見出し画像

『たまごっち』発売時に、おもちゃ屋の店長でした。

 
 仕事、今も営業では、
『ウソはつかない』を、モットーにしています。
 
 これを言うと
『またまたぁ~、お前が言うか!』顔をされるのですが、   
 
ボクの場合はその代わり、『都合が悪いことは言わない』『少し話を盛る』と、不確かな情報を提供した後には必ず、『知らんけど』を、付けています。
 
 誠実な営業マンです。
 
 
 こんなボクですが、『たまごっち』という商品が爆発的にヒットした約2年間は、ウソばかりついていました。
 
 もう20年以上前、時効ですよね。
 
 
 
 
☆ ☆ ☆
 
 『たまごっち』が発売された年、大阪南部の地方都市で、全国チェーンの玩具店で店長をしていました。
 
 秋の玩具の展示会の時には、まさかあんなに爆発する商品とは 想像もつかず、でも、店のスタッフの女の子が、
『あれ、出たら買います』と、言った一言が決め手、しっかり仕入れることにいたしました。
 当時、その会社は、全国チェーンとはいっても、約95%は各店仕入、よほどの戦略的商品以外、品揃えの裁量はほとんど店舗の判断に委ねられていました。
 
 ところが、その年末「意外に売れたなぁ」なんてノンキなレベルではなく、一気に火がついて商品確保もままならず、お客様からどんだけでも待つと言われても『客注厳禁』が、本部から早々に伝えられてきました。
 
 当時その会社で、バンダイと本部商品部には比較的太いパイプが有ったので、バンダイメインの玩具問屋より各店に配給の形で、ある程度の数量は定期的に回ってきていました。
 でも世間では圧倒的な需要過多、本部からの配給は どうしても基幹店中心で、地方の店は、地元の問屋さんにもしつこく交渉、お願いを重ね、違うルートからも集めなくてはりませんでした。
 そして、その店は間違いなく、その商圏で一番『たまごっち』を販売している店でした。
 
 お客様からの問い合わせは、毎日です。
四六時中とは、こういうことかと実感。
 
電話はひっきりなしにかかってきていました。
 
「たまごっち売ってますか?」
 
申し訳ございません、現在品切れ中でございます。
今、入荷待ちでございます。
 
もし、有ったとしても、「有るけど売ってません」なんて、そんなこと言えません。
 
「今度いつ入荷しますか?」
 
入荷予定は、未定でございます。
いつ、何個入るか、私どもにも、全く分かっておりません。
入荷次第、すぐに販売させていただきます。
 
 ウソです。
いつ、何処から何個入るか、最重要事項です。
ちゃんと掌握していました。
 少量で販売するのは、パニックになる恐れがあるので、本部からの配給と、かき集めたのを合わせ、ある程度数量が確保できてから販売していました。
 20個位の納品で、入荷する度に一々正直に販売するなんて、とても危険なことだったのです。
 
「予約できますか?」
 
誠に申し訳ございませんが承っておりません。
 
 電話の応対は交代交代で、丁寧な受け答えのマニュアルを徹底して、それでも時々、
「店長を出せ!」
 そういう方ほど、ウチの店に来たこともない方でした。
 
「あんたんとこでなんか、もう、買わへんわっ!」
と何回もかけてくる、買わへんのやったら電話してくんな!なんて、言いたくても言えません。
 
もう切りがないので
 残念ですが、お客様だけ特別扱いするわけにはまいりません、失礼いたします。
と、さっさと受話器を置いていました。
 
 
 同チェーン店や、問屋さんから、各地の様々なトラブル情報が入ってきていました。
 
 抽選で販売しようとしたお店が、20個ほどの入荷に応募者が  あっという間に1000を越え、収まりそうにないので、その応募を先着順2000までで打ち切ったとか。
 販売日を案内したら、徹夜組が出たり、開店とともにショッピングセンターを全力で走ったり、雇われたホームレスらしき人たちの団体が先に並んでしまって、開店前に来ていた一般客の方に渡らなかった… と、山のようなお客様からのクレームに加え、ショッピングセンターのテナント管理からも大目玉を喰らったとか。
 
 店内でお客様同士のトラブルや、購入されたお客様が恐喝されたり、販売時以外にも、店の着荷荷物が荒らされたりと、日本全国で事件が起こっていました。
 
 バンダイはもちろん他の玩具メーカー名でも、メーカー名がプリントされた段ボールの荷物は危険なので、海苔と書かれた段ボール(玩具問屋は浅草に多かった)に入れ替えられたり、わざわざ裏返しにして組み立てられていました。
 
 店に着いた荷物は、すぐに事務所内に入れ込む体制にしていました。
 
 
 いつも、着荷を目ざとく見つけるお客様が必ずいて
「たまごっち来たんとちゃうん?」
 
 たとえ着いていても、言うわけありません。
 
 入荷次第すぐ販売します、なんてウソの弊害で、毎日、荷物が届きそうな時間帯に、数人がチェックしにご来店。
 日曜日や夏休みは、朝から子ども達が店の前に居すわって見張っています。
 
 それが日常でした。
 
 同じショッピングセンター内の、他のテナントの方々もまた厄介で、開店前の準備している忙しい時に必ず『今日は売らはらへんの?』のご挨拶。
 
 ボクの仕事先を伝え聞いた昔の知り合いからの連絡もグーっと増えました。
 
学生時代バイトしていた頃の先輩から突然の電話
「明日、たまごっち入るんやろ!  知ってんねんぞ!
 5個売ってくれや!」
 
 もちろんそんな着荷予定はありません。
『バンダイからかなりの量のたまごっちが、明日着で各方面に発送されている…』
  数多くのデマが、もっともらしく流布されていました。
 
