テナントと大家で痛み分け ~オーストラリアの家賃問題の解消法~

オーストラリアでは、大家とテナントが家賃の交渉をすることを強制し、大家が提示すべき家賃免除の割合などが連邦政府によって決められました。新型コロナウイルスの感染拡大で家賃の支払いが困難になった事業者に対する支援策の一環です。

対象になるのは、商業用の賃貸借契約のうち、入居している事業主の年商が50億豪ドル(約35億円)以下で、かつ、売上が2019年の同じ月か四半期の売上から3割減の場合です。

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▶テナントだけが痛みを背負わなくていい
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交渉の枠組みは、テナントの事業の売り上げが前年度の同じ月と比べて減った割合によって決まります。売上げが減った割合の半分の割合を免除とし、残りの半分は繰延で、コロナパンデミックが終わってから賃貸借契約終了までに支払えばよいとされています。

例えば、売り上げが8割減の場合、家賃の4割は免除、次の4割は繰延、残りの2割は通常通りの支払いとなります。大家には、2020年4月から9月の6か月間、この免除や繰延を提示することが求められます。ただし、大家が抱える不動産ローンや他の事情があれば、情報を開示して誠実に交渉すべきとの余地は残しています。

交渉の実施に強制力を持たせるため、パンデミック期間中は家賃未払いでも「契約違反扱いにならない」「強制退去は不可」と決められました。

この支援策の最大の目的は、「このパンデミック期間を、大家とテナントが共に生き残る方法を模索すること」で、交渉することを強制し、その交渉の枠組みを明示しています。

(具体的なルールの説明は、弊所が運営している情報共有サイトをご参照ください)

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▶政府がお金を出さない救済措置もある
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テナントだけがコロナの痛みを背負わずに、大家も痛み分けすることを強制するこの支援策は、政府の予算も使わずに、一つでも多くの事業を存続させる方法としては効果があります。

現にオーストラリアでは、交渉を渋っていた大家も、この法案可決後に交渉を行い、家賃免除や繰延に応じるようになりました。

政府がB to Bの契約に口出しをするのは異例の措置ですが、誰も悪くないコロナの状況だからこそ、論理的に痛み分けを強制することにも納得の政策と言えるでしょう。

政府の予算にも限りがある中で、「補助金」や「無利息、無担保のローン」などの拠出金頼みの案だけではなく、当事者の交渉の枠組みを決める支援策も選択肢にあるとよいのではないでしょうか。

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▶スピードも大切
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オーストラリアでは、3月上旬から自粛ムードが広がり、同月15日には全面的に外国人の入国が禁止され、23日には飲食店やパブ、スポーツジムなどに休業命令が出されました。その翌日の24日には、連邦政府により、家賃未払いでも「契約違反扱いにならない」「強制退去は不可」の法案を通すと発表し、4月7日には交渉の枠組みも定められました。

休業命令とほぼ同時に政府が動いたことで、売り上げ激減の事業主も、不安に押しつぶされる前に事業再開に向けて動けていると感じます。昨日5月8日には、休業解除のプランも公表され、今週金曜日(15日)には飲食店も条件付きで再開します。

もちろん、短期間に多くの法案が成立すると日々新しい情報が飛び交い、法律事務所も情報センターと化していますが、前向きな混乱は、早いタイミングで支援策が出ているが故のものと言えます。

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