第四章:追放

魔法使いは帰ってくるなり娘の寝室を叩きあけた。

「その男はこの部屋には置けない。あちらへ返さねばならない。石をとられてしまう。」

服を着ていない男女二人にさして驚く様子もなく魔法使いは言った。

男は急な来客に怯えて慌てて下着をはこうとしながら床を這って隠れ逃げようとた。男は転倒し猫の尻尾を踏みつけて引っかかれている。

娘はその無様な姿に「情けない男だとは思っていたが、ここまでとは思わなかった」と呆れた。まあ、確かに魔法使いのことを知らないのであれば無理のない反応だ。裸の状態でいきなり寝室に入ってきた人物に驚く様子もないような人間は、自然ではない。自然ではない人間は気持ちが悪い。”確かに男は情けないが、魔法使いのほうがおかしい”娘はそう思った。娘は男を責めることはせず、庇うようにして守った。

「嫌です。この人は戻ったら殺されると言っていました。」

「ならば二人で逃げてもらうしかない。」

魔法使いは思いのほかあっさりと承諾した。

表情はいつも通り読めず、娘はそのような”非常識な”魔法使いには慣れていたので別段驚く様子もなかった。

「わかりました。」

「決意が固いようなら仕方ない。しかし手塩にかけて育てた娘だ。魔法の石を持たせよう。」

二人は魔法使いの家を追い出された。

娘はなぜこの男にそこまでするのかわからなかった。意地のようなものかも知れないし、善意というものかも知れない。もしくは何かの小説でそういうシーンを見ただけかも知れなかった。

だが人々は安易にこれを”優しさ”とか”人として当たり前のこと”などと呼ぶのだろう。

男は一連の様子を気味悪そうに見てから、準備をしに部屋を出る娘に慌ててついていった。

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