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万葉集のイカれた歌

 万葉集の歌人の一人で、長意吉麻呂(ながの おきまろ)という人がいて。この人の歌がファンキーでぶっ飛んでいて、僕は大好きなので、紹介したいと思って。

香塗れる 塔にな寄りそ 川隈の 屎鮒食める いたき女奴

 意味は、お香を焚いて、良い匂いがしている仏塔がありまして。で、「な寄りそ」は、古文で「な〇〇そ」は、〇〇をするな、という意味ですから、近寄るな、ってことです。高校の古文の先生が、生徒に注意するときに「なしゃべりそ」と言っていたのを思い出しますが。前半は、お香を焚いて良い匂いがする仏塔に近寄るな、という意味。

 川隅(かわすみ)の屎鮒(くそふな)というのは、当時は、川がトイレでして、だから「厠(かわや)」とも言うのですが。で、川でトイレをすると、うんこが流れて、で、川がカーブしているところに溜まるわけです。川の隅(すみ)です。で、それを餌にする鮒がいる。それが、川隅の屎鮒。

 で、その屎鮒を食べている、いたき女奴(めやっこ)。いたき、というのは、ひどい、とか、まぁ悪い意味です。女奴(めやっこ)は、女奴隷みたいなやつ。ということで、この歌の意味は「お香を焚いて良い匂いがしている仏塔に近づくんじゃねーよ、うんこ鮒を食べているクソ女」というものです。

 なぜこんな歌を詠んだかというと、落語でも「三題噺」というのがあって、お客さんからお題をもらって、即興で噺を作るというものがあるんですよ。で、この、おきまろさん、宴席で「香」「塔」「厠」「屎」「鮒」「奴」という題をもらって、それで即興で詠んだみたいなんです。すごくないですか。当時のIPPONグランプリですよ。下世話ですけど。で、相当盛り上がったんでしょうね、この歌が万葉集に入っているわけです。

 もう一つ、おきまろさんの歌をご紹介します。

醤酢(ひしおず)に 蒜(ひる)搗(つ)きかてて 鯛(たい)願ふ 我れにな見えそ 水葱(なぎ)の羹(あつもの)

 ひしおず、というのは、酢醤油みたいなやつで。そこに、蒜(ひる)ってのは現代でも野草のノビルがありますが、ネギとかニンニクみたいなやつ。高知では「ぬた」と言って、似たものがありますが。酢醤油におろしニンニク入れて、鯛を食べたいなぁ、ということです。

 でも、目の前にあるのは、ナギ、というのは水葵という植物だそうですが、それの羹、お吸い物です。我にな見えそ、は、また出ましたね、な〇〇そで、禁止事項。つまり、僕には見えないよ、ということです。鯛が食べたい僕には、野菜の吸い物なんて目に入らない、ってこと。現代風に言えば、叙々苑に行きたいから、カップヌードルとか見えないし、みたいなことです。

 この人、こんな歌ばかり残しているんですけれども。歌っていうと、天皇陛下が人民の生活に寄り添ったりとか、農作業のこととか、恋の歌とかのイメージがあって、万葉集なんていうと、そういう素敵なキラキラ歌ばかりだと思うじゃないですか。「令和」も万葉集由来だし、ちゃんとしている感がすごいけど。でもおきまろさん、ちょっとイカれているんで、クソ鮒を食ってる女とか、鯛が食いてえとか、そんなことばっかり詠んでいるんです。で、最後にご紹介するのが、こちら。

一二(いちに)の目 のみにはあらず 五六三(ごろくさむ) 四(し)さへありけり 双六(すごろく)のさえ(さいころ)

 1と2だけじゃなくて、5と6よ3と、4もあるんだよ、双六のサイコロ。という意味です。まじでイカれていますけど、おきまろ。でも、これも万葉集に入っています。深い意味を取ろうと思えば取れなくもなさそうだけど、たぶん、おきまろはノリだけで言っているんですよ。頭の回転が早くて、空気を読めて、社交性があって、笑いを取れるようなギョーカイ人だったと思います。奈良時代の。人生楽しそうな人ですね。ってことで、おきまろのファンです。はい。またあした。

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