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問題解決の基本論理:デジタル思考とアナログ思考の使い分け

問題解決には、問題そのものに対する理解が欠かせません。すぐに理解できる問題の場合や、感覚的に問題を把握できる能力がある場合は、直感的に素早く適切な問題解決ができます。

そうではない場合、問題をしっかりと分析して判断する合理的なアプローチを取るべきです。合理的に問題解決を行うためには、論理的に問題を理解することが重要です。

具体的な情報のまとめ方や比較検討の方法は世の中に多くあります。この記事では、その前段となる基礎的な考え方として、問題解決の論理を整理します。

■問題のフレーム

問題を理解するというのは、要件、解決手段、解決方針、を理解することです。

一般的な問題では、要件と解決手段は複数存在します。これを把握することが重要です。

全ての解決手段を最大限に講じたり、全ての要件を最大限充足したりすることは、一般的ではありませんし、無駄が多くなります。通常は、いくつかの解決手段を選択して、要件の一部を充足させることになります。どのように選ぶか、という解決方針を定めることも重要です。

■論理的な問題理解における重要な概念

要件、解決手段、解決方針を把握する際に、それぞれ以下の性質が極めて重要になります。合理的な問題解決のためには、問題を理解する過程でこれらの性質を明らかにしていく必要があります。

<要件の性質:必須と重要>

必須: 問題解決のために絶対に達成すべき要件や条件。この要件を満たさない場合、問題は解決しません。
重要: 問題解決のためには必要ではないが、取り入れることでより良い結果が期待される要件や条件。

<解決手段の性質:不可能と困難>

不可能: どんな手段を取っても達成できないこと。
困難: 達成するのは大変だが、一定の方法や努力をもってして可能なこと。

<解決方針の性質:最適化とバランス>

最適化: ある特定の要件や目的を最も高いレベルで達成することを目指す考え方。効率や性能を最大限に引き上げる。
バランス: 複数の要因や要件を適切に組み合わせて、総体としてのベストな状態を求める考え方。

■必須要件を明確にし、達成できない解決策は選択肢に挙げない

10個の重要な要件が達成できても、1個の必須要件が達成できないのであれば問題は解決しません。

このため、重要と思われる要件の中で、必須の要件は何かを明確にすることが肝心です。そして、いったん、必須の要件以外の要件を全て無視した場合に、どのような解決方法の選択肢があるのかを考えるのが近道です。なぜなら、そこに出てくる選択肢以外は、必須の要件を満たさないため、調べたり考えるだけ無駄です。

■不可能な選択肢は消し、困難な選択肢は残す

同様に、選択肢や解決手段について、不可能と困難を明確に分けて考える必要があります。特に、解決がそもそも難しいとされている問題について議論している時に、個々の解決手段の困難性の指摘は意味を成しません。一方で、不可能性の指摘は意味があります。

不可能な解決手段は、選択肢に残しておく必要はありません。困難な解決手段、選択肢としては挙げておく必要があります。

■必須要件と不可能な選択肢を含む例

電化製品を買う例を考えると分かりやすいと思います。どんな機能や性能を持った製品があるかをざっと調べ、候補となる製品をピックアップしていく作業を行うと思います。

最初の調査ステップでは、機能や性能を漠然とみるのではなく、自分にとって必須の機能や性能を明確にしながら進めるのが効率的です。そして、候補をピックアップする時は、必須の要件を満たしている製品だけを選んでいきます。必須の要件でない製品を含めたくなったなら、必須要件の再考をします。

こうして検討の初期に必須要件に従って選択肢を絞れば、かなり選択肢を絞ることができます。その後に重要な要件に着目した調査と検討を進めると、効率的です。

この際、製造終了になってもう購入できない製品があることに気がついたら、候補リストから外します。一方で、予算の上限を必須の要件に挙げていないのなら、想定を大きく上回る高額な製品であっても候補に挙げておきます。金額を理由に候補から外すのであれば、まず予算の上限を必須要件に加えてからです。

■デジタル思考とアナログ思考

ここまでのステップは、デジタル思考です。必須かどうか、不可能かどうかは、1か0のデジタルな情報です。そして、必須要件を満たしていないもの、不可能なものを候補から外すという作業も、判断基準が明確ですので、デジタルな作業です。

一方で、ここから先のステップは、1と0の明確なラインがなく、判断基準にも幅のある、アナログな思考が必要になります。

■必須要件が満たせる場合

必須と不可能の観点で候補を絞り込んだら、次のステップは、解決手段の困難さを意識しつつ、重要な要件のどれを満たすかを考えることになります。

必須要件は機械的にすべて満たす事を考えればよい要件でした。一方で重要な要件は、すべて満たす必要はないため、どこまで満たすかを決める必要があります。かつ、複数の要件のうち、どれを満たすかを選択する必要があります。

