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『廻る椅子』作家インタビュー 上田千尋さん(前編)

9月13日(月)から5週連続公開がスタートしている演劇集団ふらっとのYouTubeラジオドラマ『廻る椅子〜出会った椅子は、あなたの椅子でした。〜』は、4人の作家による書き下ろし作品で構成されています。

今回は、その第一話「カレイドスコープの景色」の作者である、上田千尋さんへのインタビューの前編です。本作品に関わった感想や作品の背景について語ってくださっています。これを読んで作品を聴くと、また味わい深いですよ〜。

作家プロフィール
上田千尋(うえだ・ちひろ)
作家、フリーライター。集英社みらい文庫にて児童書「ユウレイ探偵事件簿」を執筆。ラウドゲート社ラノベ式オンラインゲーム「エリュシオン」にてシナリオライター及びシナリオディレクターを務める。出産を機に休業後、現在は子育ての傍ら各種ライター活動をしつつ作品を執筆。
ラジオドラマの脚本は今回が初めて。文章を声が彩る魅力に、ワクワクしている。

「カレイドスコープの景色」を書いて

ーー今回初めてラジオドラマの脚本をやってみて、いかがでしたか?
普段は自分の頭の中で考えたことだけが作品になっていきますけど、今回は自分の作品を他の人が読んで作品にしてくれたことがとても新鮮でした。演出や演者の方が、いい意味で自分とは少し違った解釈やイメージでやってくれたので、そこが面白かったですね。

ーー例えば、どんなところがイメージと違ったのでしょうか?
大きく違うところはありませんでした。でも、三浦雨々さんが演じてくださった「お姉さん」は、もともと私の中ではもう少し静かな女性なのかなというイメージだったのですが、実際の雨々さんの演技では、思っていたよりも少し明るい、活発な雰囲気の女性になっていて、「ああ、そういうのも良いなあ」と思いました。それから、横山義弘くんが演じてくれた「少年」は、自分が書いた台本だと、年齢の割には上手にしゃべる少し大人びた感じで書いてしまったのですが、横山くんがいい意味で子どもっぽいしゃべりで演じてくれたのは良かったんじゃないかなと思います。

ーー今回全ての作品が、出演する役者に合わせて脚本を書く、いわゆる「あてがき」になっています。「あてがき」はどんな風に考えていかれましたか?
そうですね…「あてがき」というのがどう言うやり方なのかわからなかったのですが、お話を聞かせてもらった二人のイメージをそのままキャラクターや小説全体の雰囲気に合わせて書きました。二人ともあまり動きがすごくあるようなイメージではなかったので、どちらかというと、穏やかな中で、でも、何かが少しずつ変わっていくようなそういった雰囲気を出したいというのを、物語の中に落とし込んだっていう感じです。普段は割と物語が大きく動く方向で書くことの方が多いんですけど、二人だと劇的な変化がある物語よりは、そういうものの方が愛らしいのかなという印象で書きました。

ーーなるほど…。私は、大人である「お姉さん」の、生きていく中での切なさみたいなものにもすごく共感しました。
(笑)。私も年齢的に雨々さんと同世代で、若い時のような前ばかりを見ていくような人生ではなくなってきている年齢に達しているので、そのへんを出してあげたいと思ったんです。でも決してそれはマイナスではなくて。いろんなものを抱えながらも少しずつ生きていくことの楽しさみたいなものを、雨々さんの役には入れたいなというのがありました。

ーー今回参加して面白かったことが他にもありますか?
自分の書いた作品に対して色んな人があーだこーだと意見を交わしていること自体がすごく新鮮なんですよ、私のような物書きからすると。直接作品の感想を聞く機会があまりない仕事なので。こういう風に詳しく、「このセリフはこう言う気持ちで言ったんじゃないか」とか、細かい解釈を自分の目の前で語ってもらえるのはすごく貴重で、嬉しかったですね。

