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【きくこと】 第5回 亀田誠治(日比谷音楽祭実行委員長・音楽プロデューサー・ベーシスト) わたしを形づくった本たち

亀田誠治
1964年生まれ 日比谷音楽祭実行委員長・音楽プロデューサー・ベーシスト
これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、山本彩、Creepy Nuts、石川さゆり、東京スカパラダイスオーケストラ、MISIA、アイナ・ジ・エンドなどのサウンドプロデュース、アレンジを手がける。
2004年に椎名林檎らと東京事変を結成し、2012年閏日に解散。閏年の2020年元旦に再生を発表。
2007年第49回、2015年第57回日本レコード大賞、編曲賞を受賞。
近年では、J-POPの魅力を解説する音楽教養番組「亀田音楽専門学校(Eテレ)」シリーズが大きな話題を呼んだ。
2021年には、映画「糸」にて第44回日本アカデミー賞、優秀音楽賞を受賞。

5月19日(木)19時からの生配信無事に終了しました!🤟ありがとうございました!当日の様子は↓からご覧いただけます!

染谷:皆さんこんばんは。「図書館について語るときに我々が語ること」第5回ゲストは亀田誠治さんをお迎えして進めていきたいと思います。よろしくお願いします。

廣木:よろしくお願いします。

染谷:YouTubeをご覧の皆様、本日は生配信ということで1時間たっぷりお届けしたいと思います。コメント欄が公開になっていますので、ぜひコメントなどあればお受けしたいと思います。

今日は1時間ですが後半は質問の時間も設けたいと思います。そもそもこのイベントはどういうイベントなのかを簡単にご説明してから亀田さんをお呼びしたいと思います。

改めて株式会社ひらくの染谷です。今日はよろしくお願いします。

廣木:図書館総合研究所の廣木です。よろしくお願いします。

染谷:このイベントは第5回目になりますね。

廣木:昨年の図書館総合展(2021年11月30日)から始まって今回で5回目になります。本日のゲストは亀田さんということで、超大物ゲストが来てくださいました。

今回初めて見る方もいらっしゃると思いますのでご説明します。図書館の在り方が今どんどん変わってきています。

我々は図書館や本に関わる業界の人間で、ずっと図書館や本にずぶずぶなんですけど、これからの図書館とは何だろうと考えた時に、もっと違う業界の人と色々話をして、そこで活躍されている方のお話から、図書館に繋がる色々な考え方があるだろうという中で、もっと図書館の外に飛び出していこうということから始まったプロジェクトです。

こういった形でゲストをお呼びして、お話を聞いて、それを基に我々で考えて、最後、つくる。つくるというのは、図書館そのものを造るのかもしれないですし、何か違う新しいものかもしれないし。そういうプロジェクトになっております。

染谷:このイベントを月1ペースでやっていくので、皆さんこれからもチェックしていただきたいと思います。

では早速今日のゲストをお呼びしたいと思います。それでは亀田さんよろしくお願いします。

亀田:よろしくお願いします。

染谷:ゲストで亀田さんがお越しくださると決まってから結構そわそわしていました。

廣木:本当に来てくれるのかって。

亀田:僕もノリノリで、僕は本当に本を読むのが好きで、自分がたくさんの本に支えられて今があるのを常に実感するんですよね。

今日僕が本のことを語るのって人生初かも。

染谷:なかなかない機会ですね。

亀田:なのでめちゃくちゃ貴重なお話になると思います。何でも聞いてください!正直に答えます。

廣木:今日はこの画面(後ろのモニター)を見ながらお話をしようと思います。これはリブキューブというものなんですが、元々DNPという会社が、文化財などをデジタル上でどうやったら新しい出会いをしてもらうかというのを追求した時に作った(みどころキューブをカスタマイズした)ものなんです。

これを僕は本にも使えると思いつきまして、こういう形で本が立方体の中に入っているんですが、改造というかカスタマイズさせてもらっています。

今回そもそもなぜ亀田さんに来ていただけたかというと、6月の頭に日比谷音楽祭が開かれますが、そこに図書館流通センターが協賛しています。図書館総研を含めたTRCグループとして盛り上げていきたいと。

亀田:ありがとうございます!

廣木:日比谷音楽祭と本をどの様に繋げるかという中での仕組みになっています。「わたしを形づくった本たち」と書いてありますが、今回4名のアーティストの方に、自分で読んで人生に影響を与えた本という観点で5冊選んでもらっていて、その本に何歳の時に出会ったかを表しています。

染谷:縦軸が世代ですね、20代で出会ったとか30代で出会ったとか。

廣木:(選書していただいたアーティストは)GAKU-MCさん、RIOさん、YOYOKAさん、亀田さん。亀田さんのところを選択すると、紫色になっているところは亀田さんが選んだ本になっています。ちなみに底面は出版された本の年代をプロットしています。

染谷:その本が発売になった時ということですね。

廣木:そうです。ただ(年代だけを)描いても面白くなかったので、野音のプチ歴史みたいな感じで、野音が1923年に大音楽堂ができたところから始まっ(た絵を描いて)ています。

亀田:来年で100周年なんですよね。

染谷:100周年なんですね!

廣木:それから色々ありましたよ。キャロルの解散とか。

亀田:清志郎さんも描いてあるじゃないですか。エレカシの宮本さんも!

廣木:そして2019年の日比谷音楽祭。

亀田:あれは石川さゆりさんと布袋さんじゃないかい?!なかなか上手ですし嬉しいですね。こうやって可視化されるとわくわくします。

廣木:ちなみにこの絵は私が描きました。

亀田:え!!

染谷:廣木さんのイラストすごいんですよ。

亀田:今日は廣木さんのマルチタレント性が!さっき僕のことを駐車場で誘導してくれましたよ。そこまでできる!

廣木:そういうこともできます。その前は小石川図書館に行きたいけど道に迷っている方に「こちらですよ」と図書館までの道を教えたりしました。

亀田:ミスター人助け!

染谷:今日はたくさんの徳を積んでます。

わたしを形づくった本たち1冊目 汽車時刻表

廣木:まず亀田さんの1冊目は『汽車時刻表』です。

染谷:これは何歳の時の本ですか?