 一方、商品本部のエライさんに頭の固い方がいて、
『店の人間が買うより先に、先ずはお客様から!』
なんて言ってきますが、店長でもウンザリするほど、知り合い、取引先などに頼まれ困っているわけで、働いているスタッフも事情は同じ、買うな!なんて言えません。
 
 でも、うるさい本部には、
当たり前ですよ! そんなことしません! お客様第一。 と。
 
でも、正価で買うんだから、スタッフだってそん時はお客様、と、スタッフの子たちにも一人一個ずつでしたが、お客様に販売する日に合わせて人数分を用意していました。
 
「店のもんが客に売らんと、ポッケナイナイして、他所で高く売っとるんちゃうんか?」
 
 スタッフの子達が、持っているのを誰かに咎められ、そんな文句を言われた時のため、
バイト休んでお客様として ちゃんと並んで買ったんや!
との建前を徹底していました。
 
 『たまごっち』を販売する日は、平日を選んでいました。
 前日までにお客様の並ぶ列の案内POP等を用意、当日は店のシャッターを早朝に開け、什器も開店できるよう準備しておいて、店内照明だけ消したまま、スタッフは全員事務所に待機、開店1分前に円陣を組み、
 
『たまごっち、オー』と、今で言うワンチーム。(もう古い?)
 
 
店内の照明を付け、各々持ち場に駈け足で散ります。
 様子を伺いに来ている、他のテナントの方が電話でどこかへ連絡をしているのが目に入ります。
 
 
あっという間に、20人位列ができます。
 
一番後ろには『最後尾』の札をもった、スタッフで一番背の高い男の子を。
お一人様一つです!こちらからお並びください!
と叫びながら、人数のカウントが彼の重要な役目。
 
 
 ボクは、レジの先頭付近の、お客様の列が見渡せる位置。
 
 列が並び出すと、並んでいるお客様を無視して平気でレジ出口側からやってくる確信犯のお客様。
 
あちらからお並びください と、注意すると、
「並ぶん、こっちからでも、ええんちゃうん?
 ちゃんと書いといてくれな、わからへんわぁ 」
 
店内には、くどいぐらい案内が張ってあります。
 
 
 並んでいる列に知り合いを見つけて、友達割り込みするお客様。
注意すると、「こいつ、連れやねんけど」
こういうお客様も想定内、最後尾に回っていただきます。
 
 最後尾から予定販売個数の20個前位の合図が来ると、少し位残るのはかまわない、最後尾迄走って、キリのいいところ、タイミングを見計らって、
 
お客様、あなたが最後です! よかったですね!
 
そして、最後尾の札をペロンとめくって『完売』に。
 
 本日の販売は終了いたしました!
と、なるのでした。
 
 確か、ドラクエⅢの時だったと思いますが、有名なソフトは平日発売だと学校をサボる子が出るので、日曜祝日にと、行政から指導が出るようになりました。
 そのせいかどうか、新しい『天使のたまごっち』バージョンは、発売日はお休みの日で全国的に告知されました。
 
 ショッピングセンターがオープンする前から並ぶ事は 当然予想されるので、ショッピングセンターと相談し、店に一番近い出入口前に並んでもらう案内を店内に限らず ショッピングセンターの掲示板にも載せて、整理券も用意して、朝の5時からご案内。
 整理券を渡して解散すると、整理券を売るやつも現れるので、整理券は配るけれど列はそのまま、トイレの時だけボクが見張ります。
 
 
 全国的な発売で、普段販売できてない玩具店にも 『天使のたまごっち』は回っていたようで、分散したのか、開店を迎えて列をそのままお店に案内してもまだ少し販売予定数が残せて、開店後も、店で20分ほど販売してから、無事に終了できたのでした。
 
 
 
 一息ついていると、苦情の電話が。
 
 「子どもが開店前に並んだのに、売切と言われおった!」
 
 そのショッピングセンターには、百貨店があり、まがりなりにも小さな玩具コーナーがありました。
 でも、『たまごっち』の販売は、めったにありませんでした。
 事前の確認では、『天使のたまごっち』は百貨店にも入荷するけれど、その日には売らない(たぶん店頭で売らずに外商に回るのでしょう)返事なので、百貨店の方に間違って行った訳ではないようです。
 
 話をしているうちに、口調に聞き覚えあり、以前の
「あんたんとこでなんか、もう、買わへんわっ!」
の捨て台詞、同一人物と気が付きました。
 
 当店は開店してからも20分ほど販売しておりました。
お子様はお店を間違えられたのでは、ありませんか?
 
と強い口調で伝えると、その方は黙ったまま、一方的に 電話を切ってしまいました。
 
 あの頃、しょっちゅうウソをついていたのは、ボクだけでは  なかったようです。
 
☆ ☆ ☆
 
『たまごっち』ブームは、約2年ほど続きました。
 
 ボクは、発売から一年ちょっと経った春に転勤、仙台市内の雑貨店店長になりました。
 その雑貨店でも『たまごっち』を、販売いたしました。
 
 カルチャーショックでした。
仙台のお客様は、こちらが『並んで下さい!』なんて叫ばなくても、勝手に、ちゃんと、おとなしく、行儀よく並んでくれるんです。 
 
 同じ、日本なのに…
 
☆ ☆ ☆
 
『たまごっち』発売時に玩具屋の店長だった。 
履歴書に特注で書きたいくらい、高度なスキルだと自負しています。

 ましてや、大阪で。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?