【読書感想文】石川拓治『奇跡のリンゴ』
りんごは林檎と漢字で書くのが好みだったが
林檎は日本古来の観賞用であって、
私たちが普段食べているのは
リンゴと書くのだと知った。
「絶対不可能」と言われた
無農薬のリンゴ栽培。
「自然の中には害虫も益虫もない。
それどころか、生物と無生物の境目すらも
曖昧なのだ。土、水、空気、太陽の光に風。
命を持たぬものと、細菌や微生物、昆虫に
雑草、樹木から獣にいたるまで、生きとし
生ける命が絡み合って自然は成り立っている。
その自然の全体とつきあっていこうと木村は
思った。自然が織る生態系という織物と、
リンゴの木の命を調和させることが
自分の仕事なのだ」
これこそが木村さんの矜持なのだろう。
六年もの歳月を殆ど無収入で
無農薬にかける人生。
家族はたまったもんじゃなかった
だろうと思った。
読み進めるうち、もしかすると
ご家族は不幸ではなかったんじゃ
ないかと考えるに至る。
木村さんの娘さんたちは
苦悩する父の姿を見て
人間の根っこも見たのでは
ないだろうか。
もしそうだとすると
彼女等にとって極貧生活は
決して貧しいだけでは
なかったのでは。
本編の冒頭に
こんな一節が載っている。
危険から守り給えと祈るのではなく、
危険と勇敢に立ち向かえますように。
痛みが鎮まることを乞うのではなく、
痛みに打ち克つ心を乞えますように。
人生という戦場で味方をさがすのではなく、
自分自身の力を見いだせますように。
不安と恐れの下で救済を切望するのではなく、
自由を勝ち取るために耐える心を願えますように。
成功のなかにのみあなたの恵みを感じるような
卑怯者ではなく、失意のときにこそ、
あなたの御手に握られていることに
気づけますように。
(ラビンドラナート・タゴール『果実採集』より 石川拓治 訳)
人間の根っこを考えさせられる一冊。
本を閉じた時、甘酸っぱいリンゴの香りを
嗅いだ気がした。
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