亀田:年頃としては5歳、6歳くらいですね。その頃から時刻表を見るのが好きで。時刻表は要するに、例えば何時何分にのぞみ何号が東京駅を出て、停車駅は新横浜や名古屋という様な。もちろん当時はのぞみ号はなかったんですけどね。

そういう中で、時刻表を見ることによって、日本中を旅している感覚と、あとは時間と距離。

例えば時速60キロだと、1分で1キロ進むというのがわかる。そういうのが算数とかそういうことではないところから体感的に入ってきて。

あとは日本地図が体の中に入るわけですよ。主要都市とか、どんな街にどういう路線が走っているとか。

あとは国鉄からJRになってとか、そういう経済の動きもそうですし、なんか時刻表を見るのが本当に好きですね。

ちょっと重なると、大体小学校中高学年からなんですけど、この時期から僕は時刻表だけでは物足りなくて、地図を買うんですよ。

昭文社の東京23区の地図が好きで、そこに自分で、例えば地下鉄が大きな道路の下に通っているとか、高速道路は昔川があったところを暗渠にして走っているとか、法則を見抜くんですよ。

そうすると今度は何がしたくなるかというと、自分で新しい路線を引きたくなるんです。地図上に新しい地下鉄の路線を引いて。

例えば京王井の頭線は渋谷駅で止っているんですけど、せっかく渋谷まできている井の頭線をここで止めてはもったいないと思って、渋谷から自分で井の頭線の線路を伸ばして、青学の下を通って、六本木通って東京駅通って。

染谷:便利な線になりますね。

亀田:そうやって、なんかわかんないけど僕のお父さんのラッシュアワーが緩和される!とか、世の中の役に立つんじゃないかみたいな。

その時も時刻表で学んだ1分1キロとか、あとは、だいたい車両って20メートルで10両編成で200メートル、ということは駅で使う土地の量は200メーター×20みたいな、そういうことをコンピューターもSimCityみたいなゲームもない時にアナログで自分の頭でやっていました。

染谷:ただ妄想でやるのではなくて、きちんと数字を基にシミュレーションしているというのがすごいですね。

廣木:そういう打ち込むというか、自分の中で色々作り込むというお話は、多分この後も聞けるのかと思いますが。

亀田:そうなんです!出てきます!

廣木:それはまたお聞きしたいですね。ではもう頭の中に地図が入っているし、今日は車で来られましたけれども、ナビなしで来られたんですか?

亀田:ナビはいらない!ナビは渋滞とか、ヤバイ時だけしか使わないです。妻とドライブすると、もう妻がハラハラするわけです。

「あんた今からどこ行くのかわかってるの?なんでこの方向に行けるの!?」って。

「いやいや、だいたいこっちだから」って。東西南北みたいなこととか、東京もそうだし、日本の中にどういう町が位置しているかというのがわかっているので、極端な話、飛騨高山に行こうみたいな時も自分で地図なしで行けます。行っちゃいます!

染谷:すごいな。

亀田:想像するのが好きなんですよね。あとちょっと間違えたりするのも楽しくて。例えば飛騨高山まであと120キロというと、じゃあ2時間ちょっとで着くなとか。そういうことを考えながら。ずーっともうそういう世界。音楽作っている時もそう。

染谷:そういう地図というか、設計図みたいなものがいつも頭の中でセットされているような感覚があるということですね。

亀田:そうですね。そこが何か自分のクリエイターというかプロデューサーというか、どこのジャンルに入るのかはわからないけれども、常に本能的に時間を逆算したりだとか、そういうことが苦も無くできる。それは時刻表のおかげです。

廣木:じゃあ本当に原点なんですね。

染谷:プロデューサーの亀田さんをつくった原点。では次の本も見てみましょうか。

わたしを形づくった本たち2冊目 怪人二十面相

廣木:次は10歳のころ。

『怪人二十面相』明智探偵と小林少年、警視庁、戦後の東京の街。リアルがかっこよくて、自分でも探偵事務所を自分の部屋に作りました。

亀田:すぐに作っちゃうんですよ。もう僕は明智探偵の気持ちなわけです。

正直に言うと、当時住んでいた平屋の屋根裏に探偵事務所を作りました。探偵事務所だから外からバレたくないんですよ。

誰も僕のこと見てないんですけどね。

こういう推理小説を読むと、屋根裏部屋の行き方みたいなのが「台所に一番近い押入れの手前の屋根が配電とかで開くようになっている」とかって書いてあって、その通りにやったら開いちゃって。

自分でメモ帳とか懐中電灯とか探偵グッズを持ち込むんです。あとは街で「あの人、怪しい」と勝手に思い込んで尾行するんですよ。

小学校3年生くらいですよ。尾行してその人のことをずっとつけて行ったりとか。

『怪人二十面相』はすごく面白くて、映画でいうところの裕次郎さんとか、ああいう世界。

第二次世界大戦後に焼け野原になった東京から立ち上がっていくエネルギーみたいなものをすごく感じて、そこに日本流のアルセーヌルパンとか、エドガー・アラン・ポーとかそういう、うまい日本の情緒がブレンドされていて、むっちゃくちゃ響きました。

染谷:この本はご両親に薦められたんですか?それともご自身で本屋とかで見つけたんですか?

亀田:本屋さんに行くのが好きで、本屋の匂いが好きなんですよ。

紙と本が集まっている匂い。

あと本屋さんて白くて明るいじゃないですか。なんかそういうところが好きで。

うちの両親は厳しいところもあるんですけど、本に関してはいくらでもお小遣いをくれました。

自分でハマる本を見つけるとそこに入っていけるわけですよ。だから『怪人二十面相』も、1巻・2巻・3巻と全巻揃えていきました。

これ親御さんはお子さんに本当に自由にさせてあげてほしいんだけど、こういうシリーズ物の良いところって、どんどん読むスピードが上がっていくんですよ。

例えば、明智探偵と小林少年とか、怪人二十面相って意外と人情もろいところあるじゃん!みたいな。

子供ながらにも、本の中にある色々な景色や人間模様みたいなものをすごく健全な形でイメージできるようになりましたね。

染谷:ご自宅の近くに本屋さんがあって、通うようになって、読むようになって。

亀田:大阪の千里山という駅前に田村書店というのがあって。

今はあるかわからないんだけど、本当に通っていました。学習参考書も買うし、時刻表も買うし、この『怪人二十面相』も買う。

廣木:そうすると、本は買う専門で図書館はあまり使ったことがないですか?

亀田:図書館に関してはまた違う出会いが思春期にあるんですよ。

廣木:それでは、後にしますか。

亀田:後で聞いてね。

廣木:じゃあ次の本いきましょう。

わたしを形づくった本たち3冊目 南総里見八犬伝

亀田:来た!