また、要件だけを眺めてそれを決めることはできず、必ず解決手段とセットで考える必要があります。解決手段がいずれも時間と費用が莫大にかかる上に、確実性も低いのであれば、全ての重要要件を諦めるという選択肢もあり得ます。反対に、全ての重要要件を満たすことが短時間でほとんどタダで確実にできるなら、要件を削る必要はありません。

一般的な問題は、その中間の状態であることが多いため、選択が必要になります。

■最適化を目指すか、バランスを目指すかを決める

この選択は、どうしても部分的には恣意的にならざるを得ない。とはいえ、できる限り合理的に選択するために、方針を決めることが重要です。方針を決めると、思考の過程で方向性が気がついたらブレているということがなくなります。

方向性を変えたくなったら、方針を考え直します。また、複数人で検討する時にも、方向性を明示して意識合わせをしておくと、検討のやり直しが少なくなります。

具体的な方針の決め方自体は多岐にわたります。一方で抽象的な方針としては、最適化とバランスがあります。

最適化は、全体として何らかの指標を立てて、それができるだけ大きくなるような選択肢を選ぶというやり方です。一方で、バランスは、複数の観点に適用できる指標を立てて、それが同じ値になるような選択肢を選びます。

組織内で報酬の配分を考える問題が好例です。活躍したメンバーに多めに配分してモチベーション最大化を目指す方針と、メンバーにバランスよく配分する方針が考えられます。なお、最適化とバランスは二者択一でなく、両方を織り込むことも可能です。報酬の80%はメンバー全員に平等に配分し、20%は良い働きをしたメンバーに上乗せするような形で、モチベーションと平等感を両立させることを目指す事もできます。

■必須要件が満たせない場合

不幸にも、必須要件を満たす選択肢がないケースも存在します。この場合、必須要件を削るより他に手がありません。この場合も、アナログ思考が必要になります。

全ての必須要件が満たせないという前提の下で、何を犠牲にするかは、恣意的に選ばざるを得ません。ここでも最適化やバランスといった選択の方針を考えることが重要です。

加えて、必須要件の変形も考える必要があります。例えば、予算や日程の要件を満たせない場合は、その制限の緩和を検討することができるかもしれません。あるいは、予算であれば借金や代替的な取引など別の手段で捻出することができる可能性があります。日程であれば、締め切りに間に合わなくても最終的に自らデリバリーをすることで最終顧客が必要とするタイミングに間に合わせるなどの代替手段も考えられるかもしれません。

この他、満たせない要件を別の手段で補償するという選択肢もあるでしょう。ある要件が満たせないことが契約違反となる場合、あえてその契約違反をして、契約違反の場合のペナルティを払ってしまうということも選択肢です。

こうして必須要件を変形することで、答えが見つかる可能性があります。例えば、締め切りの要件を守るために、大事な品質を犠牲にして重大なリスクを抱えるくらいなら、締め切りを超過して違約金を払いつつも、リスクはしっかりと抑えることの方が得策という事もあるでしょう。予算と締め切りの要件は、要件の中でも変形の余地が大きい部分です。

■追加の考慮事項

この他、要件同士や解決手段同士の関係、そして検討の順序についても要点を記載しておきます。

<要件間の性質:矛盾とトレードオフ>

要件の間には、矛盾やトレードオフがある場合があります。矛盾は、片方を満たすと、他方を絶対に満たす事ができないものです。トレードオフは、片方を満たすと他方が制限されるものです。

トレードオフには全面的なものと部分的な物があります。片方を選択すると、他方が必ず制限されるケースと、場合によって制限されるだけという場合です。

また、トレードオフの性質も、ゼロサム的な場合と、最適化可能な場合があります。単純に片方が1増えると他方が1減ると言った場合は、ゼロサム的トレードオフです。2人の人がいて、2個のリンゴがある時、片方に2個与え、他方には何も与えない場合より、それぞれに1個ずつ与えた場合の方が、全体の幸福度の合計は高くなります。これは最適化可能なトレードオフです。

矛盾という言葉がよく使われますが、実際には部分的なトレードオフにすぎないことが多くあります。例えば利己的と利他的は矛盾という捉え方をされることがありますが、実際はトレードオフに過ぎません。相手に親切にすることが自分にとって素直に喜びであることもあります。個人主義と全体主義、理想主義と現実主義なども同様です。

問題解決の要件において、要件同士が真に矛盾することはあまり多くはありません。多くの場合は要件同士の矛盾ではなく、そこにあるトレードオフと解決手段の組合せを考えた時、両方を満たせないケースがあるというものです。

