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生命のアーキテクチャ:渦から振り子へ

はじめに

生命の起源を探求する中で、生命そのものの本質的な構造についての仮説を立ててきました。

  • つなぎ止めが終わると、結びつきが崩れる

  • 結びつきが崩れると、つなぎ止めが終わる

この構造についての説明は、以前の記事に記載しています。その続きとして、もう一つ重要な構造が必要になることに気が付きました。

  • エネルギーの振り子を持つ

この記事では、このエネルギーの振り子について説明していきます。

エネルギーの振り子

はじめに、で挙げた「結びつきとつなぎ止めの構造」については、以下の記事に記載しています。

簡単に言うと、複数の有機物が化学反応が起きる位置関係にありつつ、化学反応の連鎖が循環的に起きるような構造です。

ポイントは、外部からの力位置関係がずれると化学反応も止まって元に戻せない。かつ、エネルギーの供給が途絶えて化学反応が止まると、位置関係も崩れて元に戻せなくなる、そうした構造を持つ有機物群が、生命の元になっているという仮説です。

この構造を着想した時、エネルギーは常に外界から供給されるものに頼ることを前提に考えていました。これは、渦のようなものです。

しかし、それだけでは、あまりに脆弱で短命です。

そこで、エネルギーの振り子を持つことで、より変化に強く長く構造を保つことができるということに気が付きました。

エネルギーの振り子には、エネルギーの入れ物が2つ必要になります。そして2種類の化学反応の連鎖が必要なります。

動きを追っていきましょう。

2つのエネルギーの入れ物を、要素1と要素2とします。そして2種類の化学反応の連鎖2を、反応1と反応2とします。反応1は要素1にエネルギーが入っていると駆動し、反応2は要素2にエネルギーが入っていると駆動する、という性質を持っている必要があります。

最初は、要素1にエネルギーが入っているところからスタートしましょう。

要素1のエネルギーを使って、反応1が駆動します。これにより要素1は空になり、要素2にエネルギーが入ります。

次に、要素2のエネルギーを使って、反応2が駆動します。これにより要素2は空になり、再び要素1にエネルギーが入ります。

これが繰り返されるわけです。

永久機関はありませんから、少しずつ熱エネルギーなどでエネルギーは散逸するはず。しかし、外部から絶え間なくエネルギーが供給される必要があった渦のような構造よりも、一時的にエネルギーが途絶えてもしばらくは動き続けることができる振り子の方が、より環境のゆらぎに強く、より長い時間構造を保ち続けることができます。

それに、このようにリズムを刻んでいる方が、渦のイメージよりも、より生き物の姿に近いように感じます。(似たようなものがセルオートマトンでも出てきますね)

そしてこれでようやく、私が生命の起源の仮説として考えている生態系的システムの以下の3要素が1つに絡まり合ったものが現れたことになります。

  • 有機物(エンティティ)

  • 化学反応(プロセス)

  • エネルギー

こうした振り子の構造を持つ有機物群と化学反応群は、かなり複雑な機構です。これが偶発的に出来上がる必要があるわけですが、細胞全体の複雑度に比べればシンプルですので、有機物と化学反応の多様性を生み出すための仕掛けを持った環境の中で誕生したと考えても、それほど無理はないでしょう。

系の中のエネルギーの交換総量

若いころに、どうして人間はリズムが好きなのだろうか、とか、ブランコをこぎ続けることを楽しいと思うのだろうか、ということを考えていた時期があったことを思い出しました。

振り子の揺れが長く続くように絶妙なタイミングで力を繰り返し加えた場合と、ランダムに力を加えた場合では、どちらも失うエネルギーも同じで、最終状態も振り子が止まっているという状態になりますが、人間は前者の方が楽しいと感じます。

そうした考えから、そのころの私はこれをもう少し一般化して、次のように考えていました。

  • 外部からエネルギーを与えられた系が、そのエネルギー散逸するまでの間、その系の中の複数のエネルギーの入れ物の間で、どれだけ長く、多くのエネルギーを交換できたか、ということを表す物理的な指標があるのではないか。(あるいは散逸するまでの総エネルギー交換量)

  • 人間は振り子を押すことで、その指標が最大になるようにすることに、楽しさを感じるのではないか。

当時、物理学にはそういう指標や考え方があるはず、と思っていましたが、私の知識とネット検索スキルでは見つかりませんでした。さきほど、チャットAIにも聞いてみましたが、やはり見つけられませんでした。

蛇足ですが、当時、人間がリズムを楽しいと感じるのなら、ニューロンの循環構造があればよいはずと考えてネットで調べていたら、神経振動子というものがあると知り、これをニューラルネット化したら何か新しいことができそうかも、と考えていたことを思い出しました。

ブランコの楽しさはさておき、このように、系における総エネルギー交換量や、エネルギー交換の持続時間などの観点で理論を組み立てていくと、どのような構造がエネルギーの振り子が生命に近づいていくために有利なのか、研究の手がかりにできそうに思えます。


おわりに

思いがけず、昔考えていたことと、この生命の起源の探求の話が結びついたことに少し驚きつつ、一方で、やはりあの頃に考えていた振り子の面白さについての考察は、何か意味があったのだなという嬉しさもあります。

こうしたエネルギーの振り子の概念に近いものから出発し、やがて複雑化していったものが細胞であり、その進化の先が人間だとすると、人間がブランコを楽しいと感じることには、運命的な必然を感じます。

それに、一度入ってきたエネルギーを最後の最後まで使い切ろうとする様子は、もったいない精神にもつながりそうです。また、エネルギーを入れ物の中でやりとりすることに意味があるというのは、お金を留めておくのではなく回すことが社会にとって重要という話を聞くことがありますが、そうしたこととも何か考え方に共通点がありそうです。

人間が楽しいと思うもの、美しいと思うもの、大切だと思うもの、そうしたものは他にもたくさんあるはずです。それらの中には、まだまだ、有機物の世界の中でも重要なものが隠れているのかもしれません。



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