【労働法改正】カジュアル雇用の定義と運用が変わります。

2021年3月22日、フェアワーク法を改正する法案が議会によって承認されました。議会承認後の必要な手続きを経て、間もなく改正された内容が施行されることになります。

この改正の大きなポイントは、その定義を含めてカジュアル従業員に関して法律上の権利義務がはっきりしていなかった部分を一定程度明確化したという点です。法改正前は、下記に紹介する2020年判決のルールをもとに運用しなければならず、不確定な点が多く残されていました。これを払拭するという意味で画期的な法改正だといえます。

カジュアル従業員の方を雇用している場合には、特に注目いただくべき内容となっています。当記事では、2020年の判決を簡単に紹介するとともに、今回の法改正の概要を説明します。

1.2020年判決と法改正の背景

2020年判決と法改正の背景
2020年の最高裁の判決は、「カジュアル従業員」について“将来の就業や就業時間に関する約束やコミットメントが無い従業員”として定義付け、従業員がこれに該当するかは雇用が開始された後の勤務や取決めの実態に即して客観的に判断されるとしました。

このケースでは、雇用契約書において、当該従業員はカジュアル従業員である旨の明記があったにも関わらず、就業パターンの定期性や連続性を理由に、勤務実態等に即して判断すれば当該従業員はカジュアル従業員ではないと結論付けられました。当事者間の合意で雇用形態が決めれないことが、大きな不安要素になりました。

更に問題視されたのは、カジュアルローディングとフルタイム雇用のベネフィットの“ダブルディッピング”です。このケースでは、時給はカジュアルローディングを含む額で提示されており、カジュアルローディングの額が明確に示されていなかったことを理由に、支払い済みの給与に加えて、有給休暇の買取が認められたことに衝撃が走りました。

この判例は、カジュアル従業員を擁する多くのビジネスに大きな不安や不満を残すことになりました。これを受けて、議会は、「カジュアル従業員」の定義を法律で明確化すべく法律の改正に踏み切りました。

2.法改正の要点

今回の法改正の要点は、次の通りです。

法改正の要点
1.カジュアル従業員を定義づけし、実態ではなく、契約締結の時に決まるとする
2.フルタイム・パートタイム従業員を間違ってカジュアル従業員として雇用していた場合に、一定の条件を満たせば支払っていたカジュアルローディングは、フルタイム・パートタイムが受け取れる諸権利の支払いと相殺できる
3. 勤続12か月以上のカジュアル従業員には、フルタイム・パートタイムに労働形態を変更のオファーをする義務が使用者に発生する。
4.カジュアル雇用の開始時に、『Casual Employment Information Statement』を配布すること。

3.法改正の概要

(1)「カジュアル従業員」の定義

「カジュアル従業員」とは、次の3つの条件を満たす場合です。

カジュアル従業員の定義
1.使用者からの雇用の申し込みの内容が、同意された就業パターンにのっとって継続的で無期限の雇用になることを事前に確約していないこと
2.申し込みをされた本人は、その申し込み内容を承諾したこと
3.本人がその承諾により従業員となったこと

●「事前に確約していないこと」とは?
“No firm advance commitment”のコンセプトは、2020年の判例で用いられました。本改正では、そのコンセプトを採用し、さらに判断基準を示しました。
「事前に確約していない」の判断には、次のファクターが考慮されます。

• 使用者が仕事(シフト)をオファーすることを選択でき、従業員もまたその仕事(シフト)で勤務するか断るかを選択できる
• 使用者からの要請ベースで勤務するか否か
• 雇用形態が、「カジュアル」と表現されているか
• カジュアルローディングをはじめとするカジュアル従業員に受給資格があるものが支給されるか否か

●「申し込み」と「承諾」がある雇用の成立時にカジュアルか否かが決まる
カジュアルの定義の2点目と3点目は、契約締結時の契約内容によってのみカジュアル従業員かどうかが判断されることになります。カジュアル従業員として雇用を開始した従業員は、その後就業形態が(フルタイムやパートタイム等)他の勤務形態に変更されない限り、カジュアル従業員としての地位が継続するということになります。上記2020年の判例では、雇用開始後の勤務実態に焦点が当てられましたが、今後は考慮対象とはなりません。雇用後の事情に左右されない点で、使用者としてはカジュアル雇用を人事計画に使用しやすくなったといえます。

(2)カジュアルローディングとの相殺

今回の法改正により、「カジュアル従業員として雇用を開始したものの、実はフルタイム・パートタイム従業員だった」と判断された場合に、裁判所は、支払済みのカジュアルローディングの金額と、その他従業員が主張する正社員としてのベネフィットの付与や支払いを相殺しなければならないという新しいルールが導入されます。

