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心の中の葛藤、そして一つの家族に


喜ばしい事のはずが、何故か心が晴れない

今回の話は、今の妻と結婚する前の話。

2人で結婚を決めてから、数回彼女の実家に足を運んだ。いい歳でもあった妻は彼女の両親からすれば、娘が早く結婚して子供産んでくれという中国農村の当たり前のような価値観だった為、突如私という存在が現れたことにより、娘が「結婚」するんだ!と大変喜び、義父に関しては私を「息子」と呼び一緒にお酒を飲んではいつも先に寝落ちしていた(義父は酒が弱い・笑)よっぽど嬉しかったのであろう。いつも寝落ちした後、私がベッドまで運んでいくのだが、とても幸せそうな顔をしていた。

ただ、私の心の中は、常にもやもやして悩んでいた。そう、彼女は初婚であったが、私はバツイチ。しかも、息子が2人いる身である。その「身分」を妻が「開示」することを拒み、時はいたずらに流れていった。

そうこうする内に、結婚手続きを行う日が刻々と近づいてきていた。丁度手続きを行う1か月ほど前、国慶節休みで妻の実家に帰ることになった。私はこの身分の開示を出来ていない状況に、非常に焦燥感を募らせていた。私の性格上、本当のことを相手の両親に伝えず先に結婚登記を済ませてしまうという行為は、詐欺行為であり、私にとってはとても受け入れがたいものだったからだ。

とはいうものの、妻から「この事は結婚手続きが終わるまで話ししないからね。お父さんがこのことを知ったら、メンツに拘るあの人のことだから、絶対反対されるから。」ときつく言われていたので、こちらとしては何も出来ない状況。

いよいよ明日上海に帰るとなった日、私はこの状況に耐えられなくなり、妻に「やっぱりちゃんとお父さんお母さんに話しよう。こんな形で騙した上で結婚手続きすることなんてできない。」と申し出た。妻からは猛反論を食らい結局言い出せなくなってしまった。

(あああ、俺は人間としてこんな最低なことはしたくない…義父母を騙すくらいなら結婚しない方がいい……)

何とも言い難い感情を抱え込んだまま私はシャワーを浴びることとした。

事態は思わぬ方向へ…

シャワーを浴び終わり、リビングに行くと妻と義母が喋っており、義母が私のことを鋭い目つきで睨んでくるではないか…うん?何があった??もしかして……??

「お母さんにあなたの状況伝えたから」

と妻が言い出したので、心の準備が出来ていない私は頭の中が混乱してしまい、激しく動揺した。何故、今、このタイミングで??と。

とは言え、少し肩の荷が下りたのも事実。義母にいきさつをしっかりと説明した。義母は、「そういうことだったのね、もっと早く言ってくれればいいのに。うちの娘ったらちゃんと話してくれないから…私はあなた達が幸せであればそれでいいから反対なんかしないわよ。あなたの息子二人にも早く会いたいわ」と言ってくれ、私は熱いものがこみあげてくるのを感じた

義母への説明は終わった。残るは最大の難関、義父へと筋を通さなければならない。義父が帰ってくるまでの間、私達3人はものすごい緊張感に包まれ、殆ど会話をすることもなく時が過ぎるのを待った。

2時間は過ぎただろうか……突如「ガチャッ」とドアが開き、とうとう義父が帰宅した。私が義父に声をかけようとするのを妻が制止し、「お父さん、大事なお話があるの」と妻が義父へ話をし始めた。私の心臓はもうすでにものすごいスピードでバクバクしており破裂しそうだった。

妻が説明している間私は祈るような気持ちと義父への懺悔と、複雑な感情が入り混じった状態で話を傍で聞いていた。この時間はまるで数時間のように長く感じた。そして、冷や汗が止まらなかった。義父がやっと口を開き始めたのを目にした私は「ああ、ほんとにごめんなさい…」と土下座の態勢に入ろうとしたのであった…

その瞬間、ぎゅっと義父に抱きしめられてしまった。状況が理解できず、困惑する私。ふと、義父を見ると義父が涙を流している…何が何だか分からなかった。義父は私の両肩を手で掴んだまま話し始めた。

「息子よ、申し訳なかった。うちの娘がこんなにお前に辛い思いをさせていたとは知らなかった…娘が選んだ男だ、間違いがあるわけがない。結婚に反対なんかするもんか。気性は多少荒いところはあるが、根は優しくて家族思いの子だ。バツイチがなんだ、子供がいようがなんだ。我々は既に家族だ。お前は私の息子だ、お前の息子達も私の可愛い孫達なんだ。お前は本当に心の優しい男だ、我々を騙したくない一心だったのに娘がそれをさせなかった。もちろん娘は我々のことを気遣ってのことだからそれも理解できる。今の世の中、お前みたいに心の綺麗な男は珍しい、うちの娘を選んでくれて本当にありがとう。」

義父は言い終わるや否また私をぎゅっとハグしてくれた。私は涙が止まらず感謝の言葉すら口に出来ない程嗚咽した。私は急に全身から力が抜けて動けなくなった。

すると今度は妻に抱きつかれ「あなた、あなたを苦しめてごめんなさい。私が馬鹿だった。もっと早く素直に両親に伝えておけば良かったのに…うわあああああん!」と今度は妻が号泣しだして、更に困惑する私。(いや、お前散々俺が身分開示するの拒否っとったやんw

その日から、私達は、本当の意味で一つの家族となったのであった。

義父母の大空のように広い心で私というちっぽけな人間を優しく包み込んでくれ、大事な家族の一員として迎えてくれたこと、これは一生忘れることはないし、ますます妻を大事にしようと決意を新たにするのであった。


お父さんお母さん、ありがとう。あなたの息子として受け入れられたこと本当に光栄です。娘さんは私が死ぬまで絶対に大事にします。


おわり



追記:今月コロナ後初めて帰省することになった。この当時の思い出と感謝を忘れない為にも、この記事を書かせて頂いた。

結婚登記の時の話はこちらをどうぞ。


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