見出し画像

【小説】アラサー公務員と仕事サボりのプロ・第2話【フィクション】

前回のお話はこちら

「いやいやいやいや。おかしいでしょ。佐藤さんそれ本気で言ってるんですか?」
「本気だよ」
「いや本気だよって。あの、公務員の給与は市民の税金からでてるんですよ? それなのにサボっていいわけないじゃないですか!」
「そうかな?」
「そうです!」
「でも仕事をサボってもサボらなくても給与は変わらないんだよ?」
「いや、そういう問題じゃなくて。ぼくたちの給与は市民の皆さんの税金だし、公務員は仕事中にサボってたら市民からクレームがくるじゃないですか? この前も市民から通報があったばっかでしょ?」
「それはそいつのサボり方が下手だっただけだよ」
「はぁ????!!!!」
こいつには日本語が通じないのか? 鈴木は心の中でそう思った。


「鈴木君はいつもリアクションが大きくていいね。芸人さんとしゃべってるみたいで楽しいよ」
佐藤がケラケラと笑いながら、また美味そうにビールを一口飲んだ。
「じゃあ逆に聞きたいんだけどさ、鈴木君は俺にどうしてほしいの?」
「それこそ、今日僕が佐藤さんを誘った理由です。もしこのアカウントが佐藤さんなら、即刻、このアカウントを削除していただきたい」
「なんで?」
「だ・か・ら! こんなこと公務員がやるべきじゃないからです!!」
「そうかな?」
「そうです! なんで分からないんですか!!!!!!!」
鈴木は、興奮とアルコールで顔全体を真っ赤にしながら佐藤を怒鳴った。
鈴木の声は居酒屋中に響き渡り、そこにいた客たちが一斉に鈴木に注目した。
それに気づいた鈴木は、小さい声で“すいません”と周囲に謝りながら肩身を小さくした。


「じゃあ逆に聞きたいんだけどさ。俺がこのアカウントをやってるせいで、うちの市役所になんか迷惑かけたかな?」
「……は?」
「だから、俺は自分のプライベートの時間に、俺がやりたくてこのアカウントで色んなことをつぶやいてるわけ。それで、誰かからうちの市役所にクレームがきたり、うちの職員に迷惑かけたりしたかな?」
「いや、それは……」
「でしょ? 確かに鈴木君はこのアカウントのつぶやきを見て『もしかして佐藤さんかな?』って思ったんだろうけど、それは俺と鈴木君がもともと仲が良かったからじゃない? 俺もちゃんと気を使いながらつぶやいてるし、そうそう知り合いに迷惑をかけるようなことにはならないと思うけど」
「でも……」


そのとき、佐藤が突然、あっと何かに気づいたような顔をした。
その後、ニヤニヤとした表情に変えながら鈴木にしゃべりかける。
「っていうかさ、鈴木君はどうやって俺のアカウント見つけたの? もしかして『仕事 サボり方』とかで検索したんじゃないの?」
「あ……」
図星だった。
鈴木は最近、仕事がツラい。
なので毎晩のようにSNSで他人の仕事のグチや上司の悪口を見て気分を紛らわしたり、時には『仕事 サボり方』で検索するようになっていた。


「仕事、ツラいみたいだね。鈴木君もちょっとは仕事サボったほうがいいんじゃない?」
「いや、でも…… 僕がサボったらみんなに迷惑かかるし……」
「う~ん…… その考え方がよくないんだよね。俺はちょいちょいサボった方が逆にみんなのためになると思うけど」
「は?」
「だって職場にとってもさ、真面目に毎日仕事を頑張りつづけてある日突然メンタルダウンしてしまう職員より、ちょいちょいサボりながらでもずっと働き続ける職員の方が、絶対にありがたいじゃない」
「う~ん…… まぁ……」
「鈴木君は人事課なんだから、メンタルダウンする職員のことは僕より詳しいだろうけど(笑)」
佐藤が冗談まじりに話す。
「ところでさ。鈴木君はメンタルダウンして休んじゃうような職員のこと、どう思ってる?」
「えっと…… どういう意味ですか?」
「だからさ。よく飲みの席だと話題になるじゃない。どこどこの誰々がうつ病で休んだ~とか。で、みんなでその人の悪口を肴にお酒を飲むっていう……」
「それ、人事課の僕に聞きますか?」
「まぁまぁ。今は所属部署のこととか忘れて。俺と二人しかいないんだから。俺と鈴木君の仲だし、本当のところを教えてよ」
「そりゃ僕だっておかしいとは思いますよ。僕はこんなに毎日苦しみながら仕事してるのに、休みながら給与をもらってる人がいるんですから。でも相手は病気なんだし、しょうがないと思いますし……」
「そうそれ! 鈴木君はさ、メンタルで休んでる人って本当に病気なんだと思う?」
「は?!?! あなたはなんてこと言うんですか!!! 病気に決まってるでしょ!!! 彼らは本当に苦しんでるんですよ!?!?」
「そうだね。彼らは本当に苦しんでいるんだと思う。でもさ、それって病気なのかな?」
「??? 質問の意味がわかりません」
「ん~ じゃあ質問を変えよう。彼らはなぜメンタルの病気になったんだろう?」
「そりゃ、仕事が大変だったからとか、そういうのだと思いますけど」
「仕事のせい?」
「そうですね」
「じゃあなんで公務災害にならないの?」
「え?」
「たとえばさ、仕事で作業しててケガしたとするじゃない。そしたらさ、公務災害に認定されて職場から保険がおりるじゃない? なんでメンタルだと保険がおりないの?」
「メ、メンタルでも公務災害となる事例はあります! ただ、ちょっと認定が難しかったりするから……」
「そうなんだよね。俺も前に調べたことがあるんだけど、仕事”だけ”の強いストレスで精神を病んでしまった場合じゃないと公務災害にはならないんだってね。しかも、誰もがその仕事をしたとしても『そりゃ病気になるわ』っていうような状況じゃないとダメで、さらにそれを客観的に証明するような証拠がなくちゃいけない」
「そうです。だから難しいんです」
「じゃあ今苦しんでいる彼らは、公務災害ではないけど、仕事のせいで病気になったってこと?」
「……何が言いたいんですか?」
「俺が思うになんだけど、メンタルで仕事を休むのって、究極の仕事サボりだと思うんだよね」
「はぁ???」
「だからさ、俺は彼らが本当にうらやましいんだよ」
「あんたは何を言ってるんだ?!?!?! 彼らの苦しみはウソだっていうのか!!!!!」
「いやそういう訳じゃなくて、俺も彼らは本当に苦しんでいるんだと思うんだよ。でもその苦しみはさ、仕事をサボるために自分でこしらえた苦しみだと思ってるんだ」
「あんたおかしいよ!!! 言ってることがメチャクチャだ!!!」
「ん~ まぁこの場にいない人のことについて議論するのは良くないからね。このままだと話は平行線になりそうだし、違う話をしようか。」
「えぇ?! ま、まぁ、別にいいですけど……」


【続きは明日公開します】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?