは非常に安定します。
当座貸越契約を交わす際に審査はありますが、いったん枠を設定できれば契約期間中にお金を借りたいと思った際には、その時の審査は不要ですぐ借りることができますので、いざという時のためにもできるだけ枠を設定しておかれることをお勧めしています。
より詳細を解説します
例えば、下記は新潟信用金庫さんの当座貸越の商品説明です。
「当座貸越枠としてどれくらいの金額を設定できるの?」という疑問については、こちらの「原則月商の2倍以内を目安とします」というのは分かりやすいと思います。
当座貸越の資金使途は、運転資金(売掛金+棚卸資産-買掛金)ですので、月商の2倍以内というのは妥当なラインです。
銀行担当者に当座貸越の申込みをする際には、月商の1ヵ月分、もしくは2ヵ月分の金額を目安に申込してみていただければと思います。この場合の月商は、前期の年間売上高を12で割った数字で結構です。
「いつでも借りられる状態は、どれくらの期間設定できるの?」という疑問については、こちらの「ご利用期間は1年間です。期間満了後は審査により期間延長の更新もできます」が参考になります。
当座貸越を始めて契約される方は様子見も兼ねて6ヵ月契約でスタートしたりすることもありますが、その後、通常は1年契約になることが多いです。
つまり、契約から1年間は枠内であればいつでも自由に借りられるということになります。
1年経つと、決算が黒字であれば「そのままもう一年」と更新され、業績に問題が無い間は、基本的に毎年更新されていきます。
枠内の金額一杯を借り続けている方は、通常は何年間も借りっぱなしになるケースが多いです。
皆さまが一番心配されるのは「もし赤字決算になったら貸しはがしをされるのではないか?」ですが、もちろんそのようなケースもゼロではないかもしれません。
ただ、地域金融機関と言われる地方銀行さんや信用金庫さんが、地元企業から貸しはがしを行って、その企業の倒産の引き金を引くようなことはほぼ考えられません。
地域の企業を倒産に追い込んだ噂がその地域に広がってしまっては、その支店はその地域でビジネスを続けることが不可能になってしまいます。
かと言って赤字の企業から融資したお金の回収を図らないのも問題であることから、貸越枠を減額したり、証書貸付で借り換えして毎月返済をお願いしたり、というのが実際の落としどころになることが多いようです。
そもそも貸し渋りをされないような普段からのお付き合いの仕方、例えば、借りるだけの一方的な付き合いではなく預金もその銀行に置くとか、金利をとにかく値切る社長との烙印を押されないよう気を付けるとか、をしておくことが大切です。
提案を求めるなら信金より銀行へ
先ほど新潟信用金庫さんの当座貸越をご紹介しましたが、銀行と信用金庫であれば、銀行の方が積極的に当座貸越を行っています。
例えば、下記は神奈川県の横浜銀行さんの貸借対照表ですが、貸出金11.5兆円のうち当座貸越は1.0兆円です。
融資全体の約9%が当座貸越になります。
一方、下記は東京都の城南信用金庫さんの貸借対照表ですが、貸出金2.2兆円のうち当座貸越は0.03兆円で、当座貸越は融資全体の約1%程度しかありません。
城南信用金庫さんは全国の信用金庫の中でも2位の規模を持つ信用金庫ですが、職員の方も銀行ほどには当座貸越に慣れてはいないのが数字で読み取れます。
当座貸越は、企業からすればいつでも借りられるし、いつでも返せるので、非常に便利な融資ですが、銀行からすれば、いつ返してもらえるのか分からないですし、先ほど申し上げたとおり一旦貸したら貸しはがしもなかなかしにくい融資ですので非常にリスクの高い融資となっています。
信用金庫に比べれば銀行の方が企業体力もあるために当座貸越のリスクを許容できるのは当然かもしれません。
「当座貸越にチャレンジしてみたい」という方は、まずは信用金庫ではなく銀行にご相談してみていただければと思います。
当座貸越枠があることが企業の信用になることも
繰り返しになりますが、当座貸越は銀行にとっては一番リスクの高い融資になります。
これは、裏返せば、銀行から当座貸越で融資が受けられているということは、その銀行から非常に信用されている、その銀行での格付けの高い企業であることの証となります。
銀行と言うのは「横並び意識」が強いのが特徴で、「他の銀行がやるならウチも」となる傾向があります。
当座貸越は、いつでもすぐにお金が借りられる環境を作るという意味で、1行よりは2行、2行よりは3行と、できるだけ多くの銀行で枠を設定してもらえた方が、いざという時の資金繰りの備えが万全になりますので理想的です。
ですので、もしある銀行から当座貸越枠を設定してもらえたら、その期の決算の時にわざと当座貸越の融資を受けておきます。
そして、決算書には「短期借入金」と表示しますが、短期借入金と表示するだけでは手形貸付なのか当座貸越なのか他行の銀行員にアピールできません。
そこで、「勘定科目内訳書」で、短期借入金のうちその銀行の当座貸越で借りた分についてだけは別に記載し、「担保の内容」を書く欄にでも「当座貸越」(もちろん担保の内容とは無関係です)と記載しておいて当座貸越の存在を他行の担当者に知ってもらうようにします。
他行の担当者の方に、「〇〇銀行さんで当座貸越枠を設定してもらったんですか?」などと聞いてもらえたらしめたものかもしれません。
「中小企業の財務チャンネル」
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