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ウェイバー・ベルベット──生命の礼装⑤Epilogue 時計塔、再び + ライナーノーツ

 ※『Fate/Zero』二次創作です
※『ロード・エルメロイⅡ世の事件簿』『ロード・エルメロイⅡ世の冒険』ともに未読です
※『FGO』は未プレイです
※ライネスは男の子で、名前は同じだけど別人です
※登場するメインキャラクターはウェイバー、イスカンダルです
※時計塔の描写は『Fate/Zero』の説明から逆算できるものにしています
※トップ絵は大清水さちさん https://twitter.com/sachishimizu に依頼しました

同シリーズの前作↓

この話の前のエピソード↓


    Epilogue 時計塔、再び


 ウェイバーが回復したのは半月も経った後だった。
 坊主、せっかく癒やし手がおるのに何故、使わぬ。
 耳元でイスカンダルはうるさかった。ウェイバーの気持ちなど無視しているように。
 もしかしたら分かっているから、うるさかったのかもしれない。
 それが、どれほどつらいことだったとしても、あの『夢』の中で触れたものは全て宝物だったから。幻のような『王の軍勢アイオニオン・ヘタイロイ』の体験を心に納めておきたいだけだ。彼の腕の中で過ごした奇跡の時間を──イスカンダルから離れると本当に参じてしまう●●●●●●●●●ということで、ウェイバーはずっとイスカンダルに抱き上げられて輝かしき面々と相対した。
 プトレマイオスやセレウコス、二人のクレイトスやリュシマコスら並みいる将軍たち──誰もが個性的で面白かった。後の歴史を鑑みると複雑な気持ちになってしまうが、彼らの結束は、イスカンダルあるかぎり、解けることなく続くのだ。
 本当は、ちゃんと一人でブケファラスを走らせてみたかったけど、それは、この身体を離れた時の楽しみってことだから。
 ウェイバーはあっと思い当たる。
 乗馬の練習もしておかないといけないのか。新しい課題だな。あそこに行くときのために、できることは積み重ねておかないと。
 ウェイバーは長い睫を伏せて宝物の時間を魂にしまう。
 たまには、いいじゃないか。
「ばあか。なんで分かんないんだよ、お前はさ」
 僕だって、そういうこと、あるんだよ。
 ウェイバーが西棟二階のドアを開けると、中が変貌していた。
「あ、先生! お帰りなさいっ」
 ミアが飛びこんできた。ウェイバーは抱きとめて、目を丸くした。
 それなりに整ってきたとはいえ、まだまだ素っ気ないウェイバーの部屋がリボンと花で飾られていた。
「え、あれ」
「お帰りなさい、先生ーーー」
 今度はトリフォンが突進してくる。
「ちょ、ちょ、無理って」
 トリフォンはミアごとウェイバーを抱きしめる。彼の長身あってこその無理矢理な対応だ。
「ちょっと、あんた、何やってんのよっ」
 間に挟まれたミアが金髪を乱して首を揺さぶる。ウェイバーはどさっとバッグを落した。
「先生、お荷物が」
 マックスが長い腕を伸ばして拾ってくれる。
「快気祝いの準備をしておりました」
「エールも買ってきましたー」
 浮かれたトリフォンにウェイバーは愕然と視線を流す。
 部屋に入ると、床には新しい絨毯が敷かれていて、そこにいくつも上品なゴブラン織りのクッションが並んでいた。
 唖然とするウェイバーにライネスが笑った。
「お前が遅いからさ、ここが溜まり場になっちまって。やりやすいように、ちょっとアレンジしちまった。後で片付けるよ」
「いいよ、別に」
 ウェイバーは肩をすくめる。
「皆がいやすいように、ちょっと部屋を考えるよ」
「やったー」
 子供たちが歓声をあげる。
 ケータリングと黒猫亭のケーキ、ジュースや炭酸水、トリフォンが買ってきたロンドン・ポーターのエールが二本。皆で食べて飲んで。トリフォンがエールの瓶片手にウェイバーを上から覗きこむ。
「先生、ちょっとでいいから呑みましょう!」
「ええと」
 ウェイバーは彼が差し出すグラスをためらいがちに受け取った。
 こら、坊主。
 頭の中に不満げな声が充満する。
 貴様、余の杯は受けんというに、その子供の酒は受けるのか!? ああ!?
 仕方ないだろ。リフは僕のことになると思いつめるからさ。断ったら、ショック受けるに決まってるだろ。
 余もしょっく●●●●とやらは受けておるぞ、坊主!
「しょうがないなあ、後でお前とも呑んでやるからさ」
 まことか、坊主! よい葡萄酒を手に入れておけ。あの、泡の出るやつがよい。
「はあ、シャンパーニュ!? もう、ライダーのやつ」
 ウェイバーが肩をすくめると、リフが心配そうに見つめていた。
「あのう、もしかしてエールは好きじゃなかったとか」
「そんなことない。あまり呑まないだけだよ」
「え」
 トリフォンの顔がぱあっと明るくなった。あまり呑まない師が自分の酒は受けてくれるとなれば、トリフォンには天国だ。
「ずるーい、あんただけー」
 ミアがケーキフォークを突き上げる。ウェイバーは真面目に釘を刺す。
「ミアはまだ駄目だ。僕とリフだけだよ」
「分かってるー」
「こら、先生を困らせるな」
 マックスがミアにお小言を言っている。
