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言葉になるもの、ならぬもの

 名前が無いけど感じているものに名前がつくと、流行します。エモい、なんていうのもそうで、そのような感情は今までもあったんですよ。だけど、感動した、というのも違うし、ほっこりした、というのも違うし、しっくりくる言葉が無かった。そこに「エモい」という言葉が生まれて、この感情を言語化することができた。言語化するというのは、明らかにすることです。そして言語化すると、さらに、そういう感情を積極的に感じるようになる。エモいという言葉があれば、エモさに拍車がかかるわけです。

 そういう意味で、僕は名付けたいものがあるんですけど。村づくりをするにあたって、その村での人間関係にあたる言葉が無い。共同体、なんていうのも近いようで違うんです。エモいと感動した、ぐらい違う。家族でも無い。家族ほどではないけど、仲間という感覚。じゃあ「仲間」でいいじゃないかというと、それも違う。仲間というのは、あるプロジェクトとか、チームとか、一時的な匂いがするでしょう。でも、家族って離れても家族でしょう。そういう意味で、繋がりは深いんです、仲間よりも。

 ホワイト中小企業が、良い意味で「家族的な関係」になっていったりするでしょう、それが一番近いかもしれない。それがもっと家族的になった、でも、家族では無いもの。そういう、共同体と言っちゃいますけど、共同体を作るにあたり、言葉があった方が都合が良いんですけど、言葉が無い。でも、言葉が無いということは、そのものが無いということでは無い。

 人間関係というのはグラデーションで、すごく親しい人から、全く知らない人まで、さまざまな関係があります。虹の色のスペクトルと同じようなものです。虹の色だって分解しようと思えば、7色だけじゃなくて、何百色とかに分けられるんじゃないですか。人間の視覚が認知できるまでは、分解できる。機械的に分解しようと思えば、波長ごとに分解すれば、延々と分解できる。分解して、緑と青の間に色を作ったとして、その色は今までなかったかというと、あるんですよ。あったけど、言葉が無かっただけでしょう。

 そして、緑と青の間の色に名前がついて、例えば「あどり色」としましょうか、あどり色がクレヨンとかにも加わったら、あどり色という概念を認知する。すると、あの山はあどり色しているね、というように認知できる。言葉があって初めて、認知できるようになる。そういや、緑色というのは日本文化にとっては新しい色で、あれは昔は青に含まれていましたから。だから、緑色なのに青信号と言うし、青々とした山、と言うんです。緑という言葉がある世界に我々は生きているから緑を認知できるけど、昔は、あれは青でした。

 虹の色と同じように、人間関係はグラデーションなのです。そこに「生まれてから死ぬまで近くに住んでいて、生計も一緒にしていて、助け合っていて、でも一緒に住んでいるわけではないし、家族ではないし、一番大切な人かというとそうでもないし、だけど他人より大切な仲間には違いないし、でも気が合うかというとそれは別の話だし、というような関係性」に当たる言葉が、ありません。

 無いと、作るのは難しい。これは「緑色」のように、外部にあるわけではない。自分達で作らないといけない。人間関係の難しいのは、外部に在るものではなく、作り上げるものだからです。そこに何らかの名前があれば、作るのもずっと楽になると思うんですけど、無いねぇ。名前が無い。古代も、そういう人間関係はあったのでしょうけれども、当たり前のものには名前が無いんですよ。

 話を変えるけれども、ま、これも実体験というよりはネットとかの情報のイメージですが、今の若者がすごく人間関係にこだわったり、友達関係を重視したり、彼氏だ彼女だとか、そういう人間関係が重かったり、ストレスにもなっている。これは、そういう人間関係の言葉が可視化されたからだと思います、SNSを含めて。親友、という言葉に釣られて、親友を探す。言葉が重くなりすぎるんです。

 なぜかというと、SNSなどのネットは言葉です。文字情報です。文字でのやりとりは、悪い意味で、言語化しているんです。本当は複雑な、おいそれと言語化できないものも、言語化して短いメッセージにするんです。で、人間はそんなコミュニケーションに対応する本能を持ち合わせていませんから、その裏にある言葉を探る。そして傷ついたりする。ま、大変ですね。スマホをぶん投げれば済む話ですが。「言葉」があり、それにつられるからこそ悪い方向に出る、という例です。

 言葉というのは不自由なもので、無ければコミュニケーションできないけれども、あれはあるで、実態を正しく表すものでは無い。実際とは齟齬が出る。コミュニケーション手段として、一長一短があります。長所は、広く伝わること。短所は、正しく伝わらないこと。そうやって、人間の幻想とかも広がっていくわけです。で、新たな幻想、というか、人間関係を広めたいのですが、言葉が無いのでどうも困っちゃうなと思う、今日この頃。またあした。

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