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Navigating The Art World内容紹介その6:ギャラリー論

 少し間が空きましたが、6回目。今回はギャラリー論です。前半ではSNS時代のギャラリーとは何かをデルフィアンが考察しています。後半では、いかにしてアーティストがギャラリーに発見されるのかを論じています。


How Do You Select Artists for Exhibition?

 ここでは展覧会に呼ぶアーティストをどうやって見つけたり選んだりしているのか、ギャラリストたちにざっくばらんに聞いた答えが並んでいます。順不同で

  • 新しいものの見方、考え方、発想、素材、手法の提案がある人

  • アーティストやキュレーターからの推薦

  • 展覧会(アートスクールの学内展含む)

  • SNS

  • まずは自分が気に入る作品であること

  • 無理に新しい人を開拓しようとはしていない

  • 見た瞬間に新しいと感じる作品

 どれも、よく言われているものですよね。業界仲間から「あいつ良いよ」って紹介される。よその展覧会で発掘する。SNSで見つける。だいたいこの三つ。

 で、アンテナにひっかかるものは「これ好き!」ってなるやつか、「これ新しい!」ってなるやつ。この二つ。じゃあ何が新しかったら新しいのか(同語反復)については、よく現代アートについて言われる「視点や切り口の新しさ」以外にも、目新しい素材や目新しい技法というものが挙げられています。

 これ案外盲点かもしれないですね。

 伝統的な画布にアクリルや油絵具、というのを敢えて外してみる。

 それだけでも「おっ?」と思わせる効果はあります。

 その「意外な素材」が自分のアーティストステートメントと上手く結合していると、ああなるほど感が出る。わかりやすい例ですと、北米先住民の画家が昔の家計簿をわざわざ買い付けて、そのページに絵を描いてますよね。あれはレッジャー・アートという北米先住民の19世紀のクレオール文化を参照しているわけで、コンセプト的にも北米先住民のアイデンティティを打ち出していくならスッと芯が通るし、見た瞬間に「なんだこれ?」と思わせることが出来る。

 あるいはちょっと前にやってた「おかんアート」という展覧会がありましたけども、いわゆる手芸ですね。トーカイやユザワヤで手に入るような手芸用品。あれをアート作品に用いることで、日本の近現代の女性史という文脈を取り込むことが出来る。

 そういうことを言っているんじゃないかなと思います。

 素材や技法の新しさから攻める。一つの戦略オプションとして留意しておくと良いのではないでしょうか。

The Role of the Gallery in the post-social-media world

 この章では、これだけSNSが発達した時代にはギャラリーの立ち位置も変わらざるを得ないという議論が行われています。昔みたいにギャラリーだけがアーティストと顧客の接点の時代ではないぞと。これはもうアートだけではなくて、小売業は全般的にそうなりましたよね。D2C(ダイレクトトゥコンシューマー)ビジネスの勃興。メーカーや小売業がウェブマーケティングやソーシャルマーケティングに力を入れる時代。

 これをアートの世界に当てはめて言えば、アーティストは自力で直接ファンを開拓して作品を直売することが出来る時代であるし、コレクターは今までのようにギャラリーに忠誠を示さなくてもアート作品を収集することが出来る。ギャラリストに「このアーティストはおすすめです」「この作品は値打ちもんです」と保証してもらわなくても、ネットで調べりゃあだいたいのことはわかる。なんならSNSで見つけた無名アーティストの作品を青田買いしちゃうことだって、そんな難しくない。

 そういう時代になってしまった。

 で、この本を書いたデルフィアンというのもギャラリストです。アーティストであり、キュレーターであるけれども、ギャラリーとしての活動も展開する。自分たちはこんな時代にどうやってギャラリーをやっていくのか。

 話はそこへと進んでいきます。

 彼らの戦略は、より「協働的」なアプローチを取るというもの。

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