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『POP LIFE: The Podcast』#280 『エルヴィス』をこう観た!…をまとめてみた!

始まった時からずっと聞いてる大好きなポッドキャスト番組、『POP LIFE: The Podcast』。今回、映画『エルヴィス』の公開を記念して、これまた私が人生を掛けて追い続けてるエルヴィスの特集を二回に渡ってしてくれてます!

まずはタナソーさん、三原さん、宇野さん、池城さんという座組が最高ですし、皆がエルヴィスを熱く語ってくれてるだけで涙出ちゃう。

途中、三原さんが「エルヴィスって話題が多いですね」と仰ってますが、エルヴィスを語ることはアメリカを語ることと同義。アメリカのあらゆるポップカルチャーや歴史に関係してくるので、話はついつい脱線してしまいがち。それに現代にエルヴィスを再定義するには、あらゆるジャンルからの言及が必要だと思うのでそれも致し方なし。

番組で語られてることはすべて重要な話ですが、もしかしたらまったくエルヴィスを知らない人達にはついていけないかもしれない。そこで勝手ながら副読本的に補足情報をまとめてみました。これを読みながら聞けば分かりやすくなるかもしれない。

何で番組にまったく関係ない僕がそんなことするかって?だってエルヴィスが好きだから!少しでも新しくエルヴィスを好きになる人が増えてくれますように。時間があれば第二回のまとめもしてみます。

以下、時系列

4:20~「バズ・ラーマンが『エルヴィス』を撮ったことについて」
バズ・ラーマンと言えばキラキラの画面と異常に多いカット数ですが、もう一つ、『ムーランルージュ』『華麗なるギャッツビー』と何かを失った人の回顧録映画、というのもあり、それは『エルヴィス』もそうですね。

5:45~「過去にエルヴィスを演じてきた俳優」
ハーヴェイ・カイテル(エルヴィスを名乗る男)、カート・ラッセル、マイケル・シャノン、ブルース・キャンベルetc。勿論良い俳優だがそもそもエルヴィスに似せる気はなさそう。ただここに名前を挙げた俳優たち同士は不思議に共通点がある気がする。何故か70年代以降のイメージのみを流布してきた歴史。

10:15~「『エルヴィス』は彼の全人生を均等に、逆に言うと間スカスカに描いている」
今回の映画で一番スカスカになったのは60年代の映画スター時代でしょう。僅か1分くらいのモンタージュで済ました。しかしその1分の間に密かにブリトニーやバックストリートボーイズの曲もミックスしており、映画時代のエルヴィスの境遇を語らずともうまく表現している。

12:57~「5,60年代の話をしてる時にラップはやめて欲しい」
これもバズ・ラーマン演出の(良い意味でも悪い意味でも)特徴で、『ムーランルージュ』ではニルヴァーナ、『華麗なるギャッツビー』ではヒップホップが。音楽の持つ背景や文脈を無視して演出に用いる。ただ今回は、最後の一点に向けて意志を持って、エルヴィス本人の音源、オースティンバトラーの歌唱、エルヴィス本人の音源に現代的アレンジを加えたもの、がモンタージュされており、そのバランスが絶妙だった。

17:00~「『ウォーク・ザ・ライン』」
ジョニー・キャッシュのバイオピックであるこの映画にも、エルヴィスは出てきますが…。エルヴィス、カール・パーキンス、ジェリー・リー・ルイス、ジョニー・キャッシュが偶然サンレコードで出会った史実はこちらの音源で。

よく言われるように「エルヴィスはガールフレンドとすぐに出て行った」というのは誤りだと思う。エルヴィスだけはいつまでもピアノに向かって歌っているのが分かる。

17:50~「パーカーにも普通に奥さんがいて…パーカーも悲惨な末路を」
ちなみに物凄く子煩悩なお父さんだったそうです。パーカーがメフィストフェレスでエルヴィスがファウスト、というより化け物と化け物の食い合いだったわけです。パーカーもまたエルヴィスという強大な力を手に入れてしまい、人生が大きく狂った。

20:00~「パーカーの出自であるカーニバル、パーカーの手法」
オランダでも不法入国したアメリカでもパーカーはカーニバルで働きます。好きなエピソードがあって、巨大なホットドッグを売るんですが、実はパンの両端に短いソーセージしか入っていない。翌日苦情を言いに来た客に「お前、昨日真ん中のソーセージ落としたぞ」と用意しておいたソーセージを見せたそうです。劇中のバッジの話は事実。またヴェガスではレコード会社に許可の要らない、エルヴィスのライブ中のMCを集めたレコードとかを勝手に売ってたそう

21:00~「パーカーを通してエルヴィスを描く」
ビートルズの時代とエルヴィスの時代で違う事は幾つかあるが、ジャーナリストが密着してミュージシャンの生の声を聞き残す、みたいなことがエルヴィスはなかった。劇中で使われたいくつかのスピーチしか残ってないので、エルヴィスを描く創作者側が何かを投影せざるをえないのです。

