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WITHコロナ時代の地産地消とは ~福島県での講演~ その1

ありがたいことにいろいろなところでの講演の機会もいただくのだが、講演としては最も遠くまでお出かけすることになった福島県いわき市。
そこでの講演内容を何回かにわたって書き記しておきたいと思う。
ちなみに11月24日郡山市、12月3日に会津若松市でも同じ内容で講演します。


現在の地産地消における問題点

地産地消といっても、一口にいろいろある。中でも推奨されているのが、地域内の施設や給食で使っていこう、という動きである。食育もかねて、ということでいろいろ良い面もありそうだが、大きなハードルもある。

一番高いハードルは予算面だ。特に施設ではそこまで大きな金額を費やすわけにはいかない。その制約の中で、栄養管理もしなければならない。またそれなりに数量を確保できる農産物でないとメニュー作りがしづらい。施設や給食を必要とする人がどれだけいるかにもよるが、こういうところで地元の農産物を本格的に使うのであれば「年間スケジュールを作って、そこから逆算して農業の作付け計画に踏み込まない限り、徹底は難しい」

ただ単にスポットで農産物を使うというのであれば、農家にとっても手間であるし、野菜を取りまとめる人も苦労する。施設や給食のメニューはスケジュールが決まっていて、そのタイミングに合わせて出荷してくれないと段取りすべてが狂う。飲食店でオーダーを少し変えるくらいのことではない。

現在そういう調整役として「コーディネーター」を配置している都道府県は多いが、その「コーディネーター」より強力な指導が必要である。段取りの話をしたが、人手の問題もあり、生の野菜そのままでは介護施設などで十分に料理できない、給食センター等で加工を引き受けるにも限界がある。なので、ある程度産地などで皮むきやカットなど加工してくれているものでなければこうしたセンターで受け入れられないものが多い。

地域内のこういうセンターで地産地消を進めるのであれば、地元内で1次加工施設の設立、あるいは共同化や統合を考えていく必要がある。


次に「地産地消」でよく言われるのが「食文化の伝統継承」ということだ。その土地で作られているもの、伝統野菜を後世につなごうという運動が軸となり、その野菜の料理を若い世代にも食べてもらおうという話である。

しかし、大半の日本人の生活者の食生活が変わってしまっている&作り手も高齢化のなかで、そういう「昔ながらの料理」を引き継ぐことには限界があると私は思う。昔ながらの料理というものは、保存性や当時の食生活の面から、塩味が強かったり、味付けが濃かったりする。そういう味を今の若い人はまず受け入れられないし、栄養面(塩分過多)から高齢者だってもう受け入れられなくなっていることの方が多い。

伝統的な食事を「守る」ことより、「うまくつなぐ」ことも考える必要がある。食生活というものは時代とともに変わるのである。伝統野菜が活きる他の料理法を考えて、若い人たちに受け入れられる可能性を高める=市場性を持たせることの方がよい場合の方が多いのではないか。

私もかつて大阪の伝統野菜「天満菜」を保存する団体を立ち上げることを支援したが、やはり多くの人に広めるのは非常に難しいと感じた。伝統野菜は多くの場合その育て方が困難ということで生産量が減少していっているが、品種改良によって「よりおいしい」野菜が現れたことで追い出されていったのである。

しかし料理法は日に日に進歩している。新しい料理人がその特性に気が付くかもしれない。そういう可能性を探ることは料理の世界にとっても非常にプラスなはずだ。

少し話は違うが、アメリカのダラスではタイ焼きが流行っているという。

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しかし、この「タイ焼き」を経営しているのは韓国系の企業だという。料理は形を変えて世界に広がる。「日本伝統の和食」「日本古来の手法」にこだわりすぎていて市場を失うという事例かもしれない。こういう企業を批判する人は、日本人が作るイタリアンレストランにはいかない人なのだろうし、サイゼリヤなんて絶対許さないのだろう。カリフォルニアロールなんてもっての他かもしれない。しかし、現実的にはラーメンは世界中に「日本から」進出しているし、結果として世界中から「日本の寿司」を食べに来る人が増えた。物事は大局的に見ることも肝心だ。


3番目に課題なのは、農産物だけでない。「エネルギー、副産物利活用、その他」の地産地消を進めていこう、ということである。

具体的に言えば小水力発電やバイオマスエネルギーなどである。しかしこれは規模の大きな投資も必要とする(小水力は比較的安いが、発電場所に送電施設があるかという問題がある)

地域にあるものはすべてお金にする!というくらいの意気込みは必要であるが、その利用方法のアイデアがまだまだ足りない。

一方で、兵庫県多可町にあるNPO法人CAMBIOでは、獣害の原因である鹿を駆除し、その肉をペットフードに加工して販売し、人気を博している。

おそらく、地域ごとで「ペットフードの自給率」という観点で見れば、ゼロの地域がほとんどだろう(最近の猫や犬は残飯では満足しないらしい。贅沢な。)。
もちろん「家族」に対して美味しい食事を与えたいという思いもわかる。ならば、獣害対策や未利用魚対策を兼ねて地域資源を活用することを考えてみたらどうだろうか。何もマグロやビーフやチキン(しかも海外産)でなくても、美味しい食事をペットに与えることはできるはずだ。ちゅーるまで加工するのは難しいかもしれないが。


次回は、WITHコロナ時代で地域の食経済(観光業や飲食業を中心とした食経済)はどうなっていくのかを書こうと思う。

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