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上司の一言はデカい。

初級?ふふっ。
上級じゃないんかい。

あれは振り返ること20年前。

「初級シスアドに合格しました!」と当時の上司に情報処理技術者試験の報告に行った際に、私に放たれた一言です。
前職のソフトウェア開発会社に入社して、初めて合格した試験でした。
なのに、おめでとうの言葉もないなんて。。。

ソフトウェア開発会社の開発部門に配属され、プログラマーとして社会人をスタートした私は、会社の推奨する情報処理技術者試験を、入社して以来、何度も受験していました。

プログラマーの我々がまず取得するよう推奨されていたのは「基本情報技術者試験」。当時は「二種」という名称だった試験です。試験に合格すると、会社から報奨金が出る制度がありました。合格して報奨金を手にすることを目標に、終業後の勉強会に参加することもありました。

しかし、結果はふるいませんでした。
プログラマーとして入社したにもかかわらず、プログラミングに必要なアルゴリズムが苦手な私は、基本情報技術者試験を5回受験し、全て不合格という惨憺たる結果に終わっていました。毎年4月と10月にしか試験は行われないため、2年以上も不合格続きだったのです。

そこで、さすがにヤバいと思った私は、社内の評価は低いものの、会社から報奨金が出る対象となっている試験に照準を変えることにしました。それが「初級システムアドミニストレータ」試験でした。

今はもうこの試験区分は無くなってしまったのですが、30代以上の社会人の方には結構お馴染みの試験だと思います。
情報処理推進機構(IPA)のWEBサイトによると、平成6年に「システムアドミニストレータ試験」が始まり、平成8年に「上級システムアドミニストレータ試験」創設に伴い、「初級システムアドミニストレータ試験」に改称されたそうです。
参考:情報処理推進機構 試験制度の変遷(昭和44年~現在)

初級システムアドミニストレータ試験は、対象者像として「利用者側において、情報技術に関する一定の知識・技能をもち、部門内又はグループ内の情報化を利用者の立場から推進する者」とされており、あくまで「利用者」であるユーザ側の試験でした。
引用元:初級システムアドミニストレータ試験(AD) 制度の概要
(平成13年度春期から平成20年度秋期まで)
https://www.jitec.ipa.go.jp/1_11seido/h13/ad.html

一方、開発者が合格を目指す基本情報技術者試験は、対象者像として「情報技術全般に関する基本的な知識・技能をもつ者(情報システム開発プロジェクトにおいて、プログラム設計書を作成し、プログラムの開発を行い、単体テストまでの一連のプロセスを担当しているか、将来、そのような業務を担当する者を含む)」とされており、「開発者」の試験でした。
引用元:基本情報技術者試験(FE) 制度の概要
(平成13年度春期から平成20年度秋期まで)
https://www.jitec.ipa.go.jp/1_11seido/h13/fe.html

現在、情報処理技術者試験はさらに時代の変遷に合わせて見直しが行われており、下記IPAのサイトに記載されている、現行の基本情報技術者の対象者像は「高度IT人材となるために必要な基本的知識・技能をもち、実践的な活用能力を身に付けた者」とされ、開発者/利用者という区別がなくなっています。(とはいえ、「ITエンジニアの登竜門」とIPAのサイトに記載があるので、開発者のキャリアパスとしての位置づけは昔とそれほど変わっていない印象です)

話が脱線しましたが、これらの試験制度を振り返ると、冒頭の上司の言葉は、「難易度の高い上級シスアドならまだしも、(利用者側の試験である)初級シスアドに合格して、開発者として喜んでいる場合じゃないだろ」という叱咤激励だったのだと思います。

割とフランクに話してくださる上司だったので、
「とはいえ、せっかく合格したんですから、もう少しほめてくださいよ!」
と返したことを覚えています。

上司とのこの短い会話は、私の心の底の闘志に火をつけました。
「顧客であるユーザ側の事情を学ばないシステムエンジニアに、良いシステムはつくれない」
という考えが生まれたのもこの時です。
仕事のとらえ方を変えてくれたと言っても過言ではありません。

この一件以降、情報システムを開発するよりも利用する側の仕事や、バックオフィス業務を支える仕事に興味を持つようになりました。

その後、私は周囲の先輩や同僚が開発者側の試験を受験し続ける中、会社の報奨金制度にラインナップされていた「情報セキュリティアドミニストレータ試験」「上級システムアドミニストレータ試験」に挑むことに方針転換し、勉強するようになりました。

その後、現在の職場に情報システム部門の担当として転職し、利用者の立場での情報処理技術者としての知識を学び、「情報セキュリティアドミニストレータ試験」「上級システムアドミニストレータ試験」の両方に合格しました。当時受験できる「アドミニストレータ」と名の付く試験は全て合格したことに喜びをかみしめ、冒頭の上司の言葉を思い出して「お望み通り、上級に合格しましたよ」と独り言ちていました。
上級システムアドミニストレータ試験は、合格率が10%前後だったので、ことのほか、両親や家族が喜んでくれたのが誇らしかったことを覚えています。

現在、「アドミニストレータ」と名の付く情報処理技術者試験はありませんが、学んだ内容は確実に今の情報システム部門での業務に生かされています。

振り返ると、上司の一言がきっかけで、ユーザ側で求められる技術を学ぶことになり、今の仕事につながっています。

まさか、自分の言葉がきっかけで、開発者から利用者に転身するとは。
当時の上司はきっと、夢にも思わなかったことと思います。
もちろん、当の本人である私も当時は、システムエンジニアとしてずっと食べていくんだ、という思いを強く持っていました。

あれから20年。気が付けば、開発者ではなく、利用者側で情報システムにたずさわっている。
人生、何がきっかけになるかわからんなぁ。

振り返ると、冒頭の一言を含むこの会話は、私の仕事人人生を方向づけたともいえる、転機となる会話でした。

日頃から交わす会話の中の、自分の何気ない一言が、気づかないうちに誰かに影響を与えているとしたら。
自分の言葉が人に与える影響というものは、その発した時の予想をはるかに超えることが多々あるのではないかと思います。

今はその上司だった方も前職の会社を離れ、別のIT企業で活躍されています。数年前に再会し、また今度一緒に仕事ができたらいいですね、と話しているところです。

あの会話のことは、きっと覚えておられないと思いますが、私の人生にとって良いターニングポイントになった一言をくださったことに感謝しています。

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

#あの会話をきっかけに

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