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Fate/Revenge 1. 初めての形-②

 二次創作で書いた第三次聖杯戦争ものです。イラストは大清水さち。
※執筆したのは2011~12年。FGO配信前です。
※参照しているのは『Fate/Zero』『Fate/Staynight(アニメ版)』のみです。
※原作と共通で登場するのはアルトリア、ギルガメッシュ、言峰璃正、間桐臓硯(ゾォルゲン・マキリ)です。
※FGOに登場するエンキドゥとメフィストフェレスも出ますが、FGOとは法具なども含めて全く違うので御注意下さい。

「嘘っ……英霊サーヴァントって英雄が呼ばれるのでしょ。どうして、あんたみたいな大地霊、悪魔が出てきちまったのよ」
「さあ」
 男がインバネスを開いて両腕を広げる。大きく肩をすくめてみせた。
「それは私の知ったことではない。そなたが私を呼んだのだ」
「違うわ!」
 叫んでみたが、確かに呼んでしまったのだった。
 何か呪文を間違えたの? 私のせい?
「娘よ、私をわざわざ呼び出したからには理由があろう。何故、聖杯を求める。言ってみよ」
「あんたに答えてどうなるというの」
「返答次第では私たちは巧くやれる。魔法使いと悪魔は知恵を合わせて生きるものだよ」
 アンはもう戻れない道に入ったことを悟った。御先祖は知ったではないか。時を止めることなどできないと。戻すことだってできはしない。
 アンは腹をくくった。
 死んだとしても今より悪くなることはなかろう。
「仕返しよ」
「誰に」
「エヴァ。総統の女よ。あんな女がいるなんて知らなかった!」
「ほう」
「あの女、あたしのことを汚い女と罵ったわ。総統に言い寄って一人だけいい目を見てる、あいつの方が汚い女よ。総統閣下も女を見る目が貧しいこと! それを思い知らせてやるわ」
「それをして、どうなるのだ。娘よ」
「だって、ずるいじゃない。あたしたちはひもじい思いをしてる。この服だってきれいだけど」
 アンは自分のエプロンとドレスをつまんで見せた。
娼婦宿エッフェンリシェス・ハオスから借りてるものなの。あたしは服一枚手に入れるのだって、怪しい仕事に就かなきゃ無理だったのよ。あたしたちが、どんなに困ってるか、分かる!?」
「分かるとも。ナポレオンは英雄などではなかった」
 静かな言葉はいい人のように聞こえた。だがアンは気を引き締めた。この悪魔は素晴らしく親切な態度で人を騙すのだ。アンはちらりと自分の手の甲に目をやった。
 令呪れいじゅ──これさえあれば、あんたがどんな大悪魔だろうが、三度はあたしにこうべを垂れなければならないのよ。あたしは上手くやりさえすればいい。アンが目を上げると、メフィストフェレスが微笑んでいた。
「私から一つ命題だ。窮乏した状況に置かれた人間が自分一人でも助かる方法を見つけたとしよう。それを実行するのは善か、悪か」
「えっ」
 アンは茫然とした。相手の言っていることが分からない。
「ふむ。分からぬか。では少し具体的な文章に変えよう。貧しい環境に置かれ、窮乏した国で、権力者に取り入ればよい暮らしができると気づいた女がいる。彼女が自分の知恵に基づいて行動するのは善か、悪か」
「わ……悪いに決まってるわ! あたしが今、言ったことを聞いてなかったの」
「本当にそうか。自分の生命を長らえさせるために本能に基づいた行動をとれる。それは生命に与えられた進化の命題上、最も重要なことだ。よりよい環境に置かれれば生き残る確率は上がる。それを実行できる個体の方が優れている。そなたより、その女の方が正しいとは言えぬか」
「何言ってんの!!」
 アンは憤然と肩を怒らせた。立ち上がりたかったが、もうお腹が空いていた。ああ、いつになったら、この空腹から逃れられるの。明かりのついた家に住めるの。泣きたい気持ちになって俯いた。
