メモ:構築された法則:遠い学習の原理

はじめに

生命の起源において有機物が量産されつつ、その複雑さを増していく仕組みを、工業社会におけるサプライチェーンとバリューチェーンの概念を援用することで説明ができることを述べてきました(参照記事1)。

偶発的に新たに生産できるようになった有機物のうち、それまでの生産プロセスの生産性に対してプラスに働くような作用を持つものが生き残るという原理です。つまり、生成された有機物が、自分自身を生成しやすくするような作用を持っていれば、生き残るということです。この仕組みはシンプルですが強力です。無数の有機物の組み合わせを試行できる仕掛けがあれば、この原理に従ってサプライチェーンが伸びていきますが、生き残っている有機物は、すべてこのサプライチェーンにプラスのフィードバックを与えるものばかりですので、チェーンが伸びて生成される有機物がどんどん複雑になっても、その生産基盤も安定していくわけです。

この仕組みで見つけられる新しく有用な有機物は、基本的には即時役に立つものである必要があります。例えば、Aという有機物がすでにあり、そこから合成できるBが即AやBの生産に役立つ、さらにBから精製されるCも、即AやBやCの生産に役立つ、Dについても同様、どいう場合、この仕組みでサプライチェーンが伸びていきます。
一方、BとCは特に生産性向上の役立にはたないけれども、その先にあるDまで生産されればとても役に立つ、というケースは、このシンプルなサプライチェーンのモデルではうまくいきません。図示すると以下のような形です。
生産に即座に役に立つものを「○」や「◎」、役に立たないものを「─」で示しています。

  • A → B[○] → C[○] → D[○] :「近い学習」の積み重ね

  • A → B[─] → C[─] → D[◎] :「遠い学習」が必要

上の図にも書きましたが、即座に役に立つものを見つけ出して、それを仕組みの中に定着させるケースを「近い学習」、役に立つものを生成するためには、間にある役に立つわけではないものをいくつか挟んだ形で生成して、それらを定着させるケースを、「遠い学習」と呼ぶことにします。

遠い学習のための仕組み

俯瞰することができるのであれば、Dが役に立つ可能性を把握し、Dを生成するための中間生産物BとCを作ればよいことに気が付いた時点で、このB、C、Dが生産されるように仕向ければよいことになります。

一方で、俯瞰することができない場合は、手探りで見つけていくしかありません。この手探りの方法が、遠い学習の方法という事になります。

他にも無数のパターンがあり得る中で、このB,C,Dを見つけ出すのはどうすればよいでしょうか。

いくつかの方法があるのだと思いますが、私はBやCが役に立つものだと「認識する」ための仕掛けを用意するというアプローチについて考えています。

上の図で、〇印がついたものは、実質的に役に立つものです。一方で、「─」となっていたものは、それが生成されただけでは実質的には役に立つわけではないものです。その、実質的に役に立つわけでないものを、役に立つもの(あるいは役に立つ可能性が高いもの)として認識させることができれば「遠い学習」が可能になるはずです。

この遠い学習を可能にするための仕組みは、有機物の合成の過程では実現できない可能性があります。これができる例は、人間の知性です。

繰り返しになりますが、俯瞰してみるというのは今回はなし,、して考えます。

その場合、1つの能力は、人間の直感です。理論では説明できないけれども、経験則などからBやCが役に立つ可能性が高い、と感じるケースがあるでしょう。そのような直感が働けば、Dの生成まで至ることができます。これは、将棋の棋士が、数十手先まで読んでもまだ有効手が見つからない場合に働かせる能力と同じようなものです。理屈ではなく、経験則に基づく勘です。

人間のもう一つのやり方は、ジンクスや格言やことわざなど、です。過去に幸運なことが起きた時に身に着けていたアクセサリをここぞという時には身に着けるとか、急がば回れなどの昔の人の知恵に従ってみるとか、そういう手法です。前者は個人の経験則ですので直感と近いものがありますが、後者は社会や集団の経験則です。

このように、直接的な報酬や、俯瞰による合理的な理屈に基づくやり方でなく、経験則に基づくやり方を「遠い学習」の原理と考えてみようと思います。そして、そのように積み上がった経験則が見せるものを「構築された法則」と呼ぶことにしようと思います。

そう定義すると、「遠い学習」というのは、この「構築された法則」を構築することを指すことになります。


※メモ
構築された法則は法。人間や集団は、この構築された法則を立法することで遠い学習を行っている。そして、構築された法則に基づいて行動する(行政)を日常的に行い、その際にコンフリクトを起こした構築された法則同士の調整(司法)が必要になることもあります。
これは人間個人でも、集団でも同じです。

構築された法則という報酬体系に従って行動するうちに、今度は、構築された法則自体に沿うにはどうすればよいかという問題が現れ、構築された法則にアプローチするための構築された法則も出てきます。


参照記事一覧

参照記事1


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