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PoCの迷走を避けるために


PoCの迷走は共通の課題

過去5~6年間、デジタルトランスフォーメーション(DX)がトレンドとなり、多くの企業が新規事業の立ち上げや既存事業の変革を目指してプルーフ・オブ・コンセプト(PoC)を積極的に実施してきました。しかし、大量のリソースを投じながらも、これらのPoCが期待通りの成果を生み出すことは少なく、多くが迷走しています。単なる「貴重なリソースの浪費」になってしまったり、PoC自体が「経営にとっての新たな悩みの種」となることも珍しくありません。

私自身、コンサルタントとして多くの大企業のデジタル戦略や企画を担う部門の方々とお会いしますが、「近年、多数のPoCを経験したが、うまく進められなかった」という声をよく聞きます。逆に、PoCを自信を持って進めている企業は稀です。つまり、特定の企業に限らず、また業界にもよらず、PoCの推進は、多くの日本企業が直面している共通の課題なのです。


PoCが迷走する根本的な原因

私は、「PoCの上手な進め方を教えて欲しい」と聞かれることが多いですが、経験上、PoCが迷走する主な原因は「PoCの進め方が下手」ということ以前に、「PoCで検証したいことが不明確」であることが多いです。つまり、迷走の根本的な原因は、「どのようにPoCを進めるか(How)」の問題というよりは、「何をPoCするか(What)」にあるわけです。


原因1: 検証したいことが不明確

PoCは、新しい製品やサービスを開発する前に、そのコンセプトが実現可能かを検証する作業です。そのため本来は、特定の「検証したいコンセプト」に焦点を当てるべきですが、実際にはこの部分が曖昧なままでPoCが走り始めることがあります。

その結果、「今のままでは当初の見込みほどの成果は実現できそうにない。ただし今後の改善次第では状況が変わる可能性も残っている」と言ったような、はっきりしない結論が出てしまうことも少なくありません。

この場合、新製品やサービスの肝となる要素を検証するPoCではなく、試作品や不完全な形としての新製品やサービスの全体を「実証実験」してしまっているのです。


原因2: 検証すべきことを選べていない

仮に検証したい事項が明確になっていても、それだけでPoCが成功する保証はありません。意味のあるPoCをするには、本当に検証すべきことを選んでおく必要があるのです。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、大企業が行っているPoCの中には、本来、わざわざPoCで検証する必要がないこともあるのです。

もちろん、「ほぼ自明」と言えるほど確信を持った仮説がある場合に、それでも「敢えて」検証しにいくのであれば、そのPoCに意義がある場合もあるでしょう。しかし、深く考えずに時間とコストをかけて検証した結果、後々考えると、「その程度のことであれば、もっと簡単に確認できたはず」と思えるようなことも多いのです。

PoCのやり方以前に、PoCをする対象を正しく選べていない

PoCの迷走を生み出している背景

ここまでににてきたPoCが迷走する背景には、大企業においては、PoCを実施すること自体が半ば目的化しやすいといった事情もあります。特に、全社的ばDXの取り組みの中で、「PoCの実施件数」を目標値として定めている企業では、その傾向が更に強まります。

DXを強力に推進するためには、PoCの実施件数を目標の1つにおくことの有用性は否定しません。しかし本来、PoCは、深い考察と充実した議論の後に残った「試してみないとわからないこと」に対して実施されるのが基本だということを忘れてはならないのです。

動きが遅くなりがちな大企業においては、「試してみるべき」という考え方が広まることは良いことですが、PoCが一般的になったことで、迷走するプロジェクトが増えているのも事実です。


結論:PoCが迷走する可能性は減らせる

大企業がデジタルを活用した新規事業や事業変革の取り組みで成功するためには、PoCの目的を明確にし、検証すべきことを明確にしておくことが不可欠です。

例えば、リーンキャンバスやビジネスモデルキャンバスなどのシンプルなツールを用いて、取り組んでいる事業アイデアを徹底的に言語化し、コアメンバー間で意識合わせをした上で、残る論点をPoCの対象に選ぶ。この手順を取るだけで、迷走する可能性は大きく減らせます。

多くのPoCが迷走している状況に悩んでいる時には、まずは「PoCのやり方(How)」ではなく、「何をPoCするか(What)」に目を向けてみることをお勧めします。

結論: PoCの迷走を防ぐには、検証したいこと、すべきことを意識する

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