【考察】みさ先輩の卒業に寄せて

必死にもがき続けた日々

2019年2月14日、みさ先輩こと衛藤美彩が公式ブログで卒業を発表した。

私自身、以前は彼女のことが正直苦手だった。

鼻にかかった声や「釣り師」のひとりに数えられる握手対応。溢れちゃってる色気。冠番組で見せる「自分が自分が」という押し出しの強さ。
そして『乃木坂って、どこ?』での滝行で7thシングルヒット祈願企画なのに自分の連続選抜も願ってしまう、セルフィッシュとも思える必死さ。

また彼女のファンの方でかつては非常に攻撃的な方がおり、衛藤より握手完売実績の劣る選抜メンバーをネット上で執拗にこき下ろしていたのも私の印象を悪くした。生駒里奈や星野みなみ、市來玲奈そして(私の推しである)井上小百合あたりがその主な標的となっていた事が思い出される。


だが、どれもこれも今にして思えばやむを得ない事だったようにも思える。

彼女は、文字通り必死だった。

「ミスマガジン2011 グランプリ受賞」の肩書をひっさげて華々しく乃木坂に加入した、はずだったのに。
自分以外の92年組=白石麻衣、橋本奈々未、松村沙友理が「御三家」と呼ばれ絶対の福神として活躍する中、自身はずっとアンダー。年齢的にもいつまでアイドルでいられるかわからないのに、見えない希望。
(「アイドル寿命は二十歳そこそこまで」という常識を覆したのは乃木坂であり、衛藤自身もその体現者のひとりだ)

そんな状況で、衛藤は必死に自分のできることを全力で行ない続けた。
当時のアンダーに与えられた場、それは握手とブログのふたつだけ。
彼女は腐ることなくそのふたつに向き合い、着実に握手売り上げを伸ばし続ける。

目に見える唯一の人気指標と言っていい握手売り上げを伸ばすこと以外、選抜に入る道はない。
そう心を定めた彼女のファンも懸命に買い支え、いつしか彼女の完売速度は福神人気メンバーに次ぐほど上がっていた。

ファンの方も「ここまで完売実績を作ったのにずっとアンダーなのはなぜだ」と感じ、攻撃的になったのも無理からぬことと思われる。


しかし6枚目シングルの『ガールズルール』で最大の試練が訪れる。

御三家フロント。
5枚続いた生生星(生駒里奈、生田絵梨花、星野みなみ)のフレッシュさから綺麗なお姉さん路線に舵を切った乃木坂。それにもかかわらず自分はアンダーのまま。同学年の3人との、絶望的とも思える差。

苦悩も怒りも葛藤も、言い尽くせぬほどのものがあったことは想像に難くない。


ただ、ここで彼女もファンも諦めなかった。

さらに握手会の完売速度を上げたのだ。

それが功を奏したか、ついに扉が開く。7th『バレッタ』で悲願の初選抜。
8th『気づいたら片想い』で一度アンダーに落ちるものの、そこではアンダーライブ・シーズン0を見事成功へと導く。彼女の裏代表曲『ビー玉模様』が生まれたのもこの時である。

私個人の彼女に対する苦手意識を払拭したのもこの期間のことだった。

『のぎ天』。
楽天TVの無料ネット配信番組。とはいえアンダーにとって喉から手が出るほど欲しかった活躍の場。だがこれまで冠番組にさえろくに呼んでもらえなかったアンダーメンバーたちには、悲しいかな番組を盛り上げるスキルが備わっていないのが実情だった。

そこで獅子奮迅の働きを見せていたのが、他ならぬ衛藤だった。

番組をまわし、すべてのメンバーに気を配ってコメントを引き出し、ボーリング企画ではストライク連発までして見せる。

すごいな、この人。
そう思ったのを鮮明に覚えている。

本当に頼れる姉御であり、間違いなくアンダーメンバーの精神的支柱だった。
アンダラというアンダーメンバーにとっての拠り所ができるまでの暗黒時代に離脱者を最小限に抑えることができたひとつの要因に、きっと彼女の存在もあったことだろう。


憧れのお姉さん

9thシングル『夏のFree&Easy』で堂々の選抜復帰を果たした彼女は、以降完全に選抜に定着する。
その後の活躍は周知の通りである。13thシングル『今、話したい誰かがいる』で初福神&初フロントを経験すると、卒業まで福神の座を守り通した。冠番組でも存在感を示し、今にして思えば12枚目まで福神に選ばれていなかったのが不思議なくらいである。

グループ内での序列が安定したことにより余裕が出たのであろう。必死さが徐々に和らいでからの彼女は素敵なお姉さんとしての魅力が前面に出るようになる。今では間違いなく乃木坂の綺麗なお姉さんイメージを担う立役者のひとりである。アンダー時代からアシスタントを務めていた『開運音楽堂』での自撮りアップは毎回驚くほどの美人ぶりを見せてきた。

余談だがぱっつんをやめていわゆる「今野分け」にしてからビジュアルの一般受け度が格段に上がったのは齋藤飛鳥と同じである。


いつからだろうか。

冠番組で以前のような存在感を出さなくなった彼女の姿に、そう遠くないタイミングでの卒業を予感していた。若月佑美も同じようにある時期から急速に存在感を出さなくなった。乃木坂のメンバーは優しいので、卒業を決めると自分より他の子が目立つように配慮するのかもしれない。

桜井玲香が『BRODY』誌のインタビューで言っていた「来年もごっそり行っちゃうんだろうな…」がこうして現実のものとなっていく。それは正直、辛いし怖いことだ。


ファンとしてできるのは目の前にいてくれるうちに感謝を伝えることだけかもしれない。卒業発表を見るたびにそう思う。


衛藤美彩は卒業後にどんな未来を描いているのであろう。

ビジュアル、歌唱力、演技力を高いレベルで兼ね備え「万能型」と称される彼女。それはひとつ間違えば器用貧乏になりかねない危険を秘めているということでもある。
勝手ながら今後の進路としてお勧めしたいのはアシスタントMCだ。先に述べた『のぎ天』や『開運音楽堂』さらに『NOGIBINGO! 』『プロ野球ニュース』でやれるのは実証済み。
彼女のビジュアルと気配りを活かす、最善の道ではないだろうか。

まあ在籍中は特に芝居の印象がなかった深川麻衣が今では女優としてりっぱに評価されていることを考えれば、本人の思った道を「みさ先輩」らしく歩いて行ってほしいと思う。

もう一度あの頃のように、必死で。

(2019年02月17日)


追記

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激動の年となった2019年の乃木坂46を、筆者自身が現場で見聞きし感じたレポートを中心に描き出します。

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