廣木:11歳。『南総里見八犬伝』テレビでやっていたNHKの夕方の人形劇「新八犬伝」を観て、原作を読んでみたくなりました。浦安とか、館山とか地名が出てきて、お小遣いで電車に乗って聖地巡りの探索に行きました。全然わからない古文を想像で読むという勉強にもなりました。

亀田:そうなんです。当時「新八犬伝」という辻村寿三郎さんの人形劇で、NHKかな?教育番組かグラウンドは忘れたけど、夕方の美味しい時間帯に人形劇が毎日5分10分あったんですが、それが面白くて。

いわゆる江戸時代の末期、終盤の娯楽本なんですよ。その中で繰り広げられるファンタジーというか。要するに、これ誤解を恐れずに言うと「江戸時代版ハリーポッター」みたいな感じなの。

今子供たちとハリーポッターを見ていると、僕の時代は『南総里見八犬伝』だったんだなと。

これも親御さんは子供たちに対して何もせずにほっといてあげてほしいんですが、テレビで見ていたのは「新八犬伝」。

曲亭馬琴が書いている『南総里見八犬伝』はやや今の言葉には近づいているんですけど、古文で書かれているんですよ。

その古文をよくわかんないけど、テレビでも人形劇でも見ていてストーリーが入っているから、想像して、これはこういう言い回しかなっていう。

「何とかに如かず」とか言われても、もしかしてそういうことなのかなと想像で意味を読み図っていくみたいな。

そういう技能というかそういう自分の知能を開拓みたいなのが小学校5年生でできたのはすごく大きかったです。

染谷:さっきの話もそうですけど、興味のあるトピックスを自分で見つけた時に、亀田さんはどんどん学び方を自分で見つけていくというか、どんどん前に進んでいきますよね。

亀田:そうなんです。スーパー自己流なんですよ。

自己流で、わからなかったら誰かに教えてもらったりするんですけど、入っていく時は本当に自分が好きと思えるかということが一番大事で、面白いとか好きであればその先も行きたくなる。自分の中ではこの時代に、この歳に『南総里見八犬伝』に出会って良かったなと思います。本当に聖地巡りしたんですよ。

当時、練馬の江古田というところに住んでいたんですが、浦安とか地名が出てくると行ってみたくなっちゃって。

地下鉄東西線に乗って浦安に行くと、全然普通の街並みで。自分が思い描いていたものとは違うんだけれども、100年、200年経つと、都市というのはこうなるんだなというのを実感しました。そういうことばかりしていました。だからもう子供時代は忙しいの。

染谷:それは忙しいですね。さっきが10歳でこれが11歳でもう刻んでる。

廣木:今のところ本が、想像、創る方の創造も含めて、あと行動に直結している感じがしますけれども。

亀田:そうですね。

わたしを形づくった本たち4冊目 天才バカボン

廣木:次見てみますか。次は少し飛んで30歳。『天才バカボン』

亀田:『天才バカボン』これはリアルタイムのアニメで小学生の時に見ているんです。

当時から好きだったんですが、ひみつのアッコちゃんとか赤塚不二夫さんの作風が好きで。

ごめんね、昭和の話で。皆きょとんの人は後でウィキとかで調べてくださいね。

おそ松くんとかもそうですし、もーれつア太郎もそうで、赤塚不二夫さんが十年くらいの間にものすごいヒット作を何本も連載を抱えてという。

手塚治虫さんや皆さんもそうだったんですが、あの昭和の何をも恐れず、コンプライアンスのコの字もない。

お巡りさんもすぐに「死刑だ死刑だ!」と言ってピストルぶっぱなしますからね。

今では考えられないことを自由奔放に語られていて、最後にいろんな珍事件が、家族や町内の人たちの中で起こるんだけども、「これでいいのだ!」と言って締めるのが最強のパワーワードだと思って。これはもう僕の座右の銘ですね。

これをなんでコミックでもう一回読み直そうかと思ったのかというと、30代に入って自分が一人のミュージシャンからアレンジャーなどになって、やがてプロデューサーという立場になっていくにあたって、様々な人と向き合っていく。様々な困難や予期せぬことが起きるわけですよ。

そういう時に、どう対応していくと皆がwin-winというか、笑顔になれるかという結論を、このバカボンのパパが「これでいいのだ」と示してくれた。今でも僕の中で大変なことが起こると「これで、いいのだ」って。

染谷:プレイヤーからアレンジャーとかプロデューサーとか、キャリアが変わっていく中で、バカボンを読み直してみようと思った感じでしょうか。

亀田:そうですね。人の社会で起きることを、むちゃくちゃこの赤塚不二夫先生が面白く風刺しているんですよ。

例えば、社長さんがパイプ咥えて本当に社長らしく出てきて、「私は社長だから偉いんだ!社長は偉いぞ!」と言いながらいろんなことを命令したりとか。

そういう判で押したような社会の縮図をしっかりと批評して述べているとか、そういうところに、僕の中の様々なところを取りまとめていくというところで、真ん中の正道な道も必要ですけれども、ちょっとオルタナティブなところで「あれ?これはおかしいんじゃないの?」と投げかける目線みたいなのは、バカボンから教わりました。

あとこれは個人的なオタクっぽい話になるんですけど、赤塚不二夫先生の描く女の子かわいいんです。

ひみつのアッコちゃんも赤塚不二夫先生なんですが、バカボンのママもすごく素敵で、僕はバカボンのママも大好きです。これは諸説あるんですけど、バカボンのママはアッコちゃんじゃないかと。

染谷:ほう。え!?

亀田:ワンシーンだけ、第何巻か忘れたんですけど、女学生の時の友達に、バカボンのママが、バカボンのパパとバカボンがバカばかりするから、怒ってお家を飛び出して行った時に、町で「あら、あっちゃん久しぶり!」と呼ばれる…。

なんかそういう伏線って俺すごい好きで!もしかしたら違うかもしれないけど、僕にとっては、ひみつのアッコちゃんとバカボンのママが同一人物だと信じることによって、今、僕は生きています。

染谷:実はパラレルに繋がっているんですね。面白い。

廣木:話変わって、これ20代がないんですよね。その頃は特に本に出会わなかったんですか?

亀田:たくさん本は読んでいるはずですね。ただなんとなく分類したらこのカテゴリーに入ったということで。

逆に今回リブキューブを使って、自分はこの世代に読み忘れていた本があるんじゃないかとか、読んでいて影響を受けたんだけれども、自分の中で再確認できていないものがあるんじゃないかということに今日気づきました。

染谷:出会った年代が縦軸でわかるというのが面白いですよね。発行年月日も含めて。

亀田少年が小さい頃は家の近くに本屋さんがあって、そこに亀田さんが通われていて。

大人になってからは日常生活の中で、音楽を聴くとか映画を観るとか本を読むみたいなところでいうと、書店とか図書館は結構日常に近いところにあるんですか?それとも仕事がすごく忙しくてちょっと離れているんですか?

亀田文庫?