「ずるい女に天罰を。それがあたしの正義よ。悪いかしら」
 メフィストフェレスが魔法陣から出てきた。
「そなたの正義を見せてもらおう」
 アンは潤んだ目で黒い紳士を見上げた。彼は優しくアンを見つめて手を伸ばす。
「名乗れ、娘。それで契約成立だ」
「アン・マルガレーテ・ファウスト。あたしはあんたのマスターになるわ」
 アンも悪魔に手を伸ばす。
「宜しい」
 紳士はアンを貴族のように助け起こすと、深い笑みを湛えた。
「ではマスターに忠告するぞ。此度の聖杯は歪んでいる。ゆめゆめ気を抜かず、警戒を怠らぬことだ。私を信じるかね?」
 アンは息を呑んだ。メフィストフェレスの手は温かかった。だがアンはその手を振りはらった。それから一歩退いた。
「それだけは信じるわ。なんと言っても、あんたはあたしの英霊サーヴァントなのだからね」
「宜しい」
 メフィストフェレスが薄く微笑みながら消え失せた。
 ああ、これが霊体化というやつね。英霊サーヴァントは透明人間のように見えなくなることができると聞いていた。納得しながらアンは心の中で舌を出した。誰があんたみたいな二枚舌の悪魔を信じるもんですか! おあいにく様!


 一方、白鳥の間では独逸ドイツ一偉い小男がぺこぺこ胡麻をすっていた。
「おお、エヴァ。お前を怒らせようと思ったのではない。お前を傷つけようと思ったのではない。あんな小娘よりお前の方が美しいぞ、私のエルザよ」
 それから親衛隊員に手を振って出て行かせた。二人きりになるとエヴァはにっこり笑った。
「そうよ、アドルフ。わたくしだけが貴方のエルザよ」
 エヴァは男のちょび髭にちょっと指先を触れさせて微笑んだ。
「だから山荘を出たのも許すわね」
「許す、許すぞ」
 男が抱きしめようとすると、エヴァはするりと腕から抜けて出た。サロンの真ん中に立つと、胸の前で両手を組んで清純な様子で語りだした。
「許してくださるなら、やっとお話しできますわ。聖杯の真実を」
 男の目が爛と光った。今までのぺこぺこした空気はどこへやら、突然ソファにふんぞり返った。
「言え」
「わたくし、閣下にずっと秘密にしていたことがございます。わたくしは実は魔女なのでごさいます」
「ははははは」
 男が笑った。にわかには信じがたい話である。エヴァは構わず話しつづけた。
「魔術師には言い伝えがございまして。聖杯は六十年に一度、現世に現れると。そして、わたくしは聖杯に選ばれたのでございます」
「何!?」
 前のめりに乗りだす男にエヴァは芝居がかった仕草で、するりと自分の右手の甲を見せつけた。そこには真っ赤な令呪が浮かんでいる。男はおっと低く呻いた。
「これが、その証。聖杯はわたくしに聖杯を享ける権利ありと認めたのでございます」
「寄越せ!」
 即座に叫んだ男にエヴァはきゅうっと口の端をあげて狐のように微笑んだ。
「もちろんでございます。ですから分かりますでしょう。わたくしがあればこそ、貴方は総統の地位に相応しいのだと。わたくしは聖杯をつかむための御使いも呼び出してございます。さあ!」
 エヴァが大仰に右手をかかげると、彼女の背後に薔薇色のマントをひるがえし、赤銅の鎧をまとった騎士が立ち現れた。見上げるほどの長身で、涼しい顔立ちは引き締まり、中世の騎士が降り立ったかのようだった。背後に流れる黒い髪は優雅で、しかし瞳は鉄のように強く輝き、歴戦の勇士と思われた。
 男はぱかんと口を空けたまま、声も出ない。
「これがわたくしのライダーにございます、閣下」
 エヴァは腰の抜けた男に詰め寄り、にっこり笑った。
「さあ、お分かりになりましたでしょう。わたくしにお任せ下されば、閣下のもとに万能の器、聖杯をお届けいたしますわ。ですから、それまでの間、わたくしがどこにいようと何をしようと、邪魔だてなさらないでくださいませ」
