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[読書感想文]一穂ミチ『うたかたモザイク』

あっという間に読み終わってしまった。
何度も読み返すとは思いますが
特に思い入れが強く残った
〝神さまはそない優しない〟の感想をば。

とん、ってな。
そんだけ。
から始まる短い物語。
電車のホームから落っこちて
電車が来て轢かれて
「うちの子になる?」って拾ったのが奥さんで
そこで初めて自分は死んで猫に生まれ変わったことを知る 春に拾われたから春男(めっちゃださいやんけ は本人いや本猫の台詞です)
記憶を残したまま猫になった春男は
猫生活を満喫している。
〝寝て起きてめし食うて水飲んでぺろぺろして
ゲーしてウンコして、その繰り返し。足らんもんも余るもんもない。〟って羨ましい。
で、去勢手術されてエリザベスカラー巻かれて
〝頭に朝顔みたいなん巻かれてぺろぺろもできへんし、何せあの見た目、間抜けすぎるやろ?
何がエリザベスじゃボケ。〟と毒づいてた動物
病院で、元鳶職で同じく猫に生まれ変わった
仲間から
〝人間出身の猫は一生に一度だけ人間語がしゃべれる。でもしゃべったら人間の記憶は完全に消える〟と教えられるのだ。
春男は〝人間のおっさんやった頃の俺はがむしゃらに働いてローン払って嫁を養って、大きな責任を果たしとるつもりやったけど、何ぼのもんやったんかいな。猫でもできることが、できてへんかった。人間でおるって、夫婦でおるって、何やろね。〟って猫生じゃなく人生を振り返る。
15年元嫁と暮らしいよいよ猫の寿命を迎えるが
日が近くなったある日、元嫁が言った。
〝あたし、あの日、突き落とすつもりなんか
なかったよ。ほんとになかった。〟
春男はそれに気づいていた。
だから生まれ変わって伝えに来たのか。
自分の愚かさを。
世の中って大抵はそんなもんだって。
最初で最後の言葉は
「朝メシ、ラップかけといて」
〝もっとええこと言えや〟
〝俺の人生と猫生は何やったんか〟
〝たったひとりの惚れた女、二回も置いてくんや〟
〝その事実があるのみ〟
〝俺の後悔やら懺悔やら愛やらこの肉球から
伝わっとったらええな〟
伝わるかな。

でも神さまはそない優しないからね。

この本全体に漂っているのは
泡沫。
『No Rain Check』
人生は現品限り。

#オールカテゴリ部門
#創作大賞2023

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