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知能の処理の本質:パターン認識とシミュレーション

■パターン認識とシミュレーション

私は、パターン認識とシミュレーションが知能の処理の本質だと仮定しています。

パターン認識は、ニューラルネットワークで実現可能です。ニューロンによる四則演算と伝達関数、そして、そのネットワーク構造による状態の重ね合わせがニューラルネットワークの本質です。

四則演算、伝達関数、状態の重ね合わせは、いずれも、連続状態と離散状態の二種類を扱うことができます。連続状態は実数、アナログ、暗黙知、といった言葉で言い換えることもできます。離散状態の場合は、整数、デジタル、形式知、に対応します。

シミュレーションは、チューリングマシンで実現可能です。状態を保持するメモリ空間、状態変化をさせる命令コードの列、そして命令コードを順に読み込んでメモリ空間上の状態を変化させていく処理系で、チューリングマシンは構成されます。

一般的なコンピュータは、チューリングマシンはデジタルな状態とデジタルな命令、デジタルな処理系で実現されます。デジタルな状態の状態数を極端に大きくすることで、アナログな状態を模擬することは可能です。コンピュータはこの原理を利用して、整数だけでなく実数も模擬的に処理することができます。命令と処理系は、一般にはデジタルですが、乱数やノイズを混入させることでアナログな命令や処理系も模擬することはできます。

■ニューラルネットワークとチューリングマシンの相互模擬

ニューラルネットワークは、チューリングマシンを模擬することができます。反対に、チューリングマシンがニューラルネットワークを模擬することができます。

神経細胞を持つ人の脳は、まさにニューラルネットワークですのでネイティブのパターン認識能力を持ちます。また、そのニューラルネットワーク上でチューリングマシンを模擬することで、どうにかシミュレーションも行うことができます。

一般的なコンピュータはチューリングマシンですので、ネイティブのシミュレーション能力を持ちます。また、チューリングマシン上でニューラルネットワークを模擬することで、どうにかパターン認識も行うことができます。現在のAI(人工知能)はこの模擬されたニューラルネットワーク上で、さらにチューリングマシンを模擬してシミュレーションを行っていることになります。

■パターン認識とシミュレーションの性質

パターン認識は、パターンを覚え、パターンを認識する処理です。
シミュレーションは、メカニズムを覚え、メカニズムを模擬する処理です。

■パターンとメカニズムの性質と、存在の定義

パターンは法則や秩序、メカニズムは過程やカオスです。

このため、パターンは静的で共時的な存在、メカニズムは動的で通時的な存在、と言えます。言い換えると、存在とは静的な存在であるパターンと、動的な存在であるメカニズムです。

■現実世界と仮想世界

現実世界には現実世界固有のパターンとメカニズムが存在します。

パターン認識とシミュレーションは、知能の中で行われます。このため、知能という仮想世界の中にも、パターンとメカニズムが存在します。

仮想世界を観察して学習することで、知能という仮想世界の中に、現実世界固有のパターンとメカニズムに対応したものを存在させることができます。

これにより、知能は現実を認識し、未来を予測することが可能になります。この認識や予測に、パターン認識とシミュレーションが活用されます。

■仮想世界の活用法としての学問

また、現実世界の観察とは無関係に、仮想世界の中でパターンとメカニズムを存在させることができます。これらの仮想上の存在は、全くの空想やフィクション、ファンタジーである場合も多くあります。しかし、仮想上の存在であるにもかかわらず、現実世界の認識や予測に有用なものもあります。これが、学問の領域にある存在です。

数学や物理の理論は、それ自体は現実世界を直接観測して学習できる部分もありますが、それだけでは学習しきれないパターンやメカニズムを含んでいます。

これらは、知能という仮想世界の中で存在し、それが有用であることが確認されることで、理論として確立していきます。それらのうち、公理さえ定めれば現実世界での実証とは切り離して有用性が確認できる領域が数学であり、必ず現実世界の認識や予測に有用であることが証明されなければならない部分が物理学だと言えるでしょう。

同様に、現実の化学物質や化学反応を観測して学習したり、知能という仮想世界の中で仮定を立てて実証する学問が化学です。生物に対して観測や実証を行うのが生物学、社会に対して観測や実証を行うのが生物学、文化や人間に対して観測や実証を行うのが人文系の学問、ということになるでしょう。

■知能の進化の理由

初歩の知能は現実世界の存在(パターンやメカニズム)からの学習を通して、現実の認識と予測を行います。そして高度な知能は、知能内の仮想世界内で発案、構築、推論した存在(パターンやメカニズム)の中から、現実世界の認識と予測に有用なものを探し出します。

この知能が自分で自分の生存を維持する必要がある場合、この認識と予測の能力が、生存能力に影響を及ぼします。このため、生物はその生存競争の中で、初歩の知能を持つ段階から、高度な知能を持つ段階まで、進化してきたのだと考えられます。

■知能の進化の未来

パターン認識は並列処理が可能です。このため、現在のAIは一般的に並列処理が得意なGPUと呼ばれる半導体チップを利用しています。

シミュレーションは直前の処理で確定した状態を、次の処理で用いるため、直列処理しかできません。このため、CPUと呼ばれる直列処理が得意な半導体チップを利用する方が良いことになります。ただし、シミュレーションするモデルの中にも、並列処理が可能な部分や、パターン認識処理が必要になる部分があれば、その部分は並列処理が得意なGPUを使う手があります。

現在のAIはプログラムを書く能力を獲得しつつありますので、近い将来、シミュレーション部分はコンピュータのネイティブのシミュレーション能力を活用する方式にシフトしていくでしょう。

また、現在のコンピュータ(いわゆるノイマン型コンピュータ)の他に、将来は量子コンピュータの実用化も見えてきています。量子コンピュータは、ニューラルネットワークの本質の1つである重ね合わせ状態の処理をネイティブに行うことができますので、脳やAIよりも、高性能のパターン認識能力を実現できるかもしれません。そうなると、量子コンピュータがパターン認識、ノイマン型コンピュータがシミュレーション部分を担うことで、人間の脳や現在のAIでは想像もつかないほどの高性能かつ低エネルギーコストの知能が生み出される可能性もあります。

■さいごに

この記事では、知能の処理の本質として、パターン認識とシミュレーションについて整理しました。

これを基軸として、ニューラルネットやチューリングマシンといった計算機科学の原理から、脳、ノイマン型コンピュータ、量子コンピュータといった処理のハードウェアについて整理し、知能の歴史と未来に光を当てました。

また、知能と現実世界の関係についての考察も行いました。現実世界の存在の基礎に、パターンやメカニズムがあるということは、私がこの記事を整理している中での大きな発見です。これにより、現実世界の存在を認識して予測を行うことが、知能の目的になっているという理解に至ることができました。なぜなら、知能の本質はパターン認識とシミュレーションだと仮定しているためです。

加えて、知能の中だけの仮想世界と、現実世界の関係についても見えてきました。仮想世界の中には単なる空想やフィクションもあります。ただそれだけではなく、現実世界への有用性が実証されることで、学問に昇華する場合もある、という理解を得ることができました。

この記事は知能に関して、処理の部分に焦点を当てました。知能のもう一つの大きな側面として学習があります。学習で得られた知識を使う事で、パターン認識やシミュレーションが実用的になります。このため、学習についても、今後検討していきたいと考えています。

現実世界のパターンやメカニズムを映す鏡は、知能だけではありません。生命現象も、現実世界を映す鏡であるというのが私の仮説です。この記事の整理を元に、生命現象における処理についても、今後、掘り下げて考えていきたいと思います。

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