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映画日記:リアリティのダンス

ホドロフスキーを見るのも、たぶんこれが初めてだと思う。
あっけにとられながら興味深く見て、他の作品も見たくなった。マジック・リアリズム的めくるめく急展開のストーリーに振り回されるのが楽しく、南米らしい鮮やかな色合わせが展開にマッチして目に楽しい。
お父さん役の人は、過酷な運命で人相がどんどん変わる役を見事にこなしていて、最初はえげつない暴力親父だったのが、愛すべき人間になっていって、泣かせる。どこまでが実話なのだろう。
一人だけオペラ歌手なお母さんもシュールで最高。DV夫にされるがままの狂信的なやばい人だと思ったら、最後は慈悲の心で圧倒する。
他人の家族の中での姿を見ると、それが作り話でも、自分の知ってるものとの違いに圧倒される。自分のことも実は全然ちゃんと見てないなと思うけれど、他人しかもよその家族のことは本当に全く分からないから、チラ見させてもらうと凄くシュールに感じられて興味深い。
是枝監督『海よりもまだ深く』や、しまおまほさんがご両親や親族について書いていたエッセイにも、テイストはかなり違うけれど、そういう家族独特の宇宙を感じた。
この映画は、マチズモを改心する話としても、波乱万丈のファンタジックな自伝としても、戦後のチリ史を俯瞰する話としても、家族の物語としても、完成されているように見える。
ヒッピー風味の修行者の口から突然出る、般若心経も面白かった。
やたら髪を切ったり長髪になったり髪の変化が出てくるのは何だったのだろう?怪力サムソン的な意味ではないようだけど。無邪気さに関する何か?

子どもの頃のおぼろげな記憶。NHKの海外ドキュメンタリーだと思うけれど、チリで反政府デモに参加した学生カップルが生きながら燃やされた、という番組をテレビで見て、そんなことを今やってる国があるのか!と衝撃を受けた。でも他でピノチェト政権について触れてるのは何年も見なかった。
最近になって、ネット記事で、その頃に親を政権に殺され誘拐された子ども達を中心とした特集を2度ほど見て、改めて、ナチスがやったのと同じくらいのことが行われていた実態を知った。
日本では、ピノチェト政権が話題に上ることも、世界史の授業で詳しく習うこともほぼなかった。同じアジアのポル=ポト政権ですら同様だから仕方ないけど、地球の裏側の歴史をあまりに知らなさ過ぎる。
日本がやったこともそうだし、虐殺の歴史についてナチスドイツのケース以外ほとんど勉強しなくなっているのは、如何なものか。虐殺は忌むべきだけれど特殊ではない。
状況が揃えば人間がどんなに残酷になり、かつコロっとなかったことや政治家だけのせいにして自分達を免罪するか、戒めとして習うべきだ。サードウェーブ実験やスタンフォード監獄実験の事例も知っておくといい。
わたしの関心は、なぜか昔からそういう衆愚的手のひら返しに寄せられている。それらが結局虐殺が起きるのを支えていると思うし、避けようがなくも見える次の悲劇の芽をどうやれば摘んで潰せるか、いつか自分の答えを出してみたい。

この映画では、ファンタジックな脚色とともに、監督の半生と戦後チリ史とが縦横無尽に織り込んである。それでこのタイトルになったのだろう。かなりアクロバティックなダンスだ。
全てがイバニェス政権での出来事みたいにまとめてあるけれど、戦後のいくつかの政権下の出来事をミックスしてある。
曖昧にしか知らなかったので、wikiなどで軽く調べてみた。
やはりソ連からの亡命者やナチ残党が流入していたこと、そしてユダヤ人差別や先住民差別自体は大戦以前から存在していたこと。
ピノチェト政権時代、反政府主義者や同性愛者が連行され、拷問を受けたり埋められたり飛行機から投下されたこと(なぜわざわざ上空から?)。
最近一部で話題になっている映画『オオカミの家』や『コロニアの子供たち』に登場するコロニア・ディグニダというコミューンも、圧政者と癒着していて思想犯の拷問に利用された場所だったとのこと。
時間が経って経験者が話せるようになったからか、最近やたら軍政下チリの事例が目に止まる気がするけど、わたしだけに起きてる現象だろうか。
この映画の凄いのは、ひどい歴史をひどいまま描きながら、ひたすらコメディであり続けるところ。まだ血がドクドク流れている傷を笑えるタフさを、わたしも持ち合わせてみたいものだ。わたしは傷を庇ったりかさぶたを剥すようなことしかできてない。

ホドロフスキーはバンドデシネという種類の漫画作家でもあるようで、そのテイストも映像のキレに繋がっている気がする。絵コンテが凄そう。
この映画に出てくる宗教の色濃さも、南米ならではな感じ。信心深さと人間としての軽やかさは、共存し得るんだなぁ。不思議。
そういう国で一旦宗教を否定した時期があった歴史も、また興味深い。そんなの長続きしないに決まってるのに、理想に燃えた人間の無茶をすることよ。
日本で明治政府の号令で起きた廃仏毀釈でも、同じようにひどい迫害や文化破壊があったけれど、その反省は一部の研究レベルでしか浸透していないように思う。
つい最近も、京都の四条大橋の橋脚に廃仏毀釈で集められたお地蔵さんが使われているというのを記事を読んで、驚いた。全然知らなかった。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f4e7f78ec3aef53a45553eb9134d271acbbf8558
あんなにお地蔵さんを大事にする街でもそんなだったのだ。宗教も怖いけど暴政はもっと怖い。そしてそれらに乗っかってしまうのは個人。

色々検索しててみつけた座禅ポーズのホドロ氏。
http://ecocolo.com/journal/movie/000821.html
『エル・トポ』も見たいけれど、配信には来ないのかな。
最近一段と金欠気味で、なかなか映画館に行けなくて、色々心苦しいです。
これも、9割書いたところでなぜか一か月くらい寝かせてた。読み直して、まとまりが無いからだなと思ったけど、まとめられそうにないしもうこれくらいで投稿してしまいます。もう少しまとめ力を身につけたい。
キャプチャ写真は、色味が南米っぽいと思ったので、アマリリス。


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