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生命の起源におけるメカニズム進化

私はシステムエンジニアリングの観点から、生命の起源について個人研究をしています。無生物である化学物質が地球上で化学進化して細胞が出来上がるまでの過程について、考えてきました。

この記事では、これまでに考えてきた化学工場ネットワーク仮説、および、構造進化と化学進化の相補関係の話について簡単に紹介します。

その後、これまであまり検討が出来ていなかった、化学物質の製造のメカニズムの観点について考えていきます。これは、製造メカニズムの進化です。

そして最後に、製造メカニズムの他にも生命の起源の中で進化したと考えられるメカニズムを概説します。

■化学工場ネットワーク仮説

太古の地球上の池や湖などの多数の水のたまり場が化学物質を製造する化学工場の役割を持ち、地球の水の循環によってこの工場間を化学物質が移動することで形成される化学工場ネットワークが、初期の化学進化の舞台だと考えています。水の循環として、地上の河川での水の流れだけでなく、水が蒸発した時の上昇気流、雲の流れ、降雨といった空の経路も利用されたと考えています。

この循環構造が、化学工場ネットワーク内にフィードバックループを形成し、多数のループが維持されたり強化されることで、多数の化学物質が生成され、それを元にして新しい化学物質が生成されるという化学進化が地球全体で行われていたと考えています。

■構造進化と化学進化の相補関係

化学進化の過程で、粘性を持った塊や、繊維状の構造、脂質膜などの物理構造も生成されたと考えられます。これらが化学物質を集合させ、その中で化学反応が起きることでより複雑な化学構造が生成されたと考えられます。こうした物理構造の面でも進化が進み、化学進化の進展に貢献したと考えられます。これを構造進化と私は呼んでいます。

なお、化学物質が膜に包まれて、そこで化学物質が生成されて供給されるなら、一つ一つの膜で包まれたものが化学工場となります。従って脂質膜の登場は、劇的に化学工場の数を増やしたことになります。

構造進化が化学進化を促進し、化学進化によって作られた物質が構造を形成するという相補的な関係がそこにはあります。

■製造メカニズムの進化仮説:初期

ここからは、生命の起源における化学物質が製造されるメカニズムについて、それがどのように進化したのかを仮説として整理していきます。

まず始めは、触媒なしに、化学工場に素材が揃って環境条件が整いエネルギーが供給される事で、特定の化学物質が生成されたと考えられます。

初期段階で生成された化学物質の中には、触媒となる化学物質が含まれている場合もあります。次の段階では、化学工場がこれらの触媒を利用して、より複雑な化学物質を生成できるようになります。

こうして触媒を使った化学物質の生成が進むと、より複雑で壊れやすい二次的な触媒が生成される場合があります。

■二次触媒とパーティ仮説

壊れにくい一次触媒があれば、たとえ一時的に二次触媒が全滅しても、また次の機会に二次触媒が生成されて化学反応を起こすことができます。

これは私がパーティ仮説と呼んでいる現象です。盛り上がっては終わるパーティのように、例えばエネルギーが豊富にある昼間に二次触媒による化学反応が活発に起き、夜になるとそれが収まります。これを繰り返しているうちに、一次触媒となる壊れにくい触媒も壊れやすい二次触媒も多様化が進み、化学進化が進行するという仮説です。

やがて進化により、破損速度よりも早く二次触媒が生成されれば、壊れやすく複雑な二次触媒であっても、存在し続けることが可能です。パーティ仮説ではこの現象を、終わらないパーティの始まり、と表現しています。

■生命のリドル

二次触媒を含むシステムは、私が死停止性と呼んでいる生命の性質を持っています。これは、一度止まってしまうと構造が崩れて再び動くことができないという性質です。これに対して、例えばロボットは停止しても再起動できます。このロボットのようなものを休眠停止性と呼んでいます。

生命が存続に不利に思える死停止性を持っていることは不思議に思えます。これを私は生命のリドルと呼んでいます。この謎の一つの答えは、死停止性は休眠停止性を内包できる分、より複雑な機構を持ち得るという説明です。

二次触媒の性質は、この生命のリドルと見事に呼応します。

■ニワトリとタマゴの必然的偶発と共進化

次の段階では、二次触媒が別の二次触媒と組み合わせ触媒として化学物質を生成するようになります。これはニワトリとタマゴの必然的偶発と私が呼んでいる現象を利用します。

この現象は、依存しあう関係にある2つのものが、それぞれ低い発生確率を持っている場合、長い時間かければ必然として同時発生するという現象です。

そして、依存しあう二次触媒の組み合わせが登場し、それが自己強化的なフィードバックループを形成する事ができれば、双方が共進化していきます。

この2つの組合せが共進化していくと、やがて非対称的な進化をします。片方の触媒はコードの役割を持つ形で進化し、他方の触媒は製造装置として進化します。

製造装置としての触媒は、対になる触媒のコードを翻訳するタイプと、複製するタイプとに分かれます。

■製造メカニズムの進化仮説:中期

コード型の触媒と、翻訳機型の触媒および複製機型の触媒が現れるのが、製造メカニズムの進化における中期の段階です。

複製ができるようになると、元のコード型の触媒を生成するための一次触媒がなくなっても、そのコード型の触媒は存在し続けることができます。この段階で、コード型の触媒は、自己増殖可能な独立触媒となります。

