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名産品開発はなぜ失敗するか~地方創生のための名産品開発~

昨日、ためしてガッテンというNHKの番組を見ていたら、梨の特集がされており、その中で私がたまたま今年から支援している兵庫県丹波篠山市の某地区で育てている梨が出てきた。

(上記HPはマジでインターネット遺産になりそうなものではあるが、ちゃんとした先生のホームページであることは間違いない。)
神戸大学の片山先生が熱心に研究している原種に近い梨で、非常に香り成分が強い。ただし、「そのまま食べても全く美味しくない」。
しかし、ジャムにするとそのかおりが活かされ、とても美味しいジャムになる。神戸のとある会社で製造されており、その希少性からすぐ売り切れになってしまう。
片山先生の指導の下、丹波篠山市のあるエリアで数十本のこの梨があるが、いままで本当に知る人ぞ知る状態であった。かつ、本来の生育地である岩手などではほとんど見ることができない。つまり、日本で本格的に栽培しているのはこの地区だけなのである(地区名はあえて伏せておく)。

さて、こういったものを、何とか地域の名産物にしようという取り組みが日本各地で行われている。しかし、そういった活動のほとんどは芽が出ず、あるいは最初は頑張ったがしりすぼみになっている。

名産品とは、その地区で作り続けられているもの、その土地にしかないものなど、いくつかの条件がある。しかし、名産品である条件のもう一つがなぜか忘れられたりする。それは、「美味しい」ということだ。

良くある話なのだが、「その土地の名産品」といいつつ、都会の人の味覚に合わなかったりする。また、現代人の味覚に合わないものであったりする。そもそも伝統的な食品・料理は、保存を利かせるために塩を大量に使ったり、醤油で煮詰めたりしている。そのために、名産品の野菜や食材そのものは味が薄かったり、堅かったり、小骨が多かったりする。例えば冬瓜の炊いたものは私も大好きで、いくつかの地方ではよく作られていたが、味を含ませるのに時間もかかるので、なかなか現代では作るのに敬遠されるものでもある。こういった「現代のライフスタイル・味覚」を知らないで、名産品を作ろうというのは難しいものだ。

まだ理由がある。それは、その農産物を作るのが非常に手間だということだ。農家の高齢化が進む中、手間をかけることには限界が来ている。例えば、奈良県奈良市月ケ瀬地方では、かつてスイカの生産が盛んであった。ただ、他の地方でも品質のいい生産が伸びただけでなく、「重い大きいスイカ」が家庭で敬遠されるようになり(冷蔵庫入らないし、家族の人数も減っているので大きなものがいらない)、小型スイカの生産地にとってかわられた。輸送も大きな負担であるし、何より高齢化した農家がスイカを抱えて収穫する作業も大変である。伝統野菜といわれるもののほとんどは、手間がかかる(受粉で血統が乱れることを防ぐとか、病害に弱いとか、樹勢が強すぎて剪定が頻度高いとか、、、)。そのため、現代の農業では敬遠される。それだけ手間をかけても高く買ってくれる人が多いわけでもないし、そもそも悪が強くて料理にも手間がかかる(その結果美味しくなることもあるが、現代人の舌から見て素晴らしいかというと、正直そんな野菜は多くない)。

「地域の名産品」は、こうして消費者に対する訴求力も低く、生産側から見ても維持継続がしにくくなっていく。そのため、新しい名産品づくりに各地域は力を入れようとするが、往々にしてそれは陳腐化する。たとえば、トマトであったり、米であったり、ブドウ(ワインなど加工品含む)であったり。それなりの歴史があるならまだしも、数年~10年くらいの生産の歴史で「名産品」というのは消費者から見ても購買意欲としては低い。また、そもそものプロダクト(トマトなど)自体がどこにでもあるものである。和歌山や静岡のミカンのように、産地全体でブランディングできていればまだましだが、小さなエリアで生産されているものくらいで産地形成、ブランディングは難しい。

こうしたことから、新しい名産品づくりは各所で失敗する。むりに計画を作ろうとするとこんなことにもなる。

では、どうするかというと、「生産者」「消費者」「地域」のお互いのバランスをとるようなコーディネーターが必要だ。地域の中で本当に希少なモノやストーリー性があるものと、消費者のニーズに合わせた商品開発と、決して多くない生産量に合わせた販売計画や適切な加工品づくりを行う人が。

今回の「イワテヤマナシ」は、摘果という農家にとって重労働な作業がほとんどいらない。なので、高齢化が進む地方にとっては救世主であるが、当然、多く生産されれば陳腐化する。すべてジャムにするわけにもいかない。どういう製品が、他果物との差別化ができ、そこそこ高く売れて、地域にとって継続できる産業となるのか。そこを測りながら、丹波篠山の新しい軸に育てていきたいと思っている。

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