概要は以下のとおりです。

裁判所は、以下の3つの要件が満たされる場合に、2.及び3.の金額を相殺しなければなりません。

1. 従業員が誤ってカジュアル従業員として識別されている場合であって、
2. 当該従業員に対してカジュアルローディングと明確に分かる(注)金銭の支払いがなされている場合に、
3. 当該従業員がその雇用期間に関して関連するベネフィットの支払いを求める場合
(注)カジュアルローディングの額の明記がない場合でも、裁判所は、相殺が妥当かどうかその額や相殺の対象を決める権限が与えられました。

上記3.に記載する「関連するベネフィット」とは、以下のベネフィットを指します。

• 年次有給休暇
• パーソナル/ケアラーリーブ
• 忌引休暇
• 公休日勤務手当
• 解雇予告通知に代わる支払い
• 整理解雇手当

このように、改正後の法律は、2020年の判例では認められたベネフィットのダブルディッピングを防止する策を講じました。

(補足)従業員に返金の義務はなし
カジュアルローディングの額がその他のベネフィットの額を上回ったとしても、従業員は返金を求められることはありません。

参照条文:フェアワーク法545A条

(3)カジュアル従業員の勤務形態の変更

カジュアル・コンバージョン(Casual Conversion)と言われるこの制度は、今までは、各モダン・アワードが適用される従業員が対象であり、従業員に要請する権利が与えられていました。しかし、今回の改正では、フェアワーク法にて、一部例外を除く全てのカジュアル従業員が対象になり、かつ、使用者にオファーすることが義務付けられました。これは、カジュアル・コンバージョンを要請することで不利益を被ることを恐れて要請をためらう従業員が多く、現行制度が機能していないことへ対応した改正になります。

次の場合に、使用者は、カジュアル従業員に対してフルタイム又はパートタイムのポジションをオファーすることが義務付けられることになりました。
1. 当該カジュアル従業員が12か月以上勤務しており、
2. 直近6か月間の雇用に関して当該カジュアル従業員が以下の条件を満たす場合
a. 継続的に決まった就業パターンで就業しており、
b. 大きな調整なく当該従業員はフルタイム又はパートタイム従業員として同様のパターンで就業することが可能であった

なお、以下の両要件を満たす場合には上記オファーを行う義務が免除されます。

3. 以下を含めオファーをしないことが合理的である
a. 今後12か月間の間に当該従業員が就業しているポジションがなくなる
b. 当該従業員の勤務時間が今後大きく減少する
c. 当該従業員が就業すべき曜日や時間が今後大きく変わり、当該従業員がその曜日や時間に就業することが困難である
d. オファーを行うことが連邦法や州法が定める採用プロセスに違反することになる
4. すでに知れている事実又は予見可能な事実に基づいて合理的であるといえる

(補足)従業員には要請する権利もある
もし、使用者側がカジュアル・コンバージョンを従業員にオファーしていない場合や、使用者側からのオファーを過去に断っていない場合には、従業員側から要請することもできます。

(補足)義務を回避する操作の禁止
カジュアル・コンバージョンの義務を回避することを目的として、カジュアル従業員の就業時間を減らす、変更する、又は解雇するといった行為は禁止されています。

(補足)スモールビジネスへの適用は、一部免除
従業員が15名以下のスモールビジネスに該当する場合には、使用者から上記勤務形態変更のオファーをする義務は免除されますが、従業員側からそのリクエストがあった場合にはこれに応じる必要があります。この場合、リクエストを受けた使用者は、上記で紹介した判断基準と同様の基準を考慮し、変更のオファーをすべきか否かを決することとなります。

関連条文:66A条~66M条

(4)『Casual Employment Information Statement』の提供

使用者は、カジュアル従業員を採用する場合、雇用開始前又は雇用開始後可能な限り早急にFair Work Ombudsmanが作成する『Casual Employment Information Statement』を当該従業員に提供する必要があります。

Casual Employment Information Statementには、カジュアル従業員の定義、上記勤務形態変更の権利等が説明される予定です。

3.まとめ

今回の改正を経て、2020年判決でより曖昧になった「カジュアル従業員」の定義が明確化されました。また、仮にカジュアル従業員ではなかったという判断がなされる場合であっても、それまで支払ってきたカジュアルローディング相当額を他のベネフィットと相殺できることが明確となり、この点でも使用者としての不安感は減少したといえます。

ただし、一定の場合には、カジュアル従業員に対してフルタイム又はパートタイムの従業員に変更することをオファーしなければならない使用者の義務が設けられることとなりました。

現在カジュアル従業員を雇用している場合には、この義務の対象とならないかどうかを確認させることをお勧めします。今回の改正を経て、使用者の方々においてはより自信をもってカジュアル従業員の方を採用することができるようになるものと思われます。ビジネスのニーズに合わせて雇用の形態を使い分けることが確実性をもって実現できるようになりました。今回の改正の詳細のみならず、従業員の方をどのような形態で採用すべきか等を含め人事の戦略についてのご相談がございましたらお気軽にお声掛けください。

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