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企業が事業から撤退するポイントはどこに置くべきか

今日は、とある大きな企業と話をしていて思ったことを。

その企業は誰もが知る通信系の企業Aで、とあるジャンル(仮に事業Fと呼ぶ、ソフトウエア産業)の事業にも取り組んでいた。しかし、その本業である事業の業界シェアとは裏腹に、事業Fでは業界7位か8位くらいに甘んじていた(しかも、その業界のTOP4とは大きく水をあけられている)。

F事業は成長を見せているとはいえ、この先どこまで拡大するかも不明だし、そもそも拡大している市場の伸びと同じくらいかそれ以上にAが伸びている様子はない。同じ通信業界でF事業に乗り出している企業BはTOP4の中に食い込んでいるというのに。

企業が事業からの撤退をするポイントは、通常いくつかある。
①予算(売り上げ目標)に数年間達しなかったとき
②予算はかろうじて達成しているが市場の成長性が見込めないとき
③予算はかろうじて達成しているがTOPに水をあけられて、敵対的買収やいくつかの手段以外でTOPに肉薄することが不可能となったとき
④当初の目標を見失ったとき

①については誰もがわかるだろうが、②③については結構企業としてはとても問題があって、リソースの無駄遣いにつながることがある。

大企業というものは無茶苦茶にいろいろな事業を乗り出すということはほとんどない。思い付きで何かやるのは一族経営の大企業や中小企業だ。

新しい事業は、自社の強みを活かして新しい事業拡張を目指して、入念な準備と予算をもって行うことがしばしばである。しかし、残念ながらすべてがうまくいくわけではない。問題なのは、そのやりかけた事業をどこまで引っ張って、どこで見切りをつけるかということなのだが、この決断はいつも遅い。なぜなのか。

(1)自社の強みである別事業と強く関連している
単体で利益が出せないといっても、別事業と強く関連しているからという理由で行い続ける理由がある。しかし、これは実は怪しくて、その別事業と関連しているにもかかわらず、B企業は成功してA企業は成功できているとはいい難い。これには根本的な理由があるはず。ひょっとしたらその強みと言い張る別事業そのものに何等か問題を抱えているということが考えられる。そこに気が付かなければ、現在は強みとなっている事業と共倒れということもありうる。

(2)市場が伸びているようにみえるから
この理由で事業を続けてしまうことは多くの企業で見られる。しかし、それは往々にしてその業界TOP企業がマーケティング活動でどんどん市場を広げる役割を担っていることが多く、業界5番手以下や新興企業が「割って入る」「新興勢力が新しい市場も切り開く」ことは実際は少なく、TOP3,4社が取りこぼしたお客を丁寧に拾っていくくらいしかない。
(個人的な見立てだが、最近のuberなどケータリング事業や、農産物の産直ECサイト事業はこれにしか見えない)
しかし、たいていの場合、その顧客から得られる利益と顧客獲得コストが見合わないので、成長市場の割には利益率が低いという場合が多い。おそらく経営者はここで大きな勘違いしている。

製品ライフサイクルの話はよく知られているが、成長期は「売り上げの拡大とともに利益率が高まる(=製造コストの低下)」と言われている。しかし、製造業はそれでいいが、サービス産業(ソフトウエア産業)では、成長期に必要なのは営業力と「改善力」であり、次々と起こる顧客からの改善要求やバグの解消といったところにこたえていく必要がある(特殊なサービスや権利が絶対的に確保できないようなサービスでない限り、後発者は必ず存在する)。そのため、成長期は成長期で多くのコストがかかる。

プレゼンテーション1

A社としては、後発者であるがゆえに、マーケティング費用も余分に掛かる。市場が成長している割には売り上げが伸びないのはここの費用のかけ方が間違っている可能性が高い。

さて、そしておそらくこのF事業についてはそろそろ大きな転換点を迎える。市場の伸びはまだ続きそうだが、サービス提供側に求められる仕組みがさらに変わってきそうな様子だ(簡単にいえば法律が変わるとかルールが変わるということだ。会計ソフトウエアが会計基準とかの法律などが変われば仕様変更を余儀なくされるというような話に近い)。

となると、A社としてはますます投資が必要になる。それだけでなく、新たなルールの下ではより提案型の営業などが求められそうな状況で、営業面の充実などソフトウエア面以外のリソースも用意しなければならないかもしれない。要するに、とある事業ジャンルにおいては、先の図で言う「衰退期」のところには、『変革期』と呼べるようなシチュエーションがきたりする。それに対応できるかどうか。

客観的に見てA社は巨大企業と言えど、これ以上この事業に拘るべきではない。拘るのであれば、弱点を補完するような別企業を買収するか提携するなどしてTOP企業と戦う力をつけない限り無駄金を費やすばかりで、他の事業にも影響が出るのではないかと思う。

先に書いたような④というのは、当初の目的を見失うということだけでなく、「当初描いていた計画と乖離したが、それを何とか繕ってしまっているうちに今後どうしていけばいいのか担当役員なども分からなくなっている」ということも含まれる。

なので、企業が事業を判断するためには、【⑤思い描いていた当初の計画と仮がないか定期的に検証し、それがいかに乖離していったか、その経緯と原因をしっかりと理解し、反省をしたうえで、たとえ利益が出ていようとほかの事業とのかかわりがあろうと、ある程度の乖離(当初売り上げ目標が基準になるだろう)が生じた時点で事業停止を判断する】ことが望ましいのではないかと思う。しっかりそこまでやれている企業の方が少ない気がするが。




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