 エヴァはここで小男のあごに手をあて、強い口調でたたみかけた。この馬鹿な男の操縦法は見た瞬間から分かっていた。
「宜しいわね、アドルフ」
 男はかくかく頷いた。長年、聖杯を求めていた男であるが、本物の魔術を見たのは初めてだったのだ。
 エヴァは男から確約をとると、声高に親衛隊員たちを呼び戻した。
「さあ、総統閣下のお帰りよ。早くお連れして」
 親衛隊員たちは腰を抜かした男を抱きかかえ、すばやく部屋から出ようとした。それこそ、こんなところを誰かに見られでもしたら大変なことになる。しかし小男の口がぱくぱく動く。親衛隊員の一人が耳元に顔を寄せるや、エヴァに耳打ちした。
お嬢様フロイライン、一刻も早く宝を持ち帰るようにと仰せです」
 本来であれば婦人マダムと呼ばれてもいい歳であるが、男が執拗に彼女をフロイラインと呼ぶので周囲も従っていた。それはエヴァにとって権力の象徴だった。彼女は目を細めて男を見下ろした。
「分かってるわ、アドルフ。それまでいい子で待ってるのよ」
 親衛隊員たちは無言で男をかかえ、階下に降りていった。
 エヴァは窓から下を窺い、リムジンが出るのを確認した。
「何が『私のエルザ』よ。わたくしは『貴方のエルザ』よ、ライダー」
 窓からふわりと離れると、エルザは赤銅の鎧に身を投げた。騎士が初めて口を開いた。
「今のは貴方の夫か、エヴァよ」
「違うわ! あんな男、わたくしは嫌い」
 エヴァは別人のように頬を染め、目を伏せて鎧の胸に顔を寄せた。
「でも、わたくしが聖杯を持ち帰れば独逸国民全てが救われる。わたくしだけではない、全ての民が」
「それはよいことだ」
「ですから、どうぞお力をお貸し下さいませ。もうすぐ七人の英霊が揃いましょう。そうすれば戦いが始まります」
「私が貴方のために闘ったら、貴方は私の妻になるか」
 騎士の胸にエヴァは囁いた。
「なります、ライダー。貴方こそはわたくしの夢。貴方さえいてくだされば、あんな小男の愛人でいなくていいのです。わたくしは清らかな身に戻れます」
「約定を違えぬ限り、私は貴方に手を貸そう」
「分かっています。わたくしの騎士。貴方のお名前は尋ねません」
 エヴァはうっとりと夢の中で囁いた。


 そのころ遠坂邸では明時あきとき璃正りせいが、聖杯戦争の場所が伯林ベルリンに移動したことを各所に連絡していた。といっても、それは電話や電報といった普通の方法ではなく、魔術を使ったものだった。明時が不思議な機械に書類を通すと、それは魔術協会やアインツベルン、マキリといった関係者に送られていくのだった。
 璃正にはよく分からぬ機械だったが、便利なものだと思った。
 また璃正もヴァチカンから緊急の連絡用に美しい紙を渡されていた。それに必要な事項を書き、折り鶴に仕立てる。すると紙は本物の鳥に換わって、そのあと線香花火の最後のように燃え落ちた。
「わあ」
 璃正が工房のテーブルで声をもらすと、明時が笑った。
「初めてお使いですか」
「はい」
「それは代行者たちが連絡に使う使い魔ですよ」
 明時が訳知り顔に言う。彼はするりと紙を取り上げて頷いた。
「ははあ。アマルフィのマーブル紙に見せかけてある。これは綺麗ですね。大した術師のものと見受けました。なかなかどうして。ヴァチカンも流石ですね」
「はあ」
 ヴァチカンはキリスト教二千年の歴史の間に複雑怪奇な組織に変貌していた。法王を頂点とする表のヒエラルキに対して、裏の顔を持っていた。それが聖堂教会と呼ばれる組織で現在、璃正が所属する部署でもある。異端討伐や死徒抹殺など一般に知らせるわけにはいかない闇の仕事を遂行する。それは魔術師たちと紙一重の、この世の理が通用しない世界でもあった。
 明時は紙を璃正に返すと、今度は小さな箱を開けて宝石を選びだした。
 その背に璃正は尋ねた。
「旅立つ準備をしなくてよいのですか」
「しておりますよ」
