アマビエちゃんと加藤くんのお話 第8話『ネブラスカ(後編)』
「ただいま。」
「おかえり。」
「ネブラスカにいってきたよ。」
「すごいね。自転車で行ったんでしょ。寒くなかった?
暖かいお茶を飲みな。」
「うん、ありがとう。ネブラスカにいったら、常連のお客さん達がいてさ、
信さんを偲んでいたよ。」
「そう。みんな彼のことが好きなんだね。」
「うん、みんなから、信さんのことを大好きな気持ちが直接伝わってきたよ。ネブラスカという飲み屋をなんとか残したいって言っていた。」
「残るといいね。」
「うん。残ってほしい。高円寺に僕も10年近く住んでいたけど、たくさんのお店がつぶれていった。」
「そうなんだ。」
「好きなラーメン屋や、飲み屋がテナント募集中になっているのが、すごく寂しくて。」
「寂しいよね。私も森の木のリスの巣穴が空っぽになっているのを見るのがすごく寂しい。」
「うん、寂しいよね。なんか、泣けてきた。」
「泣かないでよ。加藤くんは本当に泣き虫だよね(笑)。」
「うん、アマビエちゃんの前だと、すぐ泣けてきちゃうんだよなあ(笑)」
「信さんのことを想いだして?それとも好きだった他のお店のこと?」
「どうだろう。なんで泣けてくるのか、自分にもわからないんだよ。」
「むにむに。」
「ありがとう。アマビエちゃん」
「ネブラスカ、誰かが継いでくれたらいいね。」
「だといいなあ。でもたとえ継ぐ人がいなくても、ネブラスカの記憶はきっと、あの場所に残り続けると思うんだ。」
「建物が取り壊されても?」
「うん。たとえどんな形になっても、あの場所を通ったら、僕はネブラスカや信さんのことを想いだす。他の常連さんたちも同じだと思う。」
「記憶は永遠に残る。素敵なことだね。」
「うん。そうだ!!献杯しようよ。」
「そうだね。信さんに献杯しよう。」
「奈良県の山奥の神社に行ったとき、宮司さんがくれた、美味しいお酒を飲もうよ。」
「私、お酒はすぐ酔っちゃうから、おちょこを舐めるぐらいね。」
「うん。信さんのお酒とアマビエちゃんのお酒と
僕のお酒を用意して。はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
「信さんに」
「けんぱーい!!」
「美味しいな。」
「信さんも喜んでくれたよ。」
「うん、よかった。アマビエちゃん、教えてくれて、ありがとう。」
「ふふふ。よかった」
「アマビエちゃん」
「何?」
「僕は絶対に忘れないからね。信さんのこと。」
「うん、信さんも嬉しがってるよ。」
「アマビエちゃん」
「うん?」
「大好きだよ。」
「ありがとう。嬉しいな。」
「お願い。」
「?」
「ずっと生きていてね。
そして僕のそばで、ずっと笑っていてほしい。」
「いいよ。」
「約束だからね。」
「うん。」
つづく