ーーなるほど。私たち役者は、演じるにあたって作品やセリフの背景をすごく読み込もうとするのですが、作家さん自身はそうした背景を細かく想定して意識的に書いているわけではないのでしょうか?
作家さんにもよるのでしょうけれども、私自身はあまり自分の中で「これはこうだ」と決めるのは好きじゃなくて、読んだ人に解釈を委ねたいっていうところが多いタイプの書き手なので、シーンの捉えられ方を知ることができる機会はすごく有難いなと思いました。嬉しかったですね。多分自分の中では細かい設定があるんですけど、それをしっかり考えて書いているかというと、そうではなく、感覚で書いてしまうことがあるので。それを逆に演者さんとか、演出家の方が言語化してくれたことで、「ああそうか、それはそういうことだったのか」と自分でも気付いたりすることがあったりしました(笑)。

ーーへ〜!それは興味深いです。ところで、なぜ舞台を雑貨屋にしたんですか?
そういう舞台設定は浮かんできたものをなんとなく感覚で書いていることが多いので、理屈で考えたわけではないです。いろんなタイプの作家さんがいますが、私は自分の頭の中のイメージを文章化するというタイプで、最初に浮かんだイメージが雑貨屋だったので、そのまま書き起こしたんだと思います。

――行ってみたくなりましたよ、その雑貨屋に。一つ気になったのは、後半急に出てくる「東欧をイメージさせるオブジェ」。これはどこから着想を得たんですか?
物語に「少年」のご両親は登場しないんですけど、私の中では「少年」のご両親は割と色んなところから自分の気に入ったものを集めてくるイメージで書いていたので。東欧ってあまり一般的ではないじゃないですか。でも、この椅子を気に入ってあの場所に置いているご両親なら、なんだか珍しいあんまり他ではないようなものも「これいいな」と思ったら急に買って来て、あそこに置くんじゃないかなと思って。そういう感覚で書いたので、実は具体的なものを想定して書いたわけではないです。パッと出てきたのが東欧だったんです(笑)。ただ、行ってみたいという願望はある気がして、旅をするならあっちの方っていう気持ちは出ていたと思います。海外に行くのは好きで、東南アジアとかオーストラリアとかそのへんは結構行ったんですけど、東欧って遠いので、まだ行く機会がなくて。いつか行ってみたい、旅するならあのへんという無意識の感覚が出たのかなと(笑)。

――なるほど。それから、タイトルの「カレイドスコープ」というのは「万華鏡」のことだと思いますが、どんな意味を込められたのでしょうか?
子どもが見ている景色っていうのは、本当に万華鏡のようにくるくる変わっているんじゃないかっていうのを、自分の息子を見ていてすごく感じていて。同じものでも、今日見たものを明日見ても同じように感じるかっていうと、そうではなくて。子どもって本当に一日ごとに変わっていくんですよね、物の見え方がどんどんどんどん。大人から見るとあんまり変わってないのに、子どもから見るとすごく景色が変わっているという。そういうくるくる変わっていく変化を「万華鏡」に見立てました。外からはわからなくても、当事者の中で色んなことがくるくる変わっていく人生の面白さみたいなものをタイトルに込めました。

――とても豊かな世界観ですね。それを聞いて物語を聞くと、より楽しめる気がします。
あと、これは余談ですが、タイトルのおしゃれ感も大事なので、「万華鏡」ではなく「カレイドスコープ」にしました(笑)。タイトルだけで読まれるか読まれないかが決まることが小説でもあるので、動画でもあるかなあと思って。

――たしかに(笑)!それも大事な要素ですね。

続きは後編で!
上田千尋さん作品のご視聴はこちらから▼
『廻る椅子』第一話「カレイドスコープの景色」
https://youtu.be/-vd0UHwKbcc

インタビュー:2021年9月5日 Zoomにて
聞き手:竹峰幸美、キャサリン

(記事に掲載している写真は上田さんが趣味で育てている植物です。)


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