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【かんがえること】 第5回 亀田誠治の語ることについて考えること 

染谷拓郎の考えること


神回、という言葉を使うことはあまりないけれど、たしかにこの夜の亀田さんのお話は、僕やプロジェクトメンバーに響くものがたくさんあった。

前半のリブキューブに絡めた本の紹介では、「亀田流 好奇心の育て方」のオンパレード。自己流や自分なりのメソッドでどんどんそれを突き詰め、妄想力と想像力を駆使して、自分の世界を少しずつ面白いものにしていく。

亀田さんの体験してきた「おもしろがり力」には法則化できることと、できないことがあるだろう。なにより、それぞれが自分なりの「おもしろがり方」を確立することが大切だ。無数のコンテンツ×自分なりのおもしろがり方=その人のシグニチャーとなっていく。

では、そのコンテンツを見つける最初のきっかけはどうしたらいいの?ということになるが、そればっかりは強制することが難しい。子供に無理やり習い事をさせても身につかないように、興味関心を押し付けることはできない。「おもしろがり力」と「おもしろ見つけ力」はあくまで別の話である。

僕にとっては、兄の部屋から聞こえる爆音のランシド、母親の本棚から勝手に借りて読んだ宮部みゆきなど、家のなかの環境を入り口にして、その先を自分なりに掘り下げていった経験がある。つまり、対象者の「おもしろ見つけ力」を身につけるために、周りが「面白いものが見つかりやすい環境」をある程度までなら用意することができるだろう。これは図書館や書店などの場でも同様に考えていくことができる。

イベントの後半戦は日比谷音楽祭を中心にプロデュースについての話が続いていく。この辺りは、企画をする人にとっては必聴の内容だ。

日比谷音楽祭は、亀田さんのNYでの音楽体験をベースに、「誰でも・無料で」楽しめる音楽フェスのあり方を模索する大きなプロジェクト。税金で運営費用が賄われる訳ではもちろんなく、企業協賛や新たなビジネスがベースとなり、利用者は無料で利用できる。

これは、新しい公共のあり方だと思う。公共の民営化というか、公も共も私も混ざっている感じ。これは、新しい図書館や本のある場所の作り方として、大きなヒント・参考になる。

でももちろん全部そのまま抽象化して活かせるわけではない。音楽やスポーツのように、言葉なしに、大人数が一斉に体験・感動できるコンテンツと違い、読書や本を探す行為はあくまで個人的な体験で、(読書会のようなものはさておき)本にまつわるコンテンツには、基本的に、一斉に体験するから良いものになるわけではないものが多い。

亀田さんの言葉を借りると、「本と音楽ではシンガロングの仕方が違う」ということだ。このあたりにも次の企画のヒントがたくさん隠れている。

改めて、何度も振り返りたい一夜だった。「図書館について語るときに我々の語ること」は、結構、すごいことになってきた。なんとか続けていきたい。


廣木響平の考えること

「幼少期の読書活動はその後の学力向上に寄与する」と言われている。

亀田さんの人生を形づくった読書体験はまさに幼少期に時刻表を読み、少年探偵団を読みながらの想像と創造のアブソリュートリー・イマジネーションから始まる。

読書することで頭の中に生まれたイマジネーションは亀田さんの中で【つくる】という行為にすぐさま移り変わり、彼は本を読むことで様々な体験に自ら身を投じる。

それが亀田誠治という人物の現在のクリエイティビティに繋がるのは間違い無いだろう。

こんな美しく感動的な読書エピソードはなかなか無いし、それにより生まれたのがこの日本を代表する音楽プロデューサーなのだから、本に関わることを生業とする我々にとってこれほど嬉しいことは無い。

話は変わって、1960年代にアメリカで急進的な黒人解放運動を行ったマルコムXという人物がいるが、彼は元々、当時の凄まじい黒人差別の中でグレにグレまくって二十歳の頃に強盗で捕まり、以降7年もの刑務所生活を送っている。

その刑務所の中で活動家たちと出会い、出所後は黒人解放のための活動を行う訳であるが、あまりにもシャープな思想と綺麗な言葉遣いにジャーナリストが彼に質問をする。

「あなたは一体どこの大学を卒業されたのですか?」マルコムXはそれに対し、こう答える「刑務所の図書館だ」と。

彼は毎日、刑務所の図書館から1冊の本を借り、刑務所の限られた明かりの中で読み、模写し、知識と言葉遣いを獲得したのである。おかげで捕まる前は2.0あった視力が出所時は0.2になったと言われている(それがあのトレードマークのメガネというわけ)

このエピソードから思うことは、どんなに差別されていても、お金がなくても、あなたにその気力さえあれば、読書、そしてそれを支える図書館はきっとあなたの人生を良い方に変えうるだけのパワーを持っているということだ。

だから図書館は人々にとって必要なのだし、人々が文明を維持するために絶対に無くてはならないものなのだと思う。

みんなその根源的な図書館のパワーを忘れて、なんか図書館をつくれば盛り上がるぞと思ってはいやしませんか?なんてことを思ってしまうが、それはさておき…

亀田さんの読書体験とそこから生まれたイマジネーションの数々はこんな話を思い出さずにはいられなかった。

そして「幼少期の読書活動はその後の学力向上に寄与する」という研究結果から、強制的な読書を子どもたちに課すような制度も世の中には存在しているのでは無いかと危惧するが、そういうことではなくて、こういう亀田さんのエピソードのような幼少期からの自然な読書体験を我々はどう実現するかを考えなければならないのだと思う。

6月3日〜5日に行われた亀田さんが実行委員長となる日比谷音楽祭。訪れた方も多いと思うが、無料で体験でき誰でも体験できる音楽フェスであり、しかも、通常の音楽フェスでは信じられないほど子どもたちが楽しんでいた。

全てが自然に体験したいと思う人たちが子どもも大人も関係なくそこに集う。意味とか思想とか押し付けなんてどこにも無い。だからこそそれを経験した人たちからきっと何かが生まれる。

そういう場所。