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【かんがえること】 第7回 西山芽衣の語ることについて考えること 

染谷拓郎が考えること

 「巨人の肩の上に乗る」という慣用句がある。これは、先人たちが積み重ねてきた学問の成果や技術があってこそ、新しい発見ができるということだ。科学も文学も芸術も、すべて、過去からの応答に対する返答によって成り立っている。この「語ること」も、ゲストの肩に乗ることで僕や廣木さんがより遠くを見通すことができる。つまり、自分たちが一番成長機会を得ることができるトークシリーズなのだ。いい大人なのに自分のことばかり考えやがって、と言われればそれまでなのだが、あなたも一緒に肩に乗って遠くを眺めてみましょうよ、と思う。とりわけ今回の西山さんの回は、たくさんの人に読んでもらいたい内容だ。

 僕らは、今回の西山さんの肩をお借りして、ある街を見渡すことができた。その街では、めいめいの市民が自分がやりたいことを実現するための場や機会を知っている不思議な街だった。それは、西千葉にある。西千葉の街中にある西千葉工作室。パッと外から見ただけでは、何屋さんか分かりづらいが、中では真剣な目つきで3人ほどがそれぞれ工具やミシンなどを使いこなしていた。

 今回の西山さんの話を改めて読み返したあとで西千葉工作室を訪問したので、目の前で起きている現象がどのような想いで実現しているかがよく見えてくる。西山さんが言う「手段としてのものづくり」がここにあるのだ。

 よくビジネス書などで「手段を目的にするな」と言われる。本来実現したい目的に対して、それを実現するための手段だったのに、いつのまにかそれをやることが目的になってしまう。「予算達成のために定例mtgをしましょう、といっていたら、定例mtgをすることが目的になってしまう」みたいなこと。西千葉工作室をみていると、手段が目的化することはないと思えるミニマムさがある。たぶんこれが超豪華な設備だとすると、設備を使ってみることが目的になってしまうかもしれない。結果的に環境や設備によって定義された側面も感じられて面白かった。

 さて、回の後半はプロデューサーや企画担当者に参考になる話が繰り広げられている。自主事業とクライアントワークの展開の仕方なんかは、いまひらくと言う会社を経営しはじめた僕にとってもとても勉強になった。パブリックシップとはなにかを考え、事業に結びつけていくこともそう。開いた場の作り方と運営の仕方を、幾多の実践から作り上げていき、それを立板に水のごとく話せるようになるまで、どれほどの苦労があったことだろう。

 僕は西山さんを尊敬している。

廣木響平が考えること

『インプットはインプット、アウトプットはアウトプットじゃなくて、インプットとアウトプットがすぐそばにある。』(【きくこと】西山さん会より)

1960年代後半にNYを拠点に活動したバンド、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは、かの有名なバナナのファーストアルバムが発売されたときは全く注目もされず、5,000枚しか売れなかったが、そのアルバムを聴いた者は全員バンドを始めたとブライアン・イーノは言う。

あるいは、1976年にマンチェスターのフリートレードホールで行われたセックス・ピストルズのライブに訪れたバーナード・アルブレヒトとピーター・フックはその後すぐにバンドを始めることを決意し(その場にはイアン・カーティスもいた)、それは後のJOY DIVISON、そしてNEW ORDERとなる。ちなみにその会場にはマーク・E・スミス(ザ・フォール)、ピート・シェリー、ハワード・ディヴォート、スティーヴ・ディグル(バズコックス)、ファクトリー・レコーズのトニー・ウィルソン、そしてモリッシーもいて、彼らもバンドを始めたりなどの多大なる影響を受けている。

インプットがアウトプットへと変容する初期衝動。

西千葉工作室では日々そんな光景が繰り広げられている。

マンチェスターの少年たちがインプットされた衝動をアウトプットするためにギターという武器を手に取ったように、西千葉の人々は西千葉工作室の機器という武器を手に取る。

そしてそのインプットの主は西山さんであり、彼女はルー・リードであり、ジョニー・ロットンなのだ。つまり控えめに言っても神。

国内に少しずつ拡がるデジタル工作機器をはじめとするファブは置いてあるだけではダメだ。インプッター(そんな言葉があるかは知らないが)がいないとダメなのだ。

『何かをインプットしながらアウトプットするし、アウトプットしながら「あれれ?」って思うことはたくさんあって、アウトプットしたから「あれれ?」って思うことって結構あって、そのアウトプットして「あれれ?」って思ったものをまたすぐ手に取ってインプットできるっていう、インプットとアウトプットのサイクルが同じ場所で行えるってすごくいいなって思うんですよね。』(【きくこと】西山さん会より)

図書館には幸運にもこれを実現する二つのインプッターがある。

それが本と司書だ(そうあって欲しい)。