23:00~「エルヴィスとニクソン」
ニクソンに呼ばれた訳でもなく、エルヴィスは突然ホワイトハウスに突入しました。きっかけは朝、家族や仲間から金使いの荒さを指摘され怒って家を出てしまったことらしい。そこから財布も持ってない、長年一人で外出したこともなかったエルヴィスがどうやってワシントンに着いたのか、未だに謎らしい。ニクソンと写ってる写真をよく見るとエルヴィスは寝癖が付いており、政治的な野心というより思い付きの珍道中だったことが伺い知れる。バッジコレクターであるエルヴィスは、特別なバッジが欲しかった、とも。しかしこの写真は、いつまでもエルヴィスの闇の部分、的に紹介され続けています。

『エルヴィスandニクソン』はエルヴィスの側近のジェリー・シリングが語ってる内容とかなり近く、コメディ映画になっています。

今回の『エルヴィス』では確かにこの件はオミットされてますが、パーカーの背後にこの写真が貼られてるのが何度も映り込んでます。

26:20~「エルヴィスとビートルズ」
65年にビートルズとエルヴィスは邂逅します。場所はグレイスランドではなくエルヴィスの別邸。簡単なジャムセッションなどもあったようです(エルヴィスはベースを弾いていた)。ジョンが途中「ベトナム戦争についてどう思うか?」と聞いたことで雰囲気が悪くなったそう。
エルヴィスがニクソンに「ビートルズは有害だ」と進言したという話もありますが(俄かには信じられない)、実際にはエルヴィスはビートルズの曲も4曲ほど歌っています。『エルヴィス』にも68カムバック〜でビートルズに触れるシーンがありますね(あれも実際の話です)。
ビートルズの登場で「エルヴィスは死んだ」とまで言われたのに、「良い歌だな〜」と気軽に歌っちゃう。こういうところが天然で好きなところです。
ジョンは「エルヴィスのプロデュースをしたい」と湯川れい子さんに言っていたそうだし、ジョージはエルヴィスのMSG公演を見に行ってるし、ポールはエルヴィスの初期バンドのベース、ビル・ブラックのベースを手に入れてます。

同じくエルヴィスファンのボウイを前にエルヴィスの刺繍入りジャケットで決めるジョン

29:30~「エルヴィスが日本で評価しづらい3つの理由」
①『エルヴィス・オン・ステージ』の頃のビジュアルイメージのみが流布している…僕が好きになったのもこの映画なので、本当に格好良いとは言っておきます!

キャリア最初期にエルヴィスインパーソネーターとしてドラマ出演するタランティーノ。一人だけ50'sファッションなのがこだわりを感じる

②アルバムアーティストではない…唯一コンセプトがハッキリしてるのはゴスペルアルバム、あとは不毛だと言われ続けてきた『ブルーハワイ』『G.I.ブルース』など映画時代のサントラはむしろ今の耳に耐えうるはず。事実、小西さんが選曲したエルヴィスのベストは殆ど映画時代から選ばれていた。映画時代のサントラは細野さんのトロピカル三部作と比べて聞くと現代に蘇ると思う。
ただ、ヒップホップ以降、サブスクやプレイリスト時代においては、アルバムより曲単位での聞かれ方が一般的になってきており、エルヴィスにとっては追い風かもしれない。

③作詞作曲をしていない…演奏者が作詞作曲まで手掛ける、というのは音楽史の中で言えばむしろ物凄く最近の文化であるはず。クラシックピアニストに「曲を作れ!」と言うだろうか?エルヴィスはむしろ他人の歌を歌ったからこそ、独自性が際立った。曲を作るより歴史を作ることの方がどれだけ凄いのか。タナソーさんが言ってるドキュメンタリーは多分、NHKで放送された『エルヴィスはあなたの町で歌いましたか』という番組。とあるアーティストがエルヴィスの関係者に会ってひたすら「なんでエルヴィスは曲作らないんですか?」と尋ねる、怒髪天を衝く内容でした。

そして②③は現代の音楽観ではむしろ当たり前になってきた。ついでに言うと①も圧倒的なアーティストがデカいショーを繰り広げる、というのも復権してきたと思う。つまり、エルヴィスを貶める言説に使われてた主張がすべてがひっくり返った!

