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「隣の部屋空いてますか?」と大家さんに聞いたら住むことになった話。

11月、東京に拠点を移すことにした。仕事は写真家、フリーランス。

へぇ、そうなんだ。しっかり、頑張って。
でもさ、でもさ。そもそも家すら決まってないじゃない。

9月の2週間、個展で東京へ滞在していた間は友人の部屋にしっかり居候していた。展示が終わって夜に帰ってきて、そのままバタッと寝袋に包まれて寝ようとするわたしに「シャワー浴びろぉ!」とよく怒られた。ご飯が済んでいない時は「いいもん食わせてやる!」とオリジナルの親子丼やら素麺料理を作ってくれた。オリジナルとは、調味料をフィーリングで入れることを指すが、いつもすこぶる旨かった。魔法の右手だ。彼は大学の同級生で、バリバリの社会人なのだが、モテる要素は何かを悟った。

展示の間、わたしは彼に助けてもらいっぱなしだったけれど、不思議な縁は、どうやらまだ続くらしい。

拠点を移すと決めて「東京のどこに住むのが良いか」という永遠のテーマに悩んでいた。路線がどうちゃらとか、家賃がどうちゃらとか、ちゃんちゃらりんである。ただ、居候していた友人の家は、そんな煩わしい情報をポイ捨てしてくれるほどに、好立地&安い家賃の家だった。彼とは長年一緒に不動産のバイトをしていたから、いい部屋を見つける力があったのだ。

「こんな家が見つかったらな〜」引っ越しはできれば11月に。すぐに住めるお部屋だし、いい条件の場所はなかなか見つからないだろうなぁ。頭を搔く中、友人がボソッと呟いた。
「ワンチャン、隣の部屋が空いている気がする」

2年間生活していて、隣だけは音沙汰がないらしい。なんと、これは奇跡が起きるかもしれない。ただ不動産情報で探しても、隣の部屋は見つからなかった。だったら、大家さんに直接聞いてみよう。

翌日家を出ると、ドラマのようなタイミングで、大家さんが道端を掃除していた。あまりに良くできた台本だったので、電話で尋ねようと思っていたけれど、直接聞いてみることにした。

「すみません…!あの、このマンションの大家さんですか?」

完全に不審者である。居候者なのだから、本当に不審者である。

「そうだけど、それが何かね。」

「あの、実は、いま色々事情があって、友人の部屋に居候させてもらっています。勝手に過ごさせてもらっていて、本当に申し訳ありません!」

まずとにかく、勝手に居候するなよって話なので、お詫びした。許してくれて、ホッとした。

「いま、実は新しい部屋を探していて、大家さんでご存知の空いたお部屋ってありますでしょうか?」

隣の部屋が空いてませんか、を遠回しに聞いたようなものである。

「目黒の部屋なら空いているんだが、間取りが広いから家賃は高いぞ。」

目黒…ここは目黒ではない…隣の部屋の言及がない…。そうか、空いていなかったんだ。そりゃそうか…。現実は台本通りには進まなかった。

「やっぱり、隣空いてなかったわ!」と友人にLINEをして、この件は終わり。仕切り直して家を探さないと、と気持ちを入れ替えた。

その翌日である。

家を出ると、隣の部屋の玄関が空いていた。「(やっぱり音沙汰はなくても、人が住んでいたんだ…!)」と心拍数が上がる。音を立てないように、急いで鍵を閉める。しかし向こうから徐々に大きな音がする。こういう時に限って、人は鉢合わせをする。

「やぁ、君か。」

玄関から出てきたのは、大家さんだった。

「大家さん!?」

「実はね、部屋は空いてたんだが、しばらく掃除もしていなかったからね。フォッフォッフォ。」

隣の部屋は友人の言う通り、空いていた。事故物件というわけでもなく、他にも不動産を色々持っているから、わざわざ入居人を募集しなくても良かったのだろう。

「中、見てみるか?」

「いいんですか!?」

その場で奇跡の内見が始まった。キッチン周り、広い…。ガスコンロ、2口…。日当たり、悪くない…。鉄筋コンクリートだし…。

住める、住めるぞ…!

「ちなみにお家賃って、どれくらいでしょうか?」

「角部屋じゃないから、君の友人の部屋より2000円安いよ。あと、水道料込みね。」

「…住むか?」

の問いに私は答えた。

「住みます!!」

わたしのお部屋探しが、終わった。こんなこと本当にあるんだ、と思った。


その日の夜、先に家に帰っていた友人からLINEが届いた。

「おいかつお!俺の隣のポストに、もうかつおの表札ができとるぞ!!」

東京でもご近所付き合いを、大切にしたいです。

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(先日、広島のシェアハウスにご挨拶に行きました。秋の澄んだ空気、深呼吸。)

ポカリスエットを買います。銭湯に入ります。元気になって、写真を撮ります。たくさん汗をかいて、ほっと笑顔になれる経験をみなさんと共有したいと思います。