<解決手段間の性質:競合と依存>

解決手段の間には、競合や依存関係があります。

一人の人しか作業に充てられないとすれば、同時に複数の解決手段を講じることが難しく、解決手段の間に競合が起きます。解決に使う人手や道具や資源の取り合い、という意味です。この場合、順番に実施するか、作業ペースを落として並列で進めるなど、やり方を考える必要があります。

また、ある解決手段を講じる前に、別の解決手段を実施しておく必要があるという場合も考えられます。その場合、後者を先に実施する必要があります。

このため、問題解決に利用できるリソース(人、物、情報、お金)を把握し、かつ、解決手段同士の関係も整理した上で、リソースを効率的に活用して安く早く実現できるよう、段取りを考えることが重要です。

<検討の順序:分析と評価>

要件と解決方法について、調査し、思考し、整理することは、問題の分析をしているフェーズです。そこから、要件、解決手段、解決方針を検討することは、評価に相当します。

一般に分析をしっかり行ってから評価をするような順序をイメージすることが多いと思います。しかし、評価を行って初めて、新しい要件や、その必須性や重要性、方針の妥当性等が見えてくるものです。このため、実際の問題解決では、分析と評価を小まめに行き来して、問題の全体像を把握していくことが近道になります。

またその際には、要件や手段や方針をできる限り文書化し、変更がある度にその文書を更新しながら検討を進めるべきです。そうすることで、同じところで悩んだり、ちぐはぐの対応をせずに済みます。何より、その問題解決の関係者の間で、共通認識を明確にしながら検討を進めることができ、分析と評価、そして最終的な意志決定が合理的で納得性の高いものになります。

■失敗の例

こうして整理すると、これらの考え方は基本的なものですし、当たり前の事に思う人もいるかもしれません。ですが、これが上手くできていない人も多いことは事実です。以下、よくある失敗の例です。

  • 重要な要件を並べるだけで、その中から必須のものを明確にする作業を怠りがちです。必須ではないけれども重要な要件に気を取られてしまい時間を無駄にします。

  • 不可能な選択肢を残していたり、反対に困難な選択肢を候補から消したりします。これも、検討時間を無駄にします。

  • デジタル的に明確に判断できる必須や不可能の判断を疎かにしたまま、アナログな判断を行おうとしてしまい、情報量が多くて分析と評価に膨大な時間を掛けてしまう。最悪の場合、必須の要件を満たせない選択肢を選んでしまう。

  • 反対にアナログな判断を疎かにして、必須事項が満たせる選択肢を採用して、必須ではないけれど重要な要件をすべて削り落としてしまう。

  • アナログな判断において方針を明確にせず、あいまいな判断をしてしまう。そのために偏りがあり、関係者の納得性が低い選択肢を選んでしまう。あるいは自分自身で選択に後悔をしてしまう。

  • 必須要件が満たせない状況にも関わらず、ずっと解決策を見つけようとして時間を無駄にしてしまう。

  • 代替手段がある必須要件を残したまま、代替手段のない必須要件を削ってしまう。

  • 単なるトレードオフにすぎない要件を、両立できないものとして片方を完全に削り落としてしまう。

  • 最適化可能なトレードオフを、ゼロサム的トレードオフのように捉えて、極端な選択をしてしまう。

  • 矛盾している要件の両立を目指そうとして、検討時間を無駄にする。

  • 問題解決に充てられる人、モノ、カネ、情報の競合や依存関係を正しく理解せず、与えられた期間では実施できないと思い込んで諦めてしまう。あるいは反対に、実際よりも短期間で実現できると思い込んでしまう。

  • 評価に役に立たない情報以外を含む問題の詳細な分析に時間を掛けてしまい、時間を浪費する。また、評価を行うことであたらに見つかった要件を十分に検討することができずに、問題解決策の立案の期限を迎えてしまい、最適な策を見つけられずに終わってしまう。

  • これまでの問題分析の結果が文書化されていないため、関係者で役割分担して分析を進めようとしても上手くいかず、時間を無駄にする。また、意志決定時も背景の情報が理解できず、納得性が低くなる。問題解決策の立案者自身も、自分の分析や判断に自信が持てない。問題解決策立案時の背景を、将来振り返って調査しようとしても情報が得られない。

■さいごに

この記事では、問題解決の基礎についてまとめました。これは、私のシステム開発の業務経験や、個人的な買い物の検討時に使っている考え方をベースに、改めて文章にまとめてみたものです。

この合理的な問題解決の論理は、仕事でも日常でも、些細な問題でも大きな社会問題でも、幅広く適用できます。

多少、経験やコツが必要になると思いますが、日常的な思考にも適用できるため訓練の機会は豊富にあります。例えば例に挙げた家電の購入のように、実生活の中で使っていくことで経験を蓄積することができます。仕事でも社会問題を考える際でも、経験を積む機会は多くあるでしょう。


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