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【介護と家族】これから私にできること

今回は、脳梗塞で半身麻痺になった父を迎える準備をした中でふと思った、これからの暮らしについての話。リビングの模様替えをしながら、これからの未知の暮らしと私ができることについて、ちょっと想いを馳せてみる。

母からの連絡

始まりはまた一通のLINEだった。

母「ちょっとお願いがあるんだけど、時間のある週末に家具の移動の手伝いに来てもらえませんか?」

よくよく聞くと、要介護2の父のために家具類を固定するらしく、大きいものを搬出するならその工事までに完了しないといけないらしい。母が捨てると決めた黒い棚は、私や妹の結婚式や亡くなった祖父母の写真が飾ってあるお気に入りの棚だった。

一番移動させたいその棚は、古いし重いし、裏面の配線がぐちゃぐちゃなのも知っている。私だけでは到底一日では終わりそうにないものだから、主人にも協力をしてもらうことにした。

父のいない子連れ外食

作業の前日、突然の思い付きで母を誘って焼肉屋さんに行くことにした。コロナ事情で妻ですら夫に会えないリハビリ施設に、毎日洗濯物を送り届けたり事務処理に追われる母。何気なく「お母さんも行く?」と誘うと、いつもは遠慮しがちな母は珍しく「うん!いいの!?行く行く!」と乗り気。

他愛ない話をしつつ、久しぶりの外食と生ビールで楽しく時間は進んでいった。まあ、私は運転手なのでノンアルだがいつものことなので気にはしない。1歳の娘が猛烈な勢いで海苔をほおばり、3歳の息子は焼き肉店の雰囲気や香りに終始ワクワクとしていて、あっという間の2時間だった。

母は思い切り楽しんでいた。その姿をあと何回見れるんだろうって、私は考えずにはいられなかった。あと1-2か月で、父が実家に帰ってくる。半身麻痺の父は、一人でトイレに行くこともやっと。しかも糖尿病も併発。食べることが大好きなものだから、目を離そうものなら冷蔵庫をあさりそうな性格なのである。多分、母はずっと気になってしまって家にこもるだろうと思うと、悔しい気持ちがどうしても私は勝ってしまうのである。

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主人の背中

翌日、リビングの家具を移動するために主人と一緒に実家に向かった。実家では母があらかた古い楽譜や書類を整理していて、棚の中はがらんとしている。お気に入りの写真たちは、別の場所に飾ってあったので私は少しだけほっとした。

まずは問題の家具を移動することになったのだけど、ここで母があっさり棚を捨てようと決めた理由が判明した。底が抜けかけていたのである。おそらく40年近くはお世話になったそのガラス扉の棚に、私も潔く別れを告げるしかなかった。

棚を玄関の外に出し、さていよいよ難関のぐちゃぐちゃの配線を整理しなければならなくなった。主人も、「ああ…」と少し呟いて苦笑した。おおざっぱな父の13年前の努力の結晶である。思いつくままに束ねたのだろう。そのままでは動かせないほど、複数の線がもつれまくっていた。きれいに束ねようとした努力の跡は見えるのだけど、どうにも雑である。

主人は一つ一つ、丁寧にほぐしていった。別に実の親でもないのに、1時間以上かけて少しずつ配線の謎を解いていく。捨てた棚の位置にテレビを置くことを想定していた母の気持ちも、しっかり優しく汲み取っていた。最終的には驚くほどすっきりと家具の移動が収まり、なんなら配線も見違えるほど美しくなっていた。

主人の丁寧な作業を見ながら、なんとなく、あぁ、この人と結婚してよかったなぁとふと思った。そんなに大きくはない背中が、頼もしく見えた気がしたのである。一つの文句も言わず、完了した後も何か誇らしげになるでもない。まるで自分ごととして、これから動けない父がこの家に戻ることを一緒に受け止めてくれている気がしたのかもしれない。

家具の移動後の食卓は実に賑やかになった。母は主人の大好物のイチゴと手作りのチョコチップクッキーを用意してくれていた。母も何も言わないけれど、ささやかな主人への感謝の気持ちにと準備していたのだろう。父はいないけど、久しぶりに心の底から全員が笑顔はじけるランチになった。

これから私にできること

正直なところ、私はまだ何ができるかはわからない。孫の姿を見せる以上のすごい技は思い浮かばないのである。だけどそれ以上に、母はきっと悔しいだろうという母の立場への想いが強い。

「せっかくあと少し、思い切り遊ぼうと思っていたのにコロナで友人とランチもできない」と母は以前ぼやいていた。悲しそうな顔だった。自由奔放で自業自得な父の尻ぬぐいですべての我慢を強いられるのも、あと何年続くかわからない介護生活を覚悟しなければならないのも、まだ60歳の母である。

でも、母の気持ちは母にしかわからない。娘の私はただただ想像するしかないわけで、それもまたもどかしい。

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これから私にできること。正解はないと思いつつ、実の娘はもしかしたら無力かもしれない。提供できるのは、おっちょこちょいな子育て話や孫との時間くらいかな。主人の背中がやっぱりたくましく見える。実は密かに、主人の存在が母の心の支えになるかもしれないな。

主人が笑顔になれるように、私は私の家族の笑顔を育てていこう。

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