この独立触媒は、ウイルスのようなものです。複製機型の触媒を利用して、自己増殖ができるためです。

これで、生命の起源における化学進化の中で、自己複製の仕組みが出来上がるまでの過程の折り返し地点までが説明できるようになりました。

この後は、自己複製する仕組みができるまでの進化になります。

■DNAとRNA、複製機触媒、翻訳機触媒

コード型の触媒はDNAやRNAです。DNAとRNAでは、対応する翻訳機触媒が異なります。DNAからはRNAへと翻訳する触媒が対応します。RNAからはたんぱく質へ翻訳する触媒が対応します。それぞれのペアは、ニワトリとタマゴの必然的偶発と共進化により発生したと考えられます。

また、そもそもDNAとRNAという依存関係のある2種類のコードのペアが存在すること自体も、ニワトリとタマゴの必然的偶発と共進化により登場した可能性が高いと考えられます。

さらに、DNAに対応する複製機触媒も登場したはずです。これはDNAの二重螺旋を解き、それぞれの単独の鎖の上に、新しく対になる鎖を補完的に生成していくことで複製を行います。

ここには、DNA、DNAの複製機、DNAからRNAへの翻訳機、RNA、RNAの複製機、RNAからたんぱく質への翻訳機、といった複雑な関係を持つ触媒が登場します。これらが、どのような順序で発生したのかは正確には分かりません。ただし、何度かのニワトリとタマゴの必然的偶発と共進化が繰り返されて、この関係が形作られたと考える事が出来ます。

■製造メカニズムの進化仮説:後期

DNAやRNAは始めはごく短く、外側には何もなく比較的すぐに壊れるものから始まったと考えられます。そこから、タンパク質で囲まれることや、脂質膜によりカプセル化されるという、この記事の最初の方で説明した構造進化が起きます。

コード型の触媒はタンパク質で囲まれるようになると、ロバスト性が増して壊れにくくなります。その分、長く複雑なコードになる事が可能になります。

さらに、コード型の触媒がエンベロープと呼ばれる脂質膜に包まれることで、さらにロバスト性が向上し、長さと複雑さも増します。恐らく同時期に、複製機触媒や翻訳機触媒も脂質膜に包まれます。

そして、最終的には全てが一つの脂質膜の中にカプセル化されることで、細胞が誕生することになります。

■生命の起源における進化のレイヤー構造

生命の起源を探求する中で、化学進化に構造進化という観点を加えて考えてきました。この記事では、そこへさらに、製造メカニズムの進化という概念を追加することができました。

これらの進化の観点は、相互に関係しつつ、物理的レイヤーと概念的レイヤーの2つのレイヤー構造を持ちます。

化学進化と構造進化が、最も基盤となるレイヤーであり、物理的な実体を持つレイヤーです。この上に、概念的なメカニズムのレイヤーとして、製造メカニズムの進化が位置します。製造メカニズムは抽象的な機能を表す概念であり、実体は化学物質や物理構造であるため、概念的なメカニズムのレイヤーに属します。

この2つ目の概念的なメカニズムのレイヤーの中核は、製造メカニズムであることは確かですが、それだけではありません。以下に、その他にも進化したと考えられるメカニズムを挙げます。

a) 認知反応メカニズム

生命が自己の状態を保つためには、外界や自分自身の内部の状態に応じた反応が必要になります。これは認知反応メカニズムです。

認知反応メカニズムには、養分を摂取するための反応や、外的や毒を避けるような反応、内部に蓄積した老廃物を廃棄する反応、誤って内部に入り込んだ異物を排出したり破壊したりする反応などが含まれます。こうした生命の起源においても、この認知反応メカニズムの進化もあったはずです。

b) 資源管理メカニズム

エネルギーや養分を取り込んですぐに化学反応に使用するだけでなく、蓄積して状況に応じて使用するメカニズムも生物には必要です。生命の起源においても、この資源管理メカニズムの進化があったと考えられます。

c) 評価報酬メカニズム

生命の起源における進化の鍵は、自己強化あるいは自己維持を可能にするフィードバックループです。このフィードバックループは、評価報酬メカニズムと言えます。

シンプルには、存在自体を維持したり強化すること自体が報酬となります。一方で、例えば生命の維持に役立つ反応をしたら、そのメカニズムにエネルギーを供給するという仕組みも、報酬になり得ます。こうした評価報酬メカニズムの進化も、生命の起源の時点で現れていた可能性があります。

■さいごに

進化のレイヤー構造として示した各メカニズムの進化が、関連しあいながら相補的に生命誕生までの化学進化と構造進化を進めたと考える事が出来ます。

この進化のレイヤー構造は、生命の誕生後も、そのまま生命の進化に当てはまる概念です。

そのように捉えると、最初の細胞の登場は記念碑的な意味を持ちますが、進化の流れの中では一つの通過点に過ぎず、その前後で大きな変化はないという事になります。この記事で提示した私の仮説では、細胞が登場する以前から、DNAやRNAの変異による進化も発生していたことになるためです。

また、製造、認知反応、資源管理、評価報酬のそれぞれのメカニズムは、企業にも見られるメカニズムです。生命は、企業と同じように環境の中で生き残りをかけて、これらのメカニズムを進化させてきた存在という事になります。

このように、生命の起源を探求することにより、生命自体の本質についても、理解を深めることができそうです。

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