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新春ライブ2022セットリスト考

ライブのセットリストには、その時の心情が如実に表れると思っている。
今この瞬間に、歌いたい歌。リアリティーを持って歌える歌。

例えば、“ハロー人生!!”。
一度は生で聴いてみたいものだが、でも、この曲が歌われることはないだろうと思った。なぜなら、

21世紀今日現在この東京じゃあ、
さほどオレの出番望んじゃないようだが、

”ハロー人生!!”

ソロ活動でこれだけ手応えがあったら、この歌詞をリアリティーを持って歌うことはできないから。

そういう意味で今回のセットリストは本当に楽しみだった。
「男たるものこうあるべきだ!」「こうあらねばならないんだ!」というかっこいい理想の姿を追い求めて、長いあいだ貫いてきたエレ次。その呪縛から自らを解放して、やりたかったことをやれるうちにとソロに挑み、成功を収めて幸福感に満たされているソロ次。そのソロ次が考えるエレ次なのだ、今回のエレ次は。かっこよさの追求も、こうありたいこうあるべきという縛りも、ソロ次から見たエレ次は、いったいどんな姿なのだろう。より「らしさ」が際立つのではないかとゾクゾクした。(今更だけど、エレ次=エレファントカシマシの宮本、ソロ次=ソロ歌手の宮本浩次。愛をこめてそう呼んでいます。)


改めて思い出してみても、凄まじかった。
この曲の次にこの曲が来るか~……って並びが、とか振り幅が、とか書き始めたら切りがない(だって全部そうなんだもん)。
目ェ剥いて「あくびして死ねー」と叫んでおいて、後になって「死ぬのかい?オレは…」なんてあんな切なく歌われたら昇天するわ。
きっとどのライブも、1曲から1行ずつキーワードを選んでセトリ順に並べたら、素敵な詩ができるんだろうな。
今回のライブでそんなことを思った。

同じ言葉はたくさんの歌に繰り返し出てくるし、同じことを歌っているように聴こえるかもしれない。でも今日昇ってきたあの太陽、新しい日なのだから新しい太陽で、唯一無二なのだから昨日と同じ太陽で。吹いてくる風も、新しくて同じ風が毎日吹いている。
そういうことだ。
同じ太陽が昇ってくるのだから同じことを歌うのは自然なことだし、同じようでも違う。違う言葉を使っていても、同じことを歌っている。(と私もあちこちで同じことを書いております。)

ただ、その描かれ方は、表と裏……、陰と陽……、視点、観点、アプローチもさまざまだし、おのずと振り幅も多種多様になる。
そんな膨大な楽曲の中、私のセトリ予想はあまり当たらなかった。新春でありながら野音寄りだと感じたことはすでに書いたが、さらに、同じテーマを歌っていながらも、予想した曲よりもおもて側、陽の側からの意識が強い曲で構成されていると直感した。しっかりと生きている、ということを確認するような。ああそっちで来たかーーー!とひたすら唸った。

奈落の底へ堕ちてゆく道すがら歌でもどうだい?( “DEAD OR ALIVE” )
という口上で歌われる歌ではなく、 
人智を超える大きな存在を仰ぎ見てひれ伏すような歌( “生命賛歌” )。
一区切りつけてリセットした再出発の決意( “RESTART” )ではなく、
いつもと変わらない空だけれど、ここで俺よもう一度起て( “旅立ちの朝” )。
「踊れ!おーどーれ!!」と聴衆をアジり( ”奴隷天国”)、
「結局、俺オドルんだ」( “生命賛歌” )。

しかも、おもて側、陽の側からの歌でありながら、明朗快活に希望を歌い上げるだけではなく、光があれば影もあるということを思い起こさせてくれる選曲だった。
新しい季節へキミと” ではなく “笑顔の未来へ”。
FLYER” ではなく “RAINBOW”。


定番の「エヴリィバディ、ファイティングマン!」はなく、間奏で呟かれる「頑張ろうぜ」もなかったのは、たまたまだろうか。

「理想と敗北を歌ってきた」と言うけれど、強靭な純粋さゆえに無敵。
《純粋さ》とは経験値が低くて、敗れた回数が少なくて、臆病じゃないこと。自転車を漕ぎ続けていれば倒れないのと同じで、歌を作った若き日へと時空を駆け、臆せず戦い続けている限り、敗れることはない。

ソロ活動がエレファントカシマシに還元するもののひとつに《エレ次の純度が増す》ということがあると思ってはいたのだが、それにしてもその想像を絶する濃密さに震撼した。エレ次とソロ次が、それぞれにどこまでも純度を上げれば上げるほど、ふたりは乖離して行く。
そしてその先での融合を俯瞰して統括する宮本浩次の、凡人とは違う時間軸を生きている「俺の生涯の歴史絵巻」の壮大さを思うと、このひとはまだまだこんなもんじゃない、まだまだもっと物凄いものを見せてくれるに違いない。そう、いつだってこちらの期待値などはるかに飛び越えてくれるから。

まずは、ソロ次がツアー日本全国縦横無尽が無事に完走できることをひたすらに祈るのみだ。

そして、エレ次にはこのひと言を。

友と会えばいつものとおり。

”いつものとおり”




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