亀田:むっちゃくちゃ近いです。距離が開いた感じはしないですし、リアル図書館も行きますし、もちろんポチっと落とす(ダウンロードする)こともありますし、kindleとかで読む電子書籍もありますし。

様々な用途で本は読んでいますね。今でもすごい量を読みます。あとは、亀田文庫というのがあって。

トイレに…ちょっとリアルですけどね。今僕服着てますから。トイレでしゃがむじゃないですか。うちは洋式しかなくて。

で、しゃがむ。トイレの後ろに、まさにこういう(本棚)風に、トイレで本を読む時用のブックシェルフを僕は作ったんです。そこに、今回挙げているような本も入っていますし、僕が一生、ふと立ち返りたくなる時に読む本が置いてあるんです。

僕の人生における本当に大事な何十冊というのが置いてあって。こう、しゃがむ。だいたい時間は知れてますよね、5分10分。

その間毎朝、自分は自分が影響されてきた本に触れる。なので本は本当に僕の生活の中で欠かせない。トイレでは携帯とか全然見ないで本を読みます。

染谷:最初にトイレの…すみません、ディティールの話もあれなんですけど。最初にまず選ぶんですか?今日はこれかなみたいな。

亀田:その時の自分の精神状態とか、困難な時にあるだとか、その時によって違いますね。

ハッピーな状況の時もそうだし、何かあってぶれそうな時は、例えばクインシー・ジョーンズ自伝だとか自分の尊敬する先輩の言葉をもう一回見直すとか。すごいですよ!僕の亀田文庫に入っている付箋というか折り目たるや。もう本が倍くらいに膨らんでいる。折り目ばっかりで。

染谷:気分とかその時の自分のコンディションとかで選ばれているんですね。

亀田:基本的にハウツー本は読まないですね。小説であったり、創作されたものであったり、人々の自伝、岡本太郎さんの言葉も大好きですし、小澤征爾さんとかの言葉も大好きですし。

洋邦問わず、いわゆる偉人というか、何かを切り開いた人たちの言葉に触れるようにしています。

染谷:切り口が変わった質問になるんですが、多分亀田さんは音楽を聴かれる際は、きっと自分のお仕事に紐づけて、職業的な聴き方をされる部分があると思うんですけど、映画とか本とか、音楽とは違うメディアに触れる時に、仕事スイッチに繋がる感じがあるんですか?それとも単純に楽しむというか。

亀田:単純に楽しんでますね。勉強のためにこの映画を観に行こうみたいなのはなくて、それよりも、例えばスピルバーグの「ウエストサイドストーリー」はリメイクされたやつとか、いろんな批評がSNSにいっぱい入ってくるじゃないですか。良いこと悪いこといっぱい言われているんだけど、自分は良いと信じて観に行く。あとは妻や大事な人の意見を聞いて、それに踊らされるっていうのは重要ですね。

染谷:踊らされる?

亀田:どうしても、言うても50代半ばのおっさんですから。考え方が、自分の経験値に則ってという感じになっちゃうんですね。

リスクのことを考えたりだとか、そういうネガティブな側面。僕のことをスーパーポジティブだと思ってる人いると思うんですけど、意外とネガティブな部分もあって。

人に誘われたりとか、人の言うことを素直に聞くことによって、新しいものに出会える。

新しいミュージシャンやスタッフと仕事をする時もそうです。自分の今までの経験値だと、「あれどうかな?」と思うんだけど、周りが良いと言っている場合は、ぜひやってみようかなって。

そういう風に強制的に、自分を新しい今までになかったものにアジャストしていく。

言うても人って三つ子の魂百までで、そんなに変わんないの!ほんとに変わんないから、なるべく変われるチャンスがあれば、そこのアプローチをしてみる。変わるためのアプローチをするというのはすごく大事なことなんじゃないかなと思います。

染谷:これがおすすめだよと言われた時に、ちょっと違うかもと思っても、まずやってみるとか、見てみるとか。確かにそれは大事ですよね。

廣木:一方、天才バカボンみたいなオルタナティブな視点も持ちながら。

亀田:そう。穿ってみるというか。皆が正しいとか、皆が良いと言うものに対して、もちろんポップミュージックを作る者としてそこを素直に受け入れる気持ちと、赤塚不二夫先生のようなちょっと横から見る、もしくはそれを面白がっているというような、そんな視点を持つ。

いつも俯瞰で見る自分と、めちゃめちゃパッションだけで動いている自分と、両方の軸で動いている感じです。

染谷:物作りをするうえでとか、色々な人と対峙するうえで、その二つの軸が自分の中にあって、行き来できるのがやっぱりすごいですよね。

亀田:でもそういう基礎というのが、読書によってずいぶん培われているはずです。だって実際体験したりだとか、実際アクションを起こしたら問題だったり、あまりにも危険でデンジャラスなことというのが、本の中では自由自在に経験できるし、想像できますよね。

例えばそのイメージしたものが本物とはかけ離れてしまって、独り善がりなものだったとしても、何かそこに残る何かがあるような気がして、僕は本を読み続けますね。

わたしを形づくった本たち4冊目 Have Mercy!

廣木:亀田さん、もう一冊。最後は『Have Mercy!』

亀田:これはウルフマンジャックという1970年代に、アメリカを一世風靡したディスクジョッキー。

今でいうところのDJってほら、ショキショキッてレコード回す人と思うでしょ?曲を紹介して、ラジオで音楽をどんどん回していく人を当時ディスクジョッキーって言っていたんだけど。

僕が小学校6年生の時にFENというアメリカ在日米軍放送で触れて、むちゃくちゃかっこよくて。

とにかく吠えまくるの!ウルフマンというくらいだから「ホ~!」とか言いながらめちゃくちゃヒット曲からファンキーな曲から、ちょっと色っぽい曲も。

ウルフマンジャックがいてくれたおかげで、僕は清濁併せ飲む、ものすごいピュアなラブソングも好きだけど、ちょっと色っぽい、そういう世界も知ったし。

彼がラジオスタジオで手を挙げて吠えているように、僕もウルフマンのように音楽を多くの人に伝えていく、そういう人間になりたいなと。

やっぱりこの本も常に自分がいる居場所、どこの座標軸に自分がいるのかっていうことを再確認させてくれるんです。これはもう亀田文庫の中で一番読まれている本です。

FM亀田!