「しかし、ここから伯林まではシベリア鉄道を使っても二十日はかかりましょう。はたして間に合いますものやら」
「おや」
 明時が優雅に璃正を振り返った。
「これは異なこと仰せらる。貴方も尋常の方法で日本にいらしたわけではなかったのではないですか」
 璃正はぐっと言葉に詰まった。俯き、はにかむように口にした。
「左様です。しかし僕には貴方を送り届けるような術は使えません。多少の路銀を持つ程度です」
「私にだってヴァチカンと同じような術はございますよ。貴方もお連れしますから、どうぞ御安心を」
「いや。しかし」
 遠慮する璃正に明時は穏やかに微笑んだ。
「何も秘術を見せようというのではありません。本当に簡単な術なのです、私たちにとっては」
「はあ。では」
「しかし、その前に英霊サーヴァントを呼び出します。監督役である貴方は知っておいた方がいいでしょうからね」
「えっ」
 それこそ璃正は驚いた。英霊サーヴァントを呼び出すところなど、それこそ人知れず行うものだと思っていたからだ。
「僕が見てもいいのでしょうか」
「英霊を呼び出すのは厳密に言うと私ではないのです」
 明時が小さな水晶を手に今度は水銀の瓶を取り出した。彼がテーブルの前にあった籠を取り除こうとする。璃正は慌てて腰を上げ、手伝った。少しばかり空間ができると明時が頷いた。
「宜しい。では英霊について説明して差し上げましょう。貴方に公正な審査役を期待していますから、包み隠さず本当のことを教えます」
 明朗な明時に璃正は頭を垂れた。
「ありがとうございます。僕は門外漢で、その、要領を得ないのですが」
「その方が分かりやすいかもしれませんよ。とても複雑なシステムですが、起こることは単純なのです」
 明時の話に璃正は聞き入った。こうしてながの夕べ、璃正はまるで弟子のように明時の話を聞いた。そうして見たことも聞いたこともなかった魔術の世界をゆっくりと垣間見るのだった。
「聖杯は本来は我が冬木にあって、地脈から霊力を得て力を蓄えます。その力を使って六十年に一度、顕現し、また遙かな時空から英霊たちを呼び寄せるのです」
「聖杯が呼ぶ?」
「そうです。時空間を越えて存在しないはずの人間を呼び出し、さらに必要な知識を付加し現界させるには膨大な魔力が必要です。しかし聖杯自体にそのためのシステムが組みこまれているので、我々マスターは聖杯から英霊を呼び出し、現界しつづけるのに必要なわずかな魔力を供給すればいい」
「そうだったのですか。誰が呼び出されるか、はどうやって決まるのですか」
 璃正は子供のように素直に不思議に思うことを尋ねる。すると明時は笑って答えてくれるのだった。
「それはですね。二つのパターンがあります。あ、厳密に言うと三つかな」
 明時が璃正を見つめる顔は落ち着いている。明時も、この青年を信用しはじめていた。
「まず普通は呼び出したい英霊にゆかりのある聖遺物を用意します。すると聖遺物に惹かれて目当てのサーヴァントが現界する、はずです。もちろん上手くいかないこともありますが」
「明時さんも用意されているのですか」
「今回は次の方法を採ろうと思いまして。考えすぎると、もう誰でもいい気がしましてね」
 明時は魔術師とは思えないことを口にした。璃正が目を見張ると明時は照れたように笑った。
「どのクラスを呼び出したとしても戦い方はありますし、どのクラスを相手にしたとしても必ず弱点はあるものです。もう誰でもいいというのはそういうわけで」
「なるほど。次の方法とは」
「聖杯に任せるのですよ」
「ん?」
 璃正はきょとんとした。明時が面白そうに笑った。
「不思議な言い方でしょう。でも、そうなるのです。聖杯は自身に縁がある、あるいは聖杯を持つに相応しいと思う人物に令呪を与え、マスターとします。それと同じで聖杯がマスターと相性のよい英霊を差配するのですよ」
「……」
