カツセマサヒコ

小説家。書籍『夜行秘密』(双葉社)、『明け方の若者たち』(幻冬舎)など。ラジオ「NIG…

カツセマサヒコ

小説家。書籍『夜行秘密』(双葉社)、『明け方の若者たち』(幻冬舎)など。ラジオ「NIGHT DIVER」(木曜 TOKYO FM 28:00〜)

最近の記事

ここが、物語のプロローグ。YOASOBI 1st Live “KEEP OUT THEATER”ライブレポート

2021年2月14日、“小説を音楽にするユニット”YOASOBIの初ライブが開催された。 “KEEP OUT THEATER(立ち入り禁止の劇場)”と銘打った本公演は、新宿歌舞伎町のド真ん中、新宿ミラノ座跡地に建設中のビルの工事現場が舞台となった。 まさに“夜遊び”のように、立ち入り禁止エリアに特別に一夜限りのステージを組んだ彼らの配信ライブは、チケット購入者数約4万人、同時視聴者数はその2~3倍と思われる大観衆に見守られながら、成功を収めることとなる。 コロナ禍のバレ

    • 人の職業を笑うな。

      この記事は2014年2月(もう6年前!)に僕のamebaブログに書いたものです。当時はまだ一企業のサラリーマンで、ヨレヨレのスーツを着て満員電車に揺られていました。「記事を書いてお金をもらう」なんて到底不可能だと思いながら、平日帰宅後や土日に書いていた記事のうちのひとつです。この記事をきっかけに編集プロダクションに声をかけられ、ライターの道に進むことになりました。該当のamebaブログは最近閉鎖したのですが、自分を救ってくれた文章として、この記事はここに残しておくことにしまし

      • 発熱。その日、世界と、鳴った音。

        コロナ禍による非常事態宣言が解除されたすぐ後に、人生で初めての本が出た。 書店に並んでいるところが見たくて電車に乗ってみれば、いつもならもっと過密なはずの小田急線や山手線が、やけに空いている。あれだけ企業が渋っていたはずのテレワークもすんなり導入が進んでいくし、PM2.5などの大気汚染は、ここ数週間で劇的に数値が改善されたとキャスターが言った。 人類が何年かけても改善できなかった未来を、疫病がわずか半年で成し得ていく。なんとも皮肉な話に、真顔で笑った。それらと引き換えに、

        • 2005年、あのバンドが僕をモッシュピットエリアまでぶん投げた #人生を変えた一曲

          大学入学を機に、軽音楽サークルに入った。18歳のことだ。モテたかった。中高6年間男子校で、バスケしかやっていなかった。童貞だった。とにかくモテるためには、ギターを背負うしかないと思った。マイクを握り、伝説の曲を作って歌うしかないと思った。 ベニヤ板みたいなテーブルの上で、入部届けを書いた。「バンド経験、なし。パート、ヴォーカルかギター希望」。その日中に開かれた新歓コンパは、二次会まであった。精子みたいな匂いが立ちこめるカラオケボックス。歌がめちゃくちゃうまいやつがいた。聞い

        ここが、物語のプロローグ。YOASOBI 1st Live “KEEP OUT THEATER”ライブレポート

          常夜灯

          こんなにも、うまくいかないものか。 準備の時間がまったく足りない中で実施されたプレゼンは、箸にも棒にもかからず、終わりを迎えた。 そんなこともできないのか! 今まで何していた!  会議室に響く上司の声。その目はもう私に、何の期待もしていなかった。 露骨に落ち込みながらデスクに戻るものの、何も手につく気がしない。PC画面を睨んでみるが、役目を果たしたパワーポイントが、「質疑応答」の画面をやる気なく映しているだけだった。 こんな日はさっさと切り上げて、アルコールに浸り、映

          お前が“付加価値だ”と思ってるものなんて。

          「で、一年目終えて、どうだった?」 「いやー、なんつーか、あっという間でした」 「そうだよなあ。入社前のイメージと、違った?」 「そうっすね。いやー、なんか、思ったより、地味じゃないスか?」 「あははは、まあ1~2年目だもんねえ」 「いや、でも、シューカツのときは、『即戦力を求めてます!』とか、『若いうちから活躍できる職場です!』って、言われてたんすよ」 「まあ、そう言うだろうね?」 「それがフタ開けてみたら、“去年の書類の日付を今年に直すだけ”とか、“センパイの後ろにくっつ

