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世にも奇妙でない物語。

つーっと涙が流れるのを感じながら思った。

これ、キムタクのやつだ。



顧客満足度向上

多分どこの会社でも聞く話。私の勤め先も例外ではない。「CS向上施策」について話し合う機会も多々。

が、最近加えて打ち出されるようになった。

従業員満足度向上

Customerだけではなく、Employeeの満足度あってこそ。

勤め先にも、この波がやってきた。

そして、開催された「ES向上施策を考える会」。

序盤から私には苦行だった。

「では、皆さんの『働く喜び』について順に発表して共有しましょう。」

ハタラクヨロコビ…?

私の日々は定型業務を繰り返すこと。
かなり余力を残して仕事してる。
だから突発的な休みも取りやすい。
乳幼児を育てている上で、この環境はありがたい。

でも、働く喜びとか、やりがいとかそんなのはない、もっとチャレンジもしてみたい。

ES向上施策を考える会は、「働く喜び」なんてないことを直視する会だった、私にとって。

会はオンラインで、ビデオオフ。

とりあえず、それらしい「働く喜び」を語って、マイクオフしたら、涙が出てきた。

うわ、私泣いてる…

そして、冒頭。

フジテレビの「世にも奇妙な物語」で、強烈に印象に残っている作品がある。それが、キムタクこと、木村拓哉主演の「言葉のない部屋」。

何が強烈かと言えば2つ。
一つは、そのストーリーが暗くあまりに哀しいこと。
そして、もう一つは、あのキムタクが、完全に東北訛りの冴えない青年として登場していたこと。

以下、あらすじを公式サイトから引用。

 町工場で働く新田保(木村拓哉)は、職場でもほとんど話さず、友達も一人もいないという寂しい若者だった。同じ工場で働く工藤(小林昭二)は、保のこつこつと働く姿に好感を持ち、よく声をかけていた。ある日、質流れのテープレコーダーを買った保は、自分の声を録音する楽しみを知る。そうして自分の声を吹き込んで会話を楽しんでいると…。

フジテレビ 世にも奇妙な物語
 「言葉のない部屋」あらすじ

その後の展開が哀しい。
ネタバレすると、彼はある日、自分のことをテープに吹き込もうとする。「仕事は楽しい、友人はたくさんできた、東京に来てよかった」そう話したはずなのに、レコーダーを再生すると、真逆の話をする彼の声が再生される。「仕事が辛い、友人はできない、故郷に帰りたい」あまりに悲痛な声だったから、今も胸に刺さっている。そして、その後…。

現実に反する理想を語った。
私も、あの青年も。

そうすると、痛いほど現実と理想との距離を思い知らされる。
自分の声で語られた、事実と反する理想を聞くと、自分の中から「違う、そうじゃない」が強く跳ね返ってくる。

「違う、働きがいなんてない、苦しい」

頭の中に反響する思いに足を取られて、私はすっかり苦しくなってしまった。

そして、あのドラマ内で、キムタク青年がレコーダーから流れる声を聞いて狼狽える様子がすぐに思い出された。今、あの物語が身に染みる。

私にはレコーダーはないけど、確かに自分の苦しい声が聞こえた気がする。そして、胸のつぶれる思いだった。

あの物語は、奇妙な物語じゃない。


さて、キムタクに気持ちを持っていかれすぎた。

私、業務内容に少し不満を抱えているだけ。生活全体に対して絶望しているわけじゃない。

しかも、会社が従業員満足度を上げようとしているなら、その波に乗ったほうがいい。

最後にひとさじ、会議の中で本音を混ぜた。
相手はレコーダーじゃない、ちゃんと誰かの声が返ってきた。
私にとって、ただの苦行では終わらなかった。
満足度上げていけるよう、少しは動こう。

…しかし、最初に働く喜び語らせるのは、どうかな?とは思う。




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