 リフがパンと器用に魔術で栓を抜き、グラスにポーター特有の濃い茶色の液体をそそぐ。柔らかな泡が表面を覆って、意外な甘い薫りがした。
「じゃ、先生マスターNa zdraví乾杯!」
「Cheers!」
 ウェイバーは一生口にすることはないと思っていた単語を口に上せて、不思議な気分だった。
 するっと咽喉に流れこんだ泡が苦くて、焦げた風味がする。その後で嫌いでもない甘いコクが残った。
「あ、意外と美味しいかも」
 思わず口から出た言葉に自分でも驚いた。
「先生、いけるじゃないですかー」
「これ初めて飲んだな。なんか甘い」
「ほらね、先生は甘いものが好きって言ったでしょ」
 ミアがこちらを振り返る。彼女はケーキをいっぱい皿にとって幸せそうだ。ウェイバーは困惑して首を傾げる。
「そうかな」
「だって先生、いつもケーキ食べる時は笑ってるよ」
「それは、お前たちがいるから」
 ミアがぱっと両手で口を押さえて真っ赤になる。マックスが金髪に手をあてて、はにかむように俯いた。
 ライネスがジンジャーエールのグラスを片手にウェイバーの隣に移動してきた。
「よ、酒じゃないけど、Toast!」
「To you.」
 チンとグラスを鳴らしあって、ウェイバーはゆっくりエールを口に含む。
 ライネスがウェイバーと向かいあうように隣にどかっと腰を下ろした。ジンジャーエールを一口飲んで息を吐く。
「だーから、言ったろ。あんたを一人で出したくないって」
「ごめん」
 ウェイバーはため息しかない。
「あ、先生。お土産はー?」
 ミアとマックスもクッションを持って向かいにやってきた。ウェイバーはミアに向かって小さく頭を下げる。
「それもごめん。買う時間なくてさ。ていうか、翌日に買おうと思ってたから」
「ええ、そうなの!?」
「そういえば、おれたち、ドイツに不法入国してしまってるんですよね。ぜ、前科者ってことですかッ」
 トリフォンがグラスを握ってウェイバーを覗きこむ。
 ウェイバーは空のグラスを置いて、がくっと肩から脱力した。
「それもなんか、もう、ごめん。本当にごめん」
「何言ってんだよ。魔術師に不法入国も出国もないだろ」
 ライネスがウェイバーの前に置かれたパックからローストチキンをつまみ上げる。
「だってパスポートに押してもいない出国印が押されちゃってるんですよっ」
「そんなの気にすんなって」
 ふわふわした感じにウェイバーが首を傾げた時、ドアが激しくノックされた。
「ちょっと、ウェイバー・ベルベット! 帰ってきてるんでしょっ」
「ひ、ブリギットさんっ!?」
 ウェイバーがふらふら立ち上がると、ドアが開いた。
 外出用のコートドレスをまとったブリギットがつかつかと入ってきた。彼女がこちら●●●に来るなんて全く想定外だった。
「ほら、ウェイバー、ケント公に詫び●●入れに行くのよ」
 一瞬で酔いが醒めた。
 何言ってんの、この人。
 固まるウェイバーの手をブリギットが握りしめた。
「貴方を捜すためにケント公がどれだけ骨折りしてくれたと思ってるの。来週の土曜日、ウィンザー城のお茶会で謝ってちょうだいッ」
「ケント公って本物の王弟クイーンズ・カズンズ!? なんで、そんな人と会わなきゃいけないんですか、僕が!」
「とにかくモーニング、用意しなさい」
 ブリギットがぎんと青い目で睨みつける。だいたい王族ロイヤル・ファミリー動かしたのは、あんたたちだろ、僕じゃない。
「ナニ言ってやがりますか、この人は」
 ウェイバーは頭が真っ白になりかけている。
「いいこと、ケント公は海軍ネイヴィたたき上げの着道楽よ。失礼のないように」
 これにライネスがにやにやと笑い出した。彼は自分のテイルコートの襟をちらちらと動かしてみせた。
「俺の貸してやれたらいいけど、あー、丈が合わないよなあ、ウェイバー?」
「ライネス!」
 トリフォンも自分のモーニングとウェイバーを見比べている。マックスはがくっと床に手をついている。三人とも180cm越えの長身だ。彼らのコートを借りたりすれば、自分がペンギンのようになってしまうことは考えなくても想像できる。
 かあっとウェイバーの頭に血が上る。腕をつかまれたまま絶叫する。
「ああ、行ってやる、ダンヒルだろうが! ハケットだろうが!」
 ブリギットの眉がつり上がった。
「そんなの華奢な貴方に似合うわけないでしょ、ハーディ・エイミスに行くわよ、ほらっ」
 力任せに腕を引っ張られてウェイバーはよろける。ライネスがひらっと手を振った。
「御馳走は片付けといてやるから。行ってこーい」
「誰の快気祝いなんだよッ! ちょ、ブリギットさん、痛いですって」
 よいではないか、坊主! 騎士王の奴めの手下を覗いてこい。ついていってやるぞ。何、マケドニアの宮廷儀礼は永遠不滅。ちょちょっと助けてやるから、安心しろ。
「ばか言ってんじゃないっての」
 頭が痛くなるような大声で征服王が笑っている。
「ホント、お前、無茶苦茶だあっ! ライダぁあー」
 なんで、僕の周りはこんなやつばっかりなんだ。
 御蔭で楽しくなっちまうじゃないかよ──絶え間なく胸からは血が流れているのに。
 きっとずっと、こんな日が続くんだろう。僕が神々の門バビロンに辿りつくまで。その頃にはきっと、僕の『夢』が形になっているだろう。
 な、イスカンダル。
 西に東に、旅を続けて。

