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Fate/Revenge 5. セイバーの弱点-②

割引あり

 二次創作で書いた第三次聖杯戦争ものです。イラストは大清水さち。
※執筆したのは2011~12年。FGO配信前です。
※参照しているのは『Fate/Zero』『Fate/Staynight(アニメ版)』のみです。
※原作と共通で登場するのはアルトリア、ギルガメッシュ、言峰璃正、間桐臓硯(ゾォルゲン・マキリ)です。
※FGOに登場するエンキドゥとメフィストフェレスも出ますが、FGOとは法具なども含めて全く違うので御注意下さい。

 魔術師の顔は奇妙な優しさと後悔に彩られていた。
『私はあれがいずれは凡俗に落ちるのだということを忘れていたのだ。一般人の間に大した心得もなく魔術を身につけた人間が降りるなどもってのほか。あれが全うに人生を歩むためには魔術の心得などない方がよかったのだ』
「それはあんたも、あんたの弟も馬鹿なんでしょうよ」
 本に向かってアンが呟いてしまうと、ページの中で男が顔を上げた。
「あっ」
 アンはどきっとして、キャスターの袖にしがみついた。まるでこちらを睨んでいるように感じたのだ。
「案ずることはない。向こうはこちらを見えないからね」
「でも、あんたが見てるんだから、向こうからも見えるんじゃないの、メフィストフェレス」
「今、私のことが分からないと向こうが言っているではないか。私から見ても彼らは私を割り出せておらん。不安に思うことはない」
「本当?」
 アンが見上げると、キャスターは優しく微笑んだ。
「私の名にかけて、あやつらごときに負けはせぬよ。マスター」
「そうよね、あんたは大悪魔なんだものね」
 アンが胸を張ると、キャスターが開く本の映像がサーヴァントに向いた。
「さあ、我がマスターよ。彼の能力を読めるかね」
「えっ……」
 アンは一瞬、何を言われているのか分からなかった。だが、この初めて目にする騎士の能力ステータスがすらすらと口からあふれ出た。
「筋力B、耐久性B、敏捷性C、魔力C、幸運A、抗魔力があるわ。ランクはBよ。単独行動はB、かなり長時間マスターからの魔力供給を絶たれても現界しつづけるわ」
「宝具はどうだね」
「それは直接見ないと分かんないわ」
 アンは答えてから、自分は何を言っていたのだろうと驚いた。はっとして胸を押さえ、それからキャスターをまじまじと見た。
「ねえ、あたし、どうなっちゃってるの。なんで、こんなことが判るの。メフィストフェレス」
「そなたは私と契約した瞬間に、聖杯からサーヴァントのステータスを読む能力が授けられているのだ。だが、そなたは現在の魔術素養に対して目は優秀だ。私の工房も見えているし。時間があれば鍛えたいが……とりあえず今のがアーチャーとそのマスターだ」
「分かった。覚えておく」
 ヘッドドレスを揺らして頷くアンにキャスターが微笑んだ。
「では、さらに重要な映像を君に見せる。しっかりサーヴァントのステータスを読み取ってほしい。いいかね」
「うん」
 アンは不安な気持ちでキャスターの開く新たなページを注視する。そこには映画のように躍動する映像が展開していた。アンは思わずテーブルに両手をついて覗きこむ。
「なんか光ってるわ! 白鳥!? いったい何が起こってるの」
「セイバーとライダーが戦っているのだ」
 昨夜の戦いはアンを茫然とさせ、安易な出陣は危険だと感じさせた。そして彼女を驚愕させたのはセイバーの高い能力であり、同時にライダーのマスターだった。
「ああああーーーっ! あの女! あいつもマスターかよっ」
「言葉遣いが麗しくないぞ、マスター」
「んなこと言ってる場合なのっ、あいつじゃないのよ。エヴァって女!」
 本の映像を指差すアンをキャスターがじっと見据える。
「知らなかったのかね」
「知らないわ。ちょっと、これじゃ簡単に仕返しすんのは無理なんじゃないの?」
 アンはすばやく本の中のライダーとキャスターとを見比べた。
「いやー。全然勝負になんないわ。あっちの方が強いわ」
「当たり前だろう。私は剣なんぞとったこともない。知性で戦うキャスターだ」
「あっちは騎士クラスとかいうんでしょ」
「ライダーは中堅札だ」
「いやー、中堅にも劣るあんたってどういうことよ。あたしのサーヴァントは世を震撼せしめた大悪魔なんじゃなかったの」
 アンが床に座って泣き真似をはじめると、キャスターが覗きこんだ。
「そなたは勘違いをしている」
「何がっ」
 食ってかからんばかりのアンにキャスターがゆったりと微笑む。
「彼らは機動力を活かして互いに殲滅しあう。だが私の戦法は違う。私は誘いこむのだよ」
「あんた、女衒ぜげん?」
 アンの言葉はキャスターをきょとんとさせ、それから激しく落胆させた。
「我がマスターには然るべき教養がほしかった」
「何よ、あたしだってファウストの末裔よ。最後の一人を甘く見るな。生き残っただけのことはあるんだからねっ」
 アンがぱんと胸を叩いてインバネスをひらめかすキャスターを見上げる。彼は試すように顔を近づけた。
「語れ、娘。何が言いたい」
「ライダーの正体、あたしは分かったわよ」

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