          お前が“付加価値だ”と思ってるものなんて。

          拘束する言葉、高く飛ばす言葉

          書け、と言われている原稿がいくつもあるし、出せ、と言われている企画がその倍近くある。でも、筆は進まず、脳は動かず、雑念ばかりがせっせと働いており、よくないことだけど、「よくあることだから」と諦めて、雑念と付き合っているのが今である。 雑念は雑念止まりで、そこから進展することなく萎んでいくのが平常運転だけれど、今日は珍しく雑念の方がむくむくと展開と推敲を繰り返して、これは金もらって出せる記事じゃあねえけれども世には出してみてえ話だなあと思える次元に至ったので、約9ヵ月ぶりにn

          拘束する言葉、高く飛ばす言葉

          華麗なるランウェイとその舞台裏の狭間で【 ha | za | ma ファッションショーレポート】

          2018年6月8日。アパレルブランド 「 ha | za | ma (ハザマ)」の初となるファッションショー「 ha | za | ma 2018 A/W TOKYO COLLECTION "NOT BAD NIGHTMARE(悪くない悪夢)"」が開催された。 その反響は既にSNSを通してご存知かもしれない。入場無料とはいえ、恵比寿ガーデンホール420席を2公演とも満席にし、それぞれ立ち見客を150人以上集める大盛況となった。 同ブランド「初」のショーであることを考えると

          華麗なるランウェイとその舞台裏の狭間で【 ha | za | ma ファッションショーレポート】

          おれなんて、30過ぎても迷子だよ

          「30歳の抱負をどうぞ!」 10日前。誕生日を迎えたばかりの僕に、ある人が野球のヒーローインタビューさながらのテンションで尋ねてきた。 「ええ……? 急に言われても……。えっと……、うーーん……、いろいろと……、挑戦する……? 新しいことを、する……?」 「新しいこと? 何それ? 例えば……?」 10代の僕は、「30歳」はすごい大人で、落ち着きがあって、堂々としていて、安定を好む生き物だと思ってた。 でも実際の僕は、エア・マイクによって行われる正真正銘のエア・インタ

          おれなんて、30過ぎても迷子だよ

          圏外の世界にいた

          5日間、圏外の世界にいた。 正確に言うと、圏外で生活せざるを得なくなった。電波に色があったなら極彩色となっただろう東京の真ん中で、偶然にも1日にしてスマホを紛失し、ポケットワイファイの契約を切り、パソコンを自宅のフローリングに落としてクラッシュさせてしまった。 主要な連絡手段をすべて失うことになった僕は、文字通り「圏外の世界」で5日間生きることになった。 2016年の東京都心で、圏外生活は始まったのである。 1日目 「インターネットじゃないところに行きたい」とは

          圏外の世界にいた

          時間どろぼうとインターネットじゃない世界

          「インターネットじゃない世界、いいよね」 彼女は電話越しに言った。 「いい。こうやってネット回線通して電話して言うのも、アレだけど」 得意先の理不尽なオーダーや、SNSの「ともだち」に振り回されてしまった僕らは、適当な言い訳をつけて会社を休んだ。 僕はひさびさに平日昼間の商店街を歩いて、小説を買った。スマホのバックライトなんかこれっぽっちも見たくなくて、インクが丁寧に塗られた紙をめくるだけで、なにか人間味を取り戻せるんじゃないかと期待した。 「な

          時間どろぼうとインターネットじゃない世界

          SNSじゃ世の中は変えられない。

          12月14日、衆議院選挙がありました。 投票率は「過去最低」と推定されているそうです。 池上彰の番組を見ながら「皆が動かないから駄目だった」と嘆いている人は、SNSはまだ社会を動かすほどの力を持ってないってことを、もっと強く受け入れなくてはいけないようです。 しかし一方で、SNSは人ひとりの人生を変えるくらいの力なら容易に持ってて、それがいつか社会を変える可能性もあるってことも、信じ続けてほしいと思いました。 「どうせ負けるんでしょ」 「ほら負けた」 「行っても行かな

          SNSじゃ世の中は変えられない。