    『ウェイバー・ベルベット──生命の礼装』ライナーノーツ


 
前作『ウェイバー・ベルベット──時計塔の探求者』を受ける形で、全く同じ基準で今回も執筆しました。商業ノベライゼーションと同じ精度、また二次創作の常識に甘えず、基本的な設定の説明を入れる形です。
 『Fate/Zero』は非常に巧妙な作品で、ほとんどのキャラクターが消滅もしくは亡くなってしまいます。切嗣、綺礼の続編を書こうとすると『Fate/Staynight』に抵触するので、必然的に続編を構成可能なのは、かろうじてウェイバーだけとなります。
 しかも彼自身のアイデンティティを確立する物語は完全に『Fate/Zero』で完結しているので、続編を作るとしたら、全く新しいテーマを提示する必要があります。くわえて彼と関係するキャラクターが非常に少ないので、作者自身の力で新たなキャラクターを創造しなければなりません。
 今回は原作である『Fate/Zero』のキャラクター配置をなぞる形で、人間をサーヴァントとして組み込みました。それがウェイバーの生ける礼装 Squad of Solomon’s Scholarです。
 原作『Fate/Zero』の構成とともにキャラクターの補足をしておきます。

①マックスとミアの関係性

 『Fate/Zero』は作中に多くのトライアングルが配置されています。
 分かりやすいものの一つにバーサーカー=ランスロット(ランサーとキャスターの対応項。双方の特徴を合わせ持つ)/ランサー=ディルムッド・オディナ(主君の妻との不倫エピソードを持つ槍使い・アルトリアに対してプラス)/キャスター=ジル・ド・レェ(罰せられたい欲望・アルトリアに対してマイナス)の三角形があります。
 ディルムッドは、ランスロットが持つグィネヴィアとの不倫エピソードの原型アーキタイプであり、故に彼の影の一人です。またディルムッドの方が原型であるため、原作中でランスロットの天敵はディルムッドです。
 この関係を写したのがマックス=Berserkerとミア=Lancerです。
 二人を兄妹に置いた理由もお分かりいただけると思います。ミアの方が設定上、強いのは原作の暗喩であり、この兄妹の容貌が美しいのもディルムッド、ランスロットからの写しです。