 そんなことが可能な聖杯とは、いったい何なのだろうか。璃正は言葉を失う。二十世紀半ばのこの時代、物が自律して何かを行うということ自体が不思議きわまりないことだった。
「だから私は聖杯の差配に自身を委ねようと思います。私の手には、とうに令呪が現れている。ですから聖杯は私に合う英霊も見繕っているはずですからね」
 明時が璃正の前に右手の甲を向けて見せた。そこには円と直線を組み合わせた、アール・デコを思わせる刻印が鮮やかに浮いていた。
「三つめは狂化の呪文を付加しバーサーカーを呼ぶ方法ですが、私はこれを採りません。バーサーカーは基礎パラメータが高い代わりに、人語や理性を失っています。ほとんど意思疎通もできません。制御に魔力を浪費しますし、扱いの難しいサーヴァントと言えましょう。危険な、と言ってもいいですが」
「なるほど。だから狂戦士」
「そういうわけです。さて、いよいよ私のサーヴァントを呼びましょうか」
 明時は呪文を唱えながら床に二重の魔法陣を描いた。それから手に水晶をのせ、あの呪文を口にした。
「我は常世とこよ総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者、汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!」
 明時の手の上で水晶が輝いた。璃正は思わず顔を背ける。
 だが、しかし、何も、そこには起こらなかった。
 璃正がゆっくり顔を上げると、明時も妙な顔をして魔法陣を睨んでいた。
「何故だ、いったい。何故、英霊が現れない!?」
「魔法陣に誤りが?」
 璃正が尋ねると明時は首を振った。
「いいえ、合っています」
 璃正は思いついて霊気盤を覗いた。
「明時さん、これを!」
 急いで覗いた明時も目を見張った。
「これは……いったい」
「明時さん、すでに召還された英霊サーヴァントは六体のはずですね」
 璃正はほっそりした明時を見下ろして数えあげた。
「アインツベルンのバーサーカー、エヴァ・ブラウンのライダー、カスパル・マキリのセイバー、魔術協会派遣魔術師ウォルデグレイヴ・ダグラス・カーのランサー。遅れてブラウエン・マキリのアーチャー」
「そしてマスターの届け出はありませんが、キャスターも現界している」
「まだ六体しか現れていないはずですよね」
「そう、そのはずです。まだアサシンは呼ばれていない」
 しかし霊気盤には光があった。
 はっきり七つ光っている。
 璃正が霊気盤の円盤を回す。教えられた通りに何度、円盤を回しても七つめの光は英霊の座を示す円盤と合わないのだった。
「僕が不慣れで誤っているのでしょうか。その、この最後の光はどのクラスも示していないように見えるのですが」
 明時が愕然とした表情で霊気盤を見つめる。
「そんな……いったい今回の聖杯戦争は何が起こっているのだ。大聖杯は移動し、英霊はすでに七体、召還されていることになっている。だが現界しているのは六体だけだ。しかも貴方の言う通り」
 明時が璃正の手を越えて円盤を回し直した。
「七体目の英霊サーヴァントは、どのクラスでもない……」
 いつも穏やかな明時が青ざめて璃正を見つめた。
「すぐ伯林に発ちます。何か異常が起こっている可能性もある。マキリ老に連絡したら、すぐ発ちます」
「はい、港ですか。駅ですか」
 背筋を伸ばす璃正に明時がふっと笑った。
「いいえ。どこへも行く必要はありませんよ。だって、ほら」
 明時が工房の壁にかかったタペストリーをめくると、そこには巨大な魔法陣があった。ほっそりした明時の手が優雅にそれを指し示した。
「我が工房はこれで世界中と繋がっているのですから」
 にっこりと穏やかな笑みが明時の顔に戻ってきた。


Fate/Revenge 2. 伯林へ-① に続く


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