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Fate/Revenge 6. 聖杯戦争二日目・夜-①──キャスター参戦
二次創作で書いた第三次聖杯戦争ものです。イラストは大清水さち。
※執筆したのは2011~12年。FGO配信前です。
※参照しているのは『Fate/Zero』『Fate/Staynight(アニメ版)』のみです。
※原作と共通で登場するのはアルトリア、ギルガメッシュ、言峰璃正、間桐臓硯(ゾォルゲン・マキリ)です。
※FGOに登場するエンキドゥとメフィストフェレスも出ますが、FGOとは法具なども含めて全く違うので御注意下さい。
6.聖杯戦争二日目・夜──キャスター参戦
「騎士様っ!」
エヴァは娼婦宿の極上のベッドの中で目を覚ました。あわてて毛布をかき合わせて胸元を隠す。彼女は騎士の姿が見えないことにパニックを起こした。
「騎士様、わたくしの騎士よ、今すぐ現れなさい!」
すると部屋の真ん中にすうっと見上げるほどに長身の騎士が現れた。長い黒髪を背に垂らし、赤銅色の鎧をまとい、薔薇色のマントを翻す。それは白鳥の騎士ローエングリンに他ならなかった。
すぐにエヴァはあられもない格好で騎士に寄り添った。
「おお、わたくしの騎士よ。何も出来ず、何も考えることの出来ないわたくしを一人にしないで下さりませ」
「出掛けなければならないようです。エルザよ」
騎士が窓を指差すと、そこには早、夜があった。宵闇に落ちる伯林の街はぽつんぽつんとガス灯の火が灯り、急速に暗くなっていた。
エヴァは気づくと鏡の前に座り、念入りに化粧をはじめた。
騎士は窓辺に立つ。彼の黒い眼差しは遠く郊外を見つめていた。
「昨夜、剣を交わしたセイバーは何処におるものか判らぬが、私を呼ぶ者がある」
「それは妖女の呼び声ですわ、わたくしの騎士よ」
「私はあれを撃破せねばならぬ。そのために招かれたのだからな」
「わたくしの無実を御証明くださりませ。わたくしは弟を殺したりなどいたしておりませぬ」
エヴァの話すことは、すでに自らの身の上から完全に逸脱していた。彼女には姉も妹もあったが、弟はいない。ましてや犯罪の疑いなどかかってさえいない。彼女は自分の意志で今の立場を手に入れたのだ。何も考えられない女ではない。
だが今、エヴァの中で、自分は哀れで無力な女に変わっていた。さらに言えば弟殺害の疑いをかけられた前ブラバント公の忘れ形見、エルザだとしか思っていないのだった。
それは夢想の世界だった。
ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハの大作『パルツィヴァル』の最後を飾る聖杯騎士ローエングリンの世界のはずだった。
エヴァは美しく着飾るまで騎士を待たせた。彼女は納得いくまで髪を梳き、お気に入りの地味なワンピースに袖を通す。一度はけば破れてしまう絹のストッキングをはき、愛用のパンプスに足を入れると、やっと騎士を振り返った。
「さあ、参りましょう。わたくしの騎士」
「行こうぞ、エルザ」
騎士の腕に抱かれて窓が開くと、外には白鳥の背が待っているのだった。
二人が白鳥に乗ると、窓は自然に閉じられた。
「我らの戦いは諸人に知られてはならぬ」
「はい、騎士様」
エルザであるエヴァは騎士に言いつけられたことだけを出来るようになるのだった。彼女は聖杯戦争で鉄則とされている結界だけを作る。
白鳥は死者の光に導かれて飛び立った。
キャスターが例の本を閉じてアンを見つめた。
「来るぞ。私は騎士を魔術結界の中に閉じこめる。そなたは、その宝具を使って仕返しとやらをするがいい」
レースエプロンのポケットをキャスターが指したので、アンは瞬きして小箱を出した。
「これが、あんたの宝具だったの?」
アンは宝具というのは、とてつもない威力を持った武器や魔法のような道具だと思っていた。この箱はよい家に行けばありそうに現実的だ。舶来渡りの漆塗りの箱。アンは手のひらに乗せてしげしげと眺める。
「だから開けちゃいけないって言ったの」
「そうだ。私の宝具はマスターのためのもの。魔導縮函という。そなたが相手にかけたい魔術を念じて開け。後は箱が導いてくれる」
キャスターの表情は落ち着いていて、アンは少し気が軽くなった。何も出来ないと思っていた自分にも出来ることがある。それは心強いことだった。
「分かったわ。あたしもあんたに教えてあげられることがあるわよ。メフィストフェレス」
「何かね」
心なしかキャスターが嬉しそうに見えた。彼は悪魔で人間を騙そうとするのだ。アンは忘れないようにしている。だがキャスターの穏やかで知性的な顔を見ると、用心が無意味に思えてくるのだった。
アンはだから口調がきつくなる。自分を奮い立たせるために。
「ローエングリンは完璧な騎士。だから身体の一部でも欠損すると力を失うの。指先の、ほんの少しでも」
アンは自分の爪の先を指してみせた。
するとキャスターが頷いた。
「なるほど。忠告痛み入る。では我が工房を開帳するぞ!」
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