廣木:ラジオというとFM亀田がありましたよね。

亀田:そう。FM亀田というのも、ウルフマンジャックとかの影響で、僕は小学生の時にFENでアメリカの全米トップ40というアメリカのチャートを毎週40位から1位までカウントダウンする番組に出会って、日本では聴けない最新の洋楽チャートが聴けて、今だったら、サブスクですぐに聴けますけど、当時はそれができなくて。本当に直輸入の音楽をリアルタイムで聴くという喜びを小学校5年生の時に味わっちゃって、毎週チャートをレポート用紙にメモするようになって。

1976年から84年くらいまでの間に聴いた音楽が僕の全てを作っています。

FM亀田の話にもう一つだけ付け加えると、アメリカントップ40のチャートの通りだと、だんだん自分でフラストレーションが溜まってきて、「なんでこの曲そうでもないのにずっと1位なんだ」って何か納得いかないと思って。

「そうだ!自分でチャートを作ればいいんだ!」って、チャートを改ざんするんですよ。それで、僕は1位のサタデーナイトフィーバーのディスコの曲よりも、ずっと3位で頑張っているビリージョエルのこの曲が好きだから、この曲を1位にしたいがために、自分に自分でハガキを書いて。

ここも自分で作っちゃうんですけど、自分の部屋をFM亀田という名前で、自分の勉強部屋にラジカセとレコードを全部置いて毎週チャートメモって。

土日にその作業をするので、小学校高学年から中学校まるまるいっぱい、高校で彼女ができるまで本当に忙しい。

もうずっとチャートをくまなく。株のトレーダーみたいに。

染谷:離れられないですね。

廣木:探偵もやられていたんですもんね。

亀田:そう!探偵もして時刻表も作って。

染谷:本物のチャートも書きつつ、自分でリクエストして亀田チャートも作って。

亀田:自分はこの曲の方が皆の心を掴んでいるんじゃないかって。本当に勝手な思い込みなんですけど。

僕のことを知っている同世代のリアルタイムの友達は、僕の家に来てFM亀田のチャートとか、模造紙で作ったFM亀田の看板とか、時刻表を書いているのも見てるわけですよ。

皆に「亀田なにやってるの?」とずっと言われ続けてました。

染谷:それは友達を家に呼んで、「ビリージョエルのこの曲聴いてみろよ!」みたいな感じで、皆で聴くみたいなことも結構あったんですか?

亀田:ありました!でもね、楽しんでくれるのは2回まで。皆サッカーとかやりたいよね、そりゃね。

亀田の部屋で、しかも亀田が勝手に作ったチャートを聴かされるよりは。

染谷:「10位からだぞ!」みたいなね。でも2回までは楽しんでくれるんですね。それを中学まるまるはそれをやり続けているんですよね。

亀田:受験の時は受験勉強のために頑張りましたけど、ほとんどFM亀田だったり、読書だったり、そういったことに自分の青春を使っちゃったんですよ。だから今取り返さないと。

染谷:今のこの本の中で、たくさん好きな音楽を紹介すること、というスタンスみたいなところに惹かれたとありましたけど、やはり自分の好きなものを誰かに共有したいとか、一緒に楽しみたいみたいな思いは小学校とか中学校みたいな頃からあったんですか?

亀田:ありましたね。いわゆる生徒会みたいなこともそういう気持ちでやりましたし。批評するんじゃなくてレコメンするという立場を常に貫きたいと思っています。

面白いことを伝えると、辛口に批評していったり分析していったりすることは、すごく理にかなっていて、人々の納得感は得られるんだけれども、僕が追求したいのは、もっともっと日常の中に染み渡る、ふとあるような、生きる喜びを感じてもらいたくて。

欠点を言うのであれば、これは僕のプロデュースにも繋がってくるのですが、良いところを言って、良いところを伸ばして欠点を薄めていくという。普通は欠点を削っていくんですよ。

これはビジネスもそうなんですけど、個々の部署が売り上げが悪いと言ったらそこをカットしていくじゃないですか。ではなくて、良いところを伸ばすということに注力するというのが僕のやり方なんですね。

染谷:様々なアーティストと楽曲を造られる際も、悪いところというか、ここをもう少しみたいなところよりも、良いところを褒めるんですね。

廣木:思いがけずプロデュースのお話もお聞きできました。

日比谷音楽祭

染谷:無理やり日比谷音楽祭に繋がっているわけじゃないですけど、好きを共有したいという気持ちがやっぱりずっと続いているんですね。

亀田:日比谷音楽祭は何のためにやっているのかというと、親、子、孫3世代が楽しめるというのを(目指しています)。

リブキューブ!リブキューブを見た時に、うちのために作ってくれたんじゃないかって思うくらい。

時間の縦軸やジャンルの横軸というのをきれいになだらかに繋いでいく、そういうフェスを作りたい。音楽フェスって今本当にビッグビジネスになっていて、ちゃんとターゲットを分析して作られて、どんどん巨大化していく。

僕がやりたかったのは、様々な優れた音楽がいっぱいあって、それが世代を超えて愛されて、家族であったり子供たちであったり、そういう大事な仲間たちに人々の心の間を繋いでいく音楽体験ができる場所を作りたかった。

そこに対してどういう形が良いかなと思った時に、ニューヨークのセントラルパークでサマーステージというフリーコンサートが一夏中行われているんですが、日比谷音楽祭ほどの規模ではないんですけど、ある時は昨日音大を出たばっかりの様な、でもスーパープレイヤーだったりとか、プエルトリコから来たサルサの楽団員だったりとか、でもその次の日にはエルヴィスコステロが出たりだとか、今度はジャズのジャズメンが出たりだとか、締めはマライアキャリーが出て来たりだとか。

そういうコンサートが無料開催されていて、それを見に来るお客さんたちがニューヨーク中から、おじいちゃんとおばあちゃんが手を繋いで来たりだとか、ベビーカー押している家族が来たりだとか、ジョギング姿の若者が来たりだとか。日常の中に最高の音楽が溢れていて、それが生の音楽に触れるきっかけになる。

サブスクとかラジオとか様々な形では聴けると思うけれど、生の会場で、しかも公園という場所で、空気を感じながら聴けるという。

そのサマーステージを10年くらい前にニューヨークで体験した時に、ずっと東京でやりたいと思っていました。

そしたらば、今から6年ほど前に、日比谷公園全体を使った音楽フェスをプロデュースしてほしいと言われた時に、ニューヨークで見てきた、あの様々な音楽を皆が公園で一日中思い思いの過ごし方をしながら、しかも最高の音楽が聴けて、素晴らしい才能をもった音楽が聴けるという。

そういう音楽祭が日本でできる!ということを目指して日比谷音楽祭が開催され、そのためにも、無料開催にこだわっています。

この無料というのは、「タダだから皆来てね~」ではなくて、無料ということで、何の垣根もなく、誰もが見に来れる。ふらっと公園に立ち寄っても音楽が聴ける。そこで出会った音楽やアーティストや楽器体験みたいなことに、そこから先、コンサートに行ってお金を払ったり、作品を買ったり、楽器を習ったり、そういう新しい消費行動を作りたい。僕はこれを新しい循環と呼んでいるんですけど。