②ウォルデグレイヴの立ち位置

 私が別のマガジンにまとめている『Fate/Revenge』からのスピンオフ・キャラクターです。

 ウォルデグレイヴの詳細はRevengeを御覧頂くのが一番いいのですが、私が『Fate/Revenge』『時計塔の探求者』から一貫して書いているダグラス・カーは、ただアーサー王にのみ忠誠を捧げる変わった一族です。
 『Fate/Zero』におけるキャスター=ジル・ド・レェは、アルトリアをジャンヌ・ダルクと勘違いしているとはいえ、非常に明快にアルトリアに執着するキャラクターです。これは前述の三角形がギルガメッシュの影を構成するためですが、そこからSquad of Solomon’s ScholarのCasterはアルトリアのみに忠誠を捧げるウォルデグレイヴを配置しました。
 同時にウォルデグレイヴは『Fate/Revenge』において、アルトリアの命を破っており、罰せられる条件を兼ね備えています。
 彼は実質的な不老者であり、非常にチートな設定を持っています。そのため、常駐するメンバーではありません。今回はウェイバー不在の瞬間が発生したこと、また最後の追想の会は聖杯問答の写し(ウォルデグレイヴ=アルトリア、アン=Revengeのキャスターからギルガメッシュに関連、ウェイバー=イスカンダルの対応項)であることから、彼を登場させました。

③トリフォンの謎

 『Fate/Zero』の作中でイスカンダルが唯一、明確に葬るのがアサシンです。『王の軍勢アイオニオン・ヘタイロイ』を率いるイスカンダルと群にして個のアサシンは、どちらも単体であるはずの英霊でありながら集団を形成する対称項になっています。
 ですから、Assassinに置いたトリフォンもイスカンダルと、ウェイバーを挟んで対立する形をとっています。
 簡単に言うとウェイバーの占有権を競う関係です。
 原作でウェイバー自身のイスカンダルへの気持ちが強く設定されているので、トリフォンの対立は非常に弱いものになりますが、エピローグで見せたように、イスカンダルを出し抜けることもあります。
 ウェイバーは『Fate/Zero』のラストにおいて、今までの視野の狭い自分を革め、新しい世界に進むことを決めています。馬鹿にしていたゲーム機を繋ぐ姿は、その象徴でしょう。ですから、二次創作でも今までしなかったことにチャレンジさせています。きっと彼は逃げないはずです。
 トリフォンはその舳先案内人パイロットを果たすことで、イスカンダルの影として機能します。

④ライネスという特殊性

 そもそもサーヴァントとは何ぞや。
 本来は召使いを指す言葉です。理想のサーヴァントとは忠実で誠実なる絶対の味方。
 前作『時計塔の探求者』でライネスをセイバーのマスターに設定しておきました。くわえて彼だけが他のメンバーとは全く違うシステムでウェイバーと連結しています。詳しくは前作『時計塔の探求者』を御覧ください。また彼は真っ向からウェイバーに物申せる対等な関係でもあり、同時に非常に忠実な徒弟でもあります。ウェイバーに強い依存を持つ他のメンバーとは立ち位置を変えました。
 サーヴァントたる人間の本命としてデザインしたのがライネスです。
 ケルトの血統や金髪碧眼の容姿、様々な符号を載せて彼をSaberとしました。彼(原作では彼女)の属性が水単体なのはTYPEMOONの作品でも遵守される設定ですが、ここから湖の乙女に加護を受ける要素も付け加えられます。
 最優のサーヴァントといわれるSaberに相応しく、安定した強さを持たせています。

⑤空位のライダー

 ライダーに当たる人間のキャラクターは不要です。
 ウェイバーのライダーはただ一人。彼を駆り立て、戦場に走らせうるのはイスカンダルだけですし、戦場に立つ気持ちや責任を理解できるのも彼だけでしょう。

 このように原作にある構成を写し、キャラクターを配置した結果がこの作品です。こういった書き方は二次創作ではほとんど見られないと思いますが、一次創作では機能的に構成を組めると、しっかりした作品を書けます。『Fate/Zero』はその究極点にある作品です。あまりにも緻密かつ複雑で説明が難しいほどです。全てを写すことはできませんが、できる範囲で近づけてみました。
 そして今回の話はウェイバーの礼装が作られていくお話でもあります。FGOなどではいろいろな設定があると思いますが、あくまで『Fate/Zero』を原作とする場合、その礼装は『王の軍勢アイオニオン・ヘタイロイ』に準じるべきだと考え、ウェイバーの軍勢を作り上げました。彼とともに旅をして、ついてきてくれる存在でなければいけません。
 また作中では英語、ドイツ語、チェコ語が注釈なく登場します。雰囲気で流していただいても分かるように書いていますので、外国に行った気分で読んで下さい。
 現在、空位のArcherはもう決めてあります。
 セイバーを呼ぼうとするのに、いつもアーチャーを引いてしまう、あのうちの娘さんです。
 続きを公開できたら、またお付き合いいただけますと幸いです。

凜ちゃんとウェイバーが時計塔のサマースクールで出会う話
At the summer-school
※カップリングではありません

ギルガメッシュとアルトリアさんをお好きな方に↓

宜しくお願いします!

サポートには、もっと頑張ることでしか御礼が出来ませんが、本当に感謝しております。