35:50~「エルヴィスと黒人音楽の搾取の問題」
ここで池城さんが仰ってる事は本当に重要。黒人の当事者の主張は分かる。でも例えばエルヴィスがいなかったら、我々日本人がビッグ・ママ・ソーントンの名前を知ることが出来たのか?日本人が根拠もなくエルヴィスはレイシストだ、という主張に乗るのは何故か?優れたアーティストはまた別のカルチャーへの媒介者にもなる。僕はエルヴィスの熱烈なファンだけど、彼だけが特別だと言いたいのではなく、彼を音楽史の繋がりの中にきちんと戻すべき、と言いたい。

38:00~「エミネムとブルーノ・マーズ」
エミネムは『8mile』の中で「エルヴィス」と呼ばれ馬鹿にされています。その意味は分かりますよね?ブルーノ・マーズもエルヴィスと同じく黒人音楽の搾取と叩かれましたが、不思議なことに彼はエルヴィスのインパーソネーターとしてキャリアをスタートさせています。映画『ハネムーン・イン・ベガス(1992)』では7歳の頃のブルーノ・マーズが見られます。

46:00~「デイブ・マーシュとグリル・マーカス」
僕もこの二人と同意見で、「エルヴィスはずっと凄かった」。凄さのありようが変化するだけで、基本的にはずっと凄いことをやっていた。特に僕は「嘲笑の的にされてきた最晩年のエルヴィスこそ至高」と考えていたので、今回の『エルヴィス』はそこを知らしめただけでも100点なんです。

48:30~「エルヴィスに着いて書かれた本」
これはゴシップ本含めて死ぬほどたくさんある訳ですが、僕もグリル・マーカスが好きです(『Dead Elvis』とか)。プリシラの『私のエルヴィス』、あと今回の映画はちょっとプリシラの意見が強すぎ…やめときます。

あと凄く高いんですが、この写真集が本当に凄い。これさえ見れば「何故エルヴィスが愛されたのか」、すぐに分かると思う。

51:00~「パーカーが何故国を出られなかったか?」
今回の映画でもちょっと匂わせてるんですが、「何故アメリカに逃げてきたんだ?」と。これはファンの間では知られてると思いますけど、つまりパーカーはオランダで殺人に関わったんじゃないか?という噂があるんです。噂ですよ。

54:00「エルヴィス良い奴過ぎ」
これは実際にそういう人だった(勿論、様々なゴシップと悪評ありながら)と思う。70年代以降のライブ見てても、とにかくバックバンドが楽しそうなんだよな。「なんかやってくれそうだぞ」という感じで。『エルヴィス』に唯一足りなかったのは、朗らかで陽気で冗談ばっかり言ってるエルヴィスかも。

56:15「エルヴィスとマイケルとプリンスが同じ死因」
エルヴィスもマイケルもプリンスも「薬の過剰摂取」と言った時に、処方薬なんですよね。ここが怖い。マイケルとエルヴィスはやはり不思議な因縁があって。マイケルの映画が『This Is It』、エルヴィスが『That's the Way It Is』、どちらも「これだよね」って同じじゃん!

1:00:50~「チャックDの話」
Public Enemy は『Fight The Power(1989)』の中で「Elvis was a hero to most But he never meant shit to me you see Straight up racist that sucker was」「エルヴィスは大多数にとっちゃヒーローかもしれねえけど、俺にとっちゃ糞だ。あいつはただのレイシスト」とライムしました。

しかしチャックDが後年、自分の口で「エルヴィスに対しては言い過ぎだった」と語っているのは、例えば2017年の『The KING』というドキュメンタリー映画で確認できます。

ただ、『Fight The Power』は今聞いても確かに鼓舞されるものがありますよね。そこがエルヴィスファンには悩ましいところ。

ちなみに私が4年前に『68カムバックスペシャル』について語ったポッドキャストは、「白すぎるアカデミー」と批判されスパイク・リーがボイコットした第88回アカデミー賞から話が始まる。もし良かったら聞いてみてください。

1:06:50~「エルヴィスとパンク」
「エルヴィスはもういない」とデビューシングルのB面で歌ったクラッシュが、『LONDON CALLING』(1979)ではエルヴィスのデビューアルバムジャケットを引用したのは有名な話。

ジョン・ライドンは「あいつは曲も作れない豚だ」と罵ったし、後年になっても確かビリー・ジョーも同様の発言をしていた筈。しかし僕がピストルズを最初に聞いて思ったのは、「なんか初期エルヴィスを思わせる3コードのロックンロールだな」でした。ジョン・ライドンですからね、額面通りに受け取って良い発言だったのだろうか?

また、ラモーンズのジョニー・ラモーンは大変なエルヴィスマニアであり、イギリスとアメリカでもエルヴィスへの距離感はまた違うのだろうか?(ちなみにイギリスは今でもエルヴィスの何かが発売されるとアメリカよりチャートの反応が良く、確か十数年前まではなんとビートルズよりもエルヴィスの方がNo.1ヒットの数が多かった筈)

1:07:35~「ボブ・ディラン」
エルヴィスはディランの曲を数曲歌っているが(『風に吹かれて』『くよくよするなよ』)、ディランはそのことをずっと誇りにしていたという。それにしてもディランまで歌ってしまうエルヴィスの無意識過剰っぷりが大好き!

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