染谷:新しい循環。

亀田:音楽業界は音楽業界の中だけで頑張りすぎている気がするんです。いつの間にか一曲の楽曲を売るために、その曲ではないおまけのライブ映像とか、おまけの映像とかがメインになってきちゃったりだとか。

僕がニューヨークで見てきた景色は、単純に皆音楽に触れて音楽を必要としている。これが文化だと。今からでも僕は間に合うと思って日比谷音楽祭を立ち上げました。

この図書館流通センターさんも、僕ととある縁で出会ったんですけれども、細川前社長に出会って、細川さんもロックンローラーですよね。

染谷:ロック好きですね。

亀田:行き過ぎてるんじゃないかってくらい。でも話が弾んで、僕がお話したのは、無料で開かれた日比谷音楽祭の理念というのは、図書館の無料で様々な本に出会うという、本の出会いと音楽の出会いは非常に親和性があるのではないかということで、お話させてもらいました。

図書館流通センターさんと毎回いろんな企画を立てて、今年はこのリブキューブということですね。

廣木:日比谷音楽祭の在り方と、図書館そのものの在り方っていうのは非常に親和性があるというか。本と音楽という違いはあるにせよ同じことを目標としている。

亀田:入口を広く、そしてお金はかからず、なるべく幅広くジャンルを網羅していくという。本当に素敵だなと。

一番初めにここに来させていただいた時も、すごく話が弾んだのを覚えています。

廣木:さらに言うと、この日比谷音楽祭のステートメントの中で、「私たちの中にある、こうあるべき、これまでこうだった、これが自分といった枠は超えていける。

音楽の楽しみ方の音楽の届け方はもっと自由になっていい」という話があって、これは僕らが図書館からどうもっと自由な枠に、もっと本に自由に触れ合えてもらうかというのを考えようとしていることとも似ているなと思いました。

亀田:同じ志を持っている人たちに出会えるとやはり勇気もらえますよね。

この勇気をコツコツと積み重ねていくことによって僕は新しいものを生み、文化っていうとすごくふわってするけど文化って本当にそういうことだと思うんですよね。

ちゃんと心の根っこのところにあって生活の中で皆が共有できて、辛い時、困った時、そこからエネルギーをもらい、元気で楽しい時はそこにちゃんと還元していくという。

そういう循環を僕はこの日比谷音楽祭を通じて作っていきたいなと思っています。6月3日、4日5日に開催されるんですけど、楽しみで、もう2週間ですね。

皆さん日比谷音楽祭無料で本当に大丈夫?と思っている人も多いと思うんですけど、さっきお話させていただいたような、図書館流通センターさんもそうですし、様々な企業の方が応援してくださっています。

次世代の文化を創っていくには、今まではこの社会、このテリトリーの中で結託していくというのだったのが、もうそういうのを超えて、文化のために協力し合おうという開かれた時代がまさに来ようとしています。

あとはクラウドファンディングをやっているのですが、一般の方々の本当にコロナ禍に入って以降、エンタテインメントを心から復活を望む気持ち、応援してくれている気持ちというのが伝わってきました。

特に日本は、いわゆる寄付文化がなく、なかなか税制上も難しかったりするので、クラウドファンディングによってたくさんの人に日比谷音楽祭を知ってもらい、そして応援してもらう。

そして少量の支援だとしてもそれがたくさん集まることによって音楽祭が開催されるということと未来へ応援団が繋がっていくと思っているんです。

そういった意味でクラウドファンディングもやってますので、ぜひ皆さんのクラファンの方もホームページを見るとすぐに見れるので。

あと僕のツイッターをフォローするともう毎日クラファンのことが出ますのでぜひ見てください!

廣木:金額も結構お安めのものから始まっているので、パッと応援できますね。

亀田:クラファンって面白くて、小学校や中学校の同級生からメッセージ付きで来たりするんですよ。何年も会ってないのに。

で事務局が、「この人、亀田頑張れよ!とメッセージ書いてきた!亀田って呼ぶ人いるんですね!」って。「うわ~これクラスメイトだ~!」って。

だけど皆で作っていくことによって、新しい出会いと、今までの出会いがもう一回不思議なところで結び付くというのがすごく不思議で。

今回リブキューブでの本の出会いとかもそうなんですけど、なんかこの出会いのサイクルというのを大切にしていけると、人生ってすごく豊かになるのではないかと思いますね。

染谷:それが今度2週間後の日比谷音楽祭でいろんな形が見れると良いですね。

亀田:きっとあると思います。最高の音楽もセットリストやばいよ!本当に!言いたくてしょうがないんだけど、これはネタバレになるので言えないです。

染谷:出演者の方々も亀田さんが全部、この方に出てほしいとお願いされたんですか?

亀田:全部直接オファーです。例えば今だったら、コロナ禍の状況が良くなってきたんだけど、まだこういう状況だよね、じゃあ今伝えたいメッセージってなんだろうとか。

あとは、アーティストの方からはヨーロッパでは今ウクライナで戦争が起きているのでそこに対して日比谷音楽祭できることというのは、自分たちは音楽しかないので音楽で伝えていきたいという。

なんかそういう誰をも排除せず、誰をも破壊せず、でも皆の心を一つにしていけるのがやっぱり音楽だったり、スポーツもその側面はありますけどね。と思って僕は信じてやっています。こういう時こそ日比谷音楽祭というかその音楽の力を皆でシェアできる場所っていうのが必要なのではないかなと思います。

染谷:亀田さんのいろんな本の話からプロデュースの話になって、日比谷音楽祭のお話まで聞けました。

亀田誠治と図書館

廣木:一個、お忘れになっているかもしれないですけど、図書館の話を。

亀田:図書館ね!図書館に一番出入りしたのは…これは映画のワンシーンみたいですよ?要するにね、デートですよ。

染谷:おぉ!

亀田:好きな女の子ができて。高校生の時に図書館に行って、お互いに本を選んで、読んで、あの本面白かったよとか言って、また返しに行くのも楽しかったりとか。そういう甘酸っぱい思い出が図書館にはありますね。

あと僕は大学付属の高校に行っていたので、大学の図書館でよく勉強していました。これが非常に捗るんですね。

なので受験勉強を図書館でやるというのもあったし。まぁでも、図書館には甘酸っぱ~い思い出しかなかったかな。

あと子供がちっちゃい時に絵本をよく借り行きました。今でも妻は地元の図書館で、世田谷の鎌田図書館とかね。

妻が何の本読んでいるだろうと、パッと背表紙見たらば、図書館のコードとかが載っていて。図書館は本当に様々な形がありますよね。ちょっとした癒しのスペース、くつろぎのスペースにもなるし。

廣木:今図書館は図書館単体というよりも、いろんな要素“図書館×何か”といういろんなパーツとくっつくことが多くて、その中、今新しくこれからの時代に必要な“図書館×何”というのは何だろうとかというのを今、探す旅に2人で出ていますので。今度は3人で。

亀田:3人で今度は旅に出ましょう!まあずっと続く旅かもしれないし、それだけ本というものの持つ力ってすごいと思いません?だって字ですよ。

文字から想像して、いろんな恋愛のことか、いろんな思想であるとかということを全部が表現できる。さっき甘酸っぱいなんて話をしましたけれども、甘酸っぱいような、自分がそういう恋愛や生活をしてきたとは断言はできないけれども、やはり、すごく多感な頃に本からそういった恋愛であったりだとか、別れだったりとか。

もっと言うと、僕太宰が好きだったので、生きることの難しさや死別とか人の弱さみたいなものもすごく学びました。そういえば太宰はリブキューブに入ってなかったですね。

廣木:太宰は20代の頃?

亀田:太宰は中学生の時。でも太宰に関して一言だけいいですか?皆暗いとかいうでしょ?でも全然そんなことなくて、本当にきらっとした、端正な文章で、でも情景とか景色の切り取り方がすごく素敵。

「ろまん灯篭」とか。重たいやつも確かにあるんだけれども。すぐ飛び込んでしまったりだとかそういうのもあるけれど、本当に心が安定している時の短編集を読むと、生きる知恵になります。

僕はちなみに「令嬢アユ」というのがすごく好きで、僕はその令嬢アユちゃんに、僕も太宰と同じように恋をするんです。でもそのアユちゃんにはある結末がある。本当に10ページくらいの短編なの。でもむっちゃくちゃ良くて。太宰のことまで話してしまった。去年リアルで選書する方で選んだからだ!

廣木:リアルは今、日比谷図書文化館で今やってます。

亀田:そこに僕が選んだ太宰があります。

染谷:ありがとうございます。

廣木:今回5冊選んでいただいて、コメントを読んで、なるほどなと思ったんですけど、今日やっぱりお話聞くと「わたしを形づくった本」本当の5冊だったなと思いましたし、本を読むということが、そこからこれだけ広がるんだというむちゃくちゃ美しい読書の在り方のお話を聞けて本当に良かったですね。

亀田:良かったです。ありがとうございます。

何を感じ取るのか、何を自分の糧にするかというかということがすごく大事

染谷:YouTubeで聴いてくださっている方もいるので、もう少しだけいいですか?

亀田:もちろんです。

染谷:今見てくださっている方、もし質問があれば。会場の皆さんもご質問があればぜひこの機会ですから。僕もちょっと一つだけ聞いてもいいですか。

亀田:はい。

染谷:さっき音楽とスポーツの構造が似ているという話がありましたが、演奏している方がいてとか、サッカーの試合を何万人が一緒に楽しむ。

本はどちらかというと一人で読むものだと思うんですけど、音楽とかスポーツのような一体感というのはなかなかも作るのが難しいと思っているんですけど、その辺りはメディアの違いだと思いますが、一体感みたいなところはどういう風に作っていけば良いのかなと。

亀田:一体感というのは何でしょうね。一体感を作るためにきっとアワードのようなものがあると思うんですね。何とか賞とか。

でもそこだけだとやっぱり限定されてしまうんですよ。音楽もそうですけど古くからある名曲にも良いものはあるし、新しいのも良いっていうのって、やっぱり一体感、これじゃないですか?リブキューブ!これでいけと。

染谷:何万人が同時に楽しむものではなくて、例えば太宰だったら時を超えてずっと、クラシックなものが読まれ続けてきたようにということでしょうか。

亀田:縦の軸に関してはそうだし、でも横の軸だって、こうやって”Sing Along”はしてないけども、心の中での”Sing Along”はきっと生まれているはずなんですよ。

なので、そういった意味では一体感をどう形作っていくかというだけの違いで、僕は本も同じだと思います。一つだけ言えるのは、スポーツと音楽に関しては言葉がいらない、言葉を超えて感動できるというのがあります。

読書に関してはその言語に対してのアプローチが必要だというのがある、というのを今自分が話して気が付いていたけど、でもその言語のアプローチがあるということは、その言語に対するドメスティックな、歴史とか触覚みたいなものがきっとトッピングされていて、本ならではの伝え方ができるんじゃないのかなと思います。

後は、本から派生して生まれていく映画や様々なものがあるじゃないですか。なのでやっぱり大事ですよ。

僕も、今映画やミュージカルの音楽を作るようになってきましたけど、本当に始めにいただく脚本が重要で、一番大事なのは、本でも音楽でもスポーツでもそうだけど、何を感じ取るのか、何をこう自己肯定というか、自分の糧にするかというかということがすごく大事だと思います。

そういうチャンスを与えてくれるのが本であったりスポーツであったり、アートもそうかな、だから文化ですよそれが。そういう風に思っています。

染谷:ありがとうございます。すごい今のお話は胸に響きました。最後に一個だけ、せっかくなので配信の視聴者の方からの質問を。

「フライパンで頭をぶん殴られて衝撃を受けたような一文があれば教えていただきたいです。」ぱっと思い浮かぶフレーズとかがあれば、今まで、過去の「これでいいのだ」という話もそうですけど、今もずっと残っている衝撃的な一文とか。

亀田:衝撃的な一文ね…。

染谷:難しいですね、そう言われてみると。僕も今ちょっと自分で考えているけど…。

亀田:いわゆるあれですよね、この文章が自分を支えて、自分の人生を変えた、みたいな。なんでしょうね。ちょっと難しいかな。

ちなみにこれつぶさに正しいかどうかはわからないですが、ここに挙げようと思っていて挙げていない。僕ね、自伝って好きなんですよ。名プロデューサーのクインシー・ジョーンズ自伝っていうのがあるんですけど。

クインシーがその中で、「自分(プロデューサー)に主体性がない時、アーティストがそれを見抜く。」というのが僕の中ではすごく響いています。

だから、レコードメーカーの人とかが伝えてくれというのも、自分の中でストンと落ちて、かみ砕いて、納得した状態じゃないと絶対に伝えてはいけないし、音楽を聴いていても、「あれ、ここイマイチかな」と思っているのに、「いいね!」なんて言ってしまうとそれはダメなんですよ。

「いいね。でも、ここちょっと惜しいね」などと言う。そういう自分の感覚に責任と自信を持つということをクインシーの文章は教えてくれたかな。

染谷:今の一文は聞いてる側の誰しもがぐっとくるようなお話ですね。

亀田:特に僕の関わる、携わるアーティストの方はやはり個性的な人が多いので、そういう人とピリピリしないで、もちろん楽しくやるんですけども、その中でコミュニケーションを取っていくためには絶対に相手に変に寄り添って良い顔をするのではなくて、自分の思っていることをちゃんと、しかし友好的に伝えていくというのがすごく重要だなと思います。

染谷:今の話は本当に何かものを作ったり、プロデュースする際のすごく指針になる考え方ですね。良い話をありがとうございます。

じゃあ時間も過ぎてしまいましたので、そろそろ締めていきましょうか。ありがとうございます。

亀田:もう一個だけいきましょうか、まだ大丈夫ですよ。

染谷:何かこの会場で聞いてみたい質問がある方はいますか。

観覧者:素敵なお話をありがとうございました。私は自分が好きな本に、主題歌をつけるのが好きなのですが、その本にはこの曲が合うんじゃないか、例えば中学校の時、必ず試験前になるとなぜか三国志演義を読みたくなって、試験勉強そっちのけで読むんです。

赤壁の戦いだとベタですけどレッドツェッペリンの「Achilles Last Stand」なので、亀田さんの中に、この本を読む時はこの曲がおすすめというようなものがあれば教えていただきたいです。

亀田:主題歌をつけるということは今まではやったことがなくて、やってみたいですね。逆で、新しい音楽が鳴り始めるという感じですね。

なのでどうしてもいろんなものにきっかけやヒントを、ヒントというか、種を求めていて、その種を常に探してしまっているのだと思います。

なので、観覧者さんのおっしゃっているように、形で花をいきなり持ってくるのではなくて、何か種が出てくるというみたいな状況、のような気持ちだと思います。

でも、ちょっと今の発想面白いので、何かそういうプレイリストとか、一緒に作ったりすると面白くないですか。面白いですよ、斜め軸のようなものが必要になるかもしれないけど。本と音楽、それだけ親和性があるというんだったら。やるか!

染谷:やりましょうか。ありがとうございます。では今は本を読みながら、音楽が、既存の曲ではなくて、メロディーというか、新しい自分の中の…。

亀田:常に探しています。本当に。何か新しいものを。純粋にゼロから生まれるということはなかなか難しいんですけど、その回路をとにかく鈍らせないようにしています。

なので移動する時も必ず70年代の音楽と最新のヒット曲がサブスクで流れるようになっているんですけど、自動的に車に入るとBluetoothに接続されるんだけど、そういう毎日を過ごしてます。

好き!とにかく音楽を聴くのが。演奏も好きですよ。演奏も好きだけど、本当にそのFM亀田の時代から音楽を聴くのが好きです。

嫌いになったことがない。よくあるんですよ。プロとか目指していて嫌になったこととかありますかって聞かれること。一回もないです。

染谷:音楽ファンである自分がずっといるんですね。

亀田:そうです。まずは、音楽ファンなんですよね。

染谷:ドライブしていて例えば、すごく気持ち良いドライブの道で、「ここに合うのはこれだな」みたいな感じでセレクトすることはありますか?基本は70年代か最新の曲を聴くんですか?

亀田:そうですね、良いことを聞いてくれました。大学生時代、僕もその中高で培ったFM亀田の膨大なアーカイブがあって、デートをする時には亀田に頼めと。

しかも「この子とこの子付き合ってんのか!」というのを知りながら、「どこ行くの?」とか聞いて、「ちょっと沖縄の方に行こうかな」と。

「じゃあ、南の海に合うのがいいね」みたいな。なんかそういう風に選んであげてね、やっていましたね。

染谷:依頼してもらって、じゃあ1曲名これでみたいな。

亀田:でもね、依頼されて動くのって好きみたい。「いやいや、クリエイトするっていうのはそういうことじゃないでしょ、頼まれてじゃないでしょ」とよく言われるんですけどね、僕は頼まれてものを作るのも大好きです。

注文いっぱいとかも大好き。それでダメ出しも大好き。皆さん仕事にも応用してください。不思議なんですけど、ダメ出しされるとなんかダメ出しをした上司とかね、その顔の見えないクライアントに対して一瞬むっとすることはあるんですけど、でもね、そのダメ出しをしっかりやってみると実は前よりよくなっているということがあるんです。僕は自分も作品を作っている時にはそうなります。

アーティストだけではなくて、例えば映画のプロデュース、様々な人から意見が来て、これ全部応えるの?みたいな感じになるんだけど、意外とでもよくよく見ていくと皆もこう同じところを物足りないと思っていたりとか、なるほどと。

その中でも自分が心から思っていることを投入していかないと、またこれもこれで玉砕してしまうというみたいな。なのでもう、ほんと終わりなき旅ですね。なんかミスチルみたいになってしまいましたけど。でもそこが楽しい。

染谷:クライアントのその満足というか、ミックステープを頼んでくれた友達と、みたいなね。

亀田:おんなじおんなじ。「え、人の満足のためじゃなくて自分の満足のためにやってるんじゃない?」と本当に学生の時に言われていたけど、人の満足が僕の満足でもあったりするし。

なので僕はとにかく音楽が例えば今日いらっしゃる人、このYoutubeを見られている方、この隙間に全部音楽が共通して染みわたっていくと良いなと思っています。

廣木:じゃあ、最後に一個だけ。音楽家の方に出ていただくのは亀田さん二人目なのですが、ちょっとお願いしていることがあって、“Music for Library”というのを作ろうと思っているんですよ。

それが多分図書館で読書する時のサウンドトラックになるんですけど、亀田さんにもお願いしてもよろしいですか。

亀田;BGMということですか?

廣木:そうです。

亀田:もちろんです。あの、容赦しませんよ。「はかどる~!」という人と「はかどらね~!」という人が、今日ちょっと図書館に行こうかなみたいな。

でもあの僕の描いた、例えば、図書館で甘酸っぱい時間を過ごしたり、後は今日お話したこの縦軸横軸の話とかなんかでも、そういうの考えるの好きなんですよ。というか、人に頼まれるのが好きで。なのでやりましょう。

廣木:ありがとうございます。

染谷:いや、ほんとわくわくしました今日。

亀田;約束しちゃいましたね。

染谷:では、ちょうどお時間も過ぎましたので、今日はたっぷり亀田さんにお話いただきました。ありがとうございました。

亀田:楽しかったです。ありがとうございました。

染谷:それでは、配信